初めての魔法

 考え込んでいたユウキを無理やり引っ張っていきながら、僕たちはカマドの外にやって来た。

 カマドにやって来た時には馬車の中で揺られており、馬車を降りた時にはカマドの中に入っていたので周辺がどうなっていたのか分からなかった。

 大きな都市だし整地された地面が広がっていると思っていたが、外に出ると少し奥には背の高い木がぽつぽつと生えており、さらに奥にはすぐに鬱蒼とした森が広がっている。

 いかにも魔獣が出てきそうな森の中を抜けて来たのかと、今更ながらに驚いてしまう。


 僕たちが今いるのは背の高い木が生えている場所、カマドと森のちょうど真ん中に位置している。ガーレッドもカバンから外に出してルルの腕の中に収まっている。


「さて、魔法の練習と言ってもただ使い方を教えるだけじゃ。ランク一ではまだまだ使い物にならんからの」

「えっ、そうなんですか?」

「火属性にしてもランク一では素材を適正温度で熱することもできん、まずは使い方を覚えてランクを上げることが重要じゃ。まあ、足りない火力は魔法石マジックストーンや他の見習いから借りればよい、気にするな」


 それは大変面倒臭いではないか。

 僕の中で魔法の使い方を覚えることはもちろん、火属性のランクアップが最重要任務になった。


「はい! どうやってランクアップするんですか!」

「たくさん魔法を使う。それだけじゃの」


 ……いや、もっと具体的な説明が欲しいんだけど。


「ユウキは周辺の警戒をしといてくれ。それで、魔獣がいたら狩れそうなら狩ってよし、一人で無理そうなら戻ってこい」

「わ、分かりました」


 ユウキの立場では護衛が依頼内容なので断ることはできない。主に森方面を警戒する立ち位置、少し離れたところへと移動した。


「とりあえず、まずは儂が魔法を使ってみるから見ておくように」

「はーい!」

「--ほい」


 変な掛け声とともに、目の前に立てた人差し指から小さな火が灯った。


「……それで、どうするんですか?」

「……んっ? じゃから、これが魔法じゃ」

「……」

「……」


 いやいやいやいや、これが魔法じゃ。って言われても!


「分かるわけないじゃないですか!」

「な、何故分からん! 火が出てるじゃろ!」

「どうやって出すのかが分からないんですよ!」

「どうやって? ……念じてるだけじゃが?」

「念じるかぁ……って、分かるかあ!」


 何だよその教え方、念じるだけで火が出せたら苦労しないじゃないか!


「と、とりあえずやってみろ!」

「……分かりました、分かりましたよ! えぇっと、火よ出ろー」


 こんなんで出たら苦労は--えっ?


 --ボワアアアアァァ!


「えっ、ちょ、めっちゃ怖いんですけど! めっちゃ出てるんですけど!」

「は、早う消さんか!」

「どどどど、どうやって消すんですか!」

「念じろ!」


 またかよ!


「き、消えろー!」


 ……き、消えた。

 ちょっと、さっき言ったことと全然違うじゃないですか!


「ランク一だから使い物にならないって言ってましたよね! 何ですか今のは!」

「わ、儂に聞かれても知らんわ!」

「教える立場の人ですよね! 知らんって言われても、僕の方が知らんわですよ!」


 誰か今の現象について分かる人はいないのか!

 ……はっ! ここには魔術師がいるではないか!


「ルル、今のが何だか分かる?」

「……えっ? 私は何も見てないよ?」


 まさかの現実逃避! しかも満面の笑みときたもんだ!


「--な、何があったんですか! まさか、魔獣ですか!」


 突然の炎と僕たちの声を聞いたユウキは慌てて戻ってきてくれた。


「いや、その、予想外の火力にてんやわんやしただけだよ、気にしないでー」

「て、てんやわんや? 何もなかったならいいけど、何かあったら必ず呼んでよね」


 明らかに疑いの目を向けていたが、ユウキは渋々先ほどの場所に戻っていった。

 んっ? よく考えたらユウキはライオネル家で魔法にも詳しいはず。隠さずに聞いた方が良かったんじゃないかと思ったのだが、僕の思考にゾラさんが口を挟んできた。


「やめておけ、おそらく小僧のスキルが関係している可能性が高い」

「あー、あれですか」

「そう、あれじゃ。こんなおかしなことはそれ以外に考えられん」


 オリジナルスキルの英雄の器、あれが関係している場合だとゾラさんでもどうしようもないよね。

 どういう風に影響が出るのか分からないのだ、他の魔法を試すのも注意が必要だろう。


「あのー、ジン? お前、今の魔法の時やけくそになってなかったか?」


 そこで口を開いたのは意外にもカズチだった。


「なんじゃカズチ、心当たりでもあるのか?」

「いえ、さすがにあそこまでの規模ではないんですが、一度外で加減せずに水属性を発動したらあたり一帯が水浸しになったことがあるんです。それと似たようなもんじゃないかと思いまして」


 ……うん、ものすごくやけくそになってたね。

 だって、ゾラさんの教え方がめちゃくちゃなんだもん。

 とりあえず火炎放射器的に出ろとか思っちゃったし。


「そ、そんな危険なイメージをしとったんか!」

「だって、念じろって言ったのはゾラさんだよね!」

「イメージしたらそれに合わせて顕現するのは当たり前じゃろ!」

「……そういう大事なことは最初に言ってください!」


 イメージ力が重要なんて初めて聞きましたよ!

 それなら僕の場合は前世の記憶もあるから変な考え方したらマジでヤバいんじゃなかろうか。下手したら世界征服とかできそうだよ。


「と、とりあえず小僧の場合はあれのせいでランク一でも何が起こるか分からん。変なイメージはせずに、必要な分だけイメージするよう心掛けるんじゃ」

「……自分が説明不足だったくせに」


 モヤモヤ感は残ってしまったが、最終的にイメージ力が重要だと分かったのは進歩だ。

 火炎放射が出た時にはマジでビビったけど、唯一ガーレッドだけは喜んでたよ。

 ……将来はあれ以上の炎を吐き出すのかな?

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