魔導具
状態異常回復が付与された魔導具か。
……ヤバい、ウズウズしてきた。
「コープスさん、何をそんなニヤニヤしながら魔導具を見ているのですか?」
「へっ? あー、いや、すごいなと思いまして!」
生産職好きとしては魔導具もいつかは作ってみたい物である。
鍛冶や錬成のスキル習得ができれば魔道具の勉強にも手を出してみよう。……ソニンさんに怒られるかな。
「もしかしたら、ギルドマスターは危険な依頼だということを知っていてクリスタさんにこれを渡していたんでしょうね」
「本当に、ギルドマスターは何を考えているのか分かりません。ですが、助かりました」
そこで一つ思いついたことがある。
「この魔導具って、他の人でも使えるんですか?」
「どうだろう。たぶん使えると思うけど、検証のしようがないんですよね」
「いや、検証できますよ」
僕の言葉に声を上げたのはニコラさんだった。
「あっ! グランデさん!」
「その通り!」
ヴォルドさんが毒を受けていると知っていたニコラさんが声を上げたが、他の面々はぽかんとしている。
だがこれで気づかない人たちでもなく、事態を把握したクリスタさんは食事を中断して僕とニコラさんの三人でヴォルドさんの部屋へと向かった。
ドアをノックすると返事がしたので開けたのだが――。
「ちょっと待ってください!」
「……ホームズさん、何をやってるんですか?」
部屋の中にいたのはヴォルドさんとホームズさんなのだが、いつもの衣装とは異なりブカブカで真っ黒のローブに似た衣装を身に着けている。
「……えっ、もしかしてこれが変装ですか?」
護衛として交渉組と同行すると言っていたけど、これでは逆に怪しまれるのではないだろうか。
僕の感覚が間違えているのかとクリスタさんとニコラさんを見てみたが、二人とも顔をひきつらせているのでおかしいのはあちらのようだ。
「あ、あの、ホームズ様、変装とは?」
笑いを堪えて質問をしたのはクリスタさんだ。
「ヴォルドに護衛に付くようにと頼まれまして……んっ? どうしてクリスタさんがここに?」
魔導具のことはホームズさんも知らなかったようだ。隣に立っているヴォルドさんも驚いている。
「皆さん警戒にあたっていましたし、夜も遅かったのでお伝えできてなかったんです」
というのはニコラさんの言葉だ。
そのまま説明が行われると、僕たちがこの部屋に来たことの理由にも感づいたようで、ヴォルドさんは頭を掻いていた。
「なんだか、すまんな」
「グランデさんは私達を守る為に毒を受けてしまったんです。謝ることなんてありません。むしろ、助けになれるのはとても嬉しいことですから」
微笑むクリスタさんにヴォルドさんが頭を下げた。
だが、まだヴォルドさんの毒が回復するかは分からない。
手に持っていた魔導具をクリスタさんがヴォルドさんへと手渡す。
その瞬間から中央で煌めいていた紫色の宝石が光り始めた。
「おぉ、おおぉ、こいつは、すごいな」
ヴォルドさんが魔導具を持っていない左手で握っては開いてを何度も繰り返し驚きの声を漏らしている。
入らなかった力が入るようになったのか、腕に浮き上がってくる血管が見た目にも分かるくらいに盛り上がってきた。
数秒後、右手に握られている魔導具の光が徐々に失われていくと、完全に消失した。
「……ど、どうでしたか?」
クリスタさんが息を飲んで問い掛ける。
それを見たヴォルドさんはニヤリと笑って握りこぶしを見せてきた。
「完全回復だな!」
その言葉を受けて、見守っていた全員が大きく息を吐き出した。まさかホームズさんまで緊張していたとは思わなかったけど。
ヴォルドさんはそのまま魔導具をクリスタさんに返すと、改めて両手を何度も握っては開いてを繰り返して回復を確かめている。
「いや、マジですごいぞ。冒険者ギルドのギルドマスターはこんなもんまで持っているんだな」
「私も分からなかったので驚きです」
「しかし、これで色々と憂いも無くなりますね」
「……変な心配を掛けさせてしまってすまんかったな」
「気にしないでください。無事ならそれでいいのですから」
僕としてもヴォルドさんが元気になってくれるのは嬉しい。
戦力としてもそうだけど、一番は
まあ、それが帰りの道中になることを祈るばかりだけどね。
「よし! それじゃあヴォルドさんも回復したことですし――ホームズさんの変装にテコ入れをしましょうか!」
「な、何故いきなりそうなるのですか!」
僕の提案に抗議の声をあげるホームズさんだが、これは誰がどう見てもテコ入れが必要でしょうよ!
「そんな怪しい服装じゃあ止められちゃいますよ! それに何かあった時にそれじゃあ動きづらいじゃないですか! もっとスマートに、それでいて動きやすく、バレないような変装が必要です!」
「……そ、そのような変装の技術など持っていませんよ」
ふっふっふっ、ホームズさんやヴォルドさんが持っていなくても、他の人に頼めばいいのです。
「クリスタさんとニコラさんに、お化粧をしてもらいながら女装しましょう」
「絶対に嫌です!」
「女装なら軽装でもいけますし、絶対に
「それはそうですが、私が嫌なのです!」
「でも……クリスタさんがまた怪我を負うような事態は避けなければいけませんよね?」
「それは! ……そうですが」
真剣な表情でクリスタさんへ顔を向けたホームズさんだったが……あ、あれ? なんでそんなにも顔を青ざめているのでしょうか?
「どうしたんですか、ホームズさ……ん…………えっ?」
視線の先にいるのはクリスタさんとニコラさん。その二人がまさかの満面の笑みを浮かべながらホームズさんを見つめていたのだ。
「ニコラさん! メルさんとシリカ、それとアシュリーさんもいたら呼んできてください!」
「分かりました!」
クリスタさんの指示のもと部屋を飛び出したニコラさん。
その様子を見ていたホームズさんが口を開こうとしたのだが、先んじてクリスタさんが再び口を開く。
「ホームズ様、変装は私達女性陣にお任せください。絶対にバレることのないお姿に変装させていただきます!」
「いや、それはさすがに遠慮させていただき――」
「連れてきました!」
断りを入れようとしたホームズさんの言葉を遮る形でニコラさんが入ってきた。
そこには下で食事を摂っていたメルさんとシリカさん、そしてアシュリーさんまでがやはり満面の笑みでぞろぞろとついてきている。
「……ふ、二人とも、助けてください!」
「……ご、ご愁傷様です」
「……これは、俺でも止められん」
「さあホームズ様。ここではできませんから私達の部屋に行きましょう」
クリスタさんの発言を受けてアシュリーさんとメルさんが両腕をがっちりと握り部屋を出て行ってしまう。
涙目で振り返るホームズさんに対して、僕とヴォルドさんは手を振ることしかできなかった。
「……楽しみですね」
「……小僧は面白いやつだなぁ」
だって、ヴォルドさんだって笑っているじゃないですか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます