道具屋の女主人
顔を出したガーレッドは周りをキョロキョロ見回した後、見たことのない場所だと分かって僕に振り返り首を傾げた。
……か、可愛い。
「あの、えっと、その、何なんですか?」
だよね、初めてだとそうなるよね。
「この子は霊獣のガーレッドです」
「ピキュ!」
「あっ、どうも……って、違うよ! なんでカバンから出てきたのさ!」
その疑問も当然だと思い、ガーレッドが幼獣だと言うことを説明した。
「……そっか、それならしょうがないの、かな?」
「しょうがないんだよ。外に出たら思いっきり遊ばせる予定だしね」
「ピッキャー!」
無理やりユウキを納得させたのだが、ソラリヤさんは何故気づいたのだろうか。
抱えていた僕だから分かるけど、ガーレッドはカバンの中で全く動いていなかった。それこそ心配になるくらいに身動き一つしなかったのだ。
それにもかかわらず気づいたということは、何かしら感じ取るものがあったのだろう。
「珍しい霊獣じゃのう。長く生きてる婆でも、この種類は初めてじゃわい」
「えっ! ガーレッドのこと分かるんですか?」
僕たちが霊獣だと突き止めるまでに結構な苦労があったのだが、それを一目見ただけで霊獣というだけではなく種類まで分かったらしい。
「めんこいのと契約されているから分かったんじゃよ。しかし、霊獣の中でも本当に珍しい種類だから気をつけることだよ」
「そんなに珍しいんですか?」
皺だらけの手で優しくガーレッドの頭を撫でながらソラリヤさんは告げた。
「ガーレッドは--ドラゴンの霊獣じゃよ」
「……ドラゴン?」
まさかのドラゴンである。
そりゃあ大きくもなるよね、僕のことだけじゃなくここにいるみんなを乗せることもできそうだ。
でも、そうなるとクランで暮らしていけるだろうか。大きくなったら部屋に入らないんじゃないか?
「ほれ、額にこぶがあるじゃろう。これは一本角の証じゃな。背中のこぶは徐々に左右に割れていき、成獣になれば立派に翼が生えるじゃろう」
「……ガーレッド、本当にドラゴンなの?」
「ピッキャ!」
……本当らしい。
そのうち口から火を吐いたりするのかな。それならガーレッドと合作で作品を作れるかもしれないね!
「小僧、変なこと考えてるだろう」
「えっ? なんで?」
「ニヤニヤしとるぞ」
僕の考えって、ニヤニヤで分かるんだ。
だって、楽しいことを考えたら普通にやけちゃうよね。
「しかし、ドラゴンとはまた凄いのを引き当てたのう」
「そんなに凄いんですか?」
「霊獣の中でも多いのが馬や狼の種類じゃの。空を飛べるだけでも珍しいのに、ドラゴンなんてその中でも滅多に見られんぞ」
……ガーレッドがなんだって僕は構わないけど、まーた大げさなものが増えたね。
ドラゴンかぁ、ドラゴンねぇ……よーく見たら、確かにドラゴンっぽい気がする。
ゲームでよく見たドラゴンの子供と言われれば納得してしまう見た目だし。
「ドラゴンは個体の性能もじゃが、戦闘能力がずば抜けておる。悪い奴らに捕まれば悪事に使われるのは必至じゃ。いついかなる時も、一緒にいてやるようにな」
「……もちろんです」
ソラリヤさんの言葉には不思議な重みがある。
離れるつもりは毛頭ないので僕は頷きながらしっかりと答えた。
「それでよい。してゾラよ、何か買いにきたのではないか?」
「おぉ、そうじゃった! 外に出るのでポーションとマジックポーションを三つ買うぞ」
「それなら在庫もあったはずじゃ。どれどれ、ちょっと探してくるから他の物でも見ておれ」
ゆっくりと立ち上がったソラリヤさんは倉庫があるのか奥の方に行ってしまった。
特にやることもないので僕たちは店内を見て回ることにしたのだが、そこまで大きくないので見回すだけでも大抵なものは見ることができる。
「せっかくだからセール品でも見てみようか」
「そうだね。僕はあまりお金がないからちょっと気になってたんだ」
「やっぱり駆け出しだと生活はきついのか?」
「そうだね。その日を生きるのがやっとって感じだよ。でも、僕は受けれる依頼を片っ端から受けてるからなんとかなってるけど、他の駆け出しの子たちは食事を抜くこともしてるみたい」
そこまでするなら他の駆け出しもどんな依頼だって受けるべきだ。
やはりユウキは偉いと思う。元貴族とは思えない考え方だよ。
乱雑に山積みされたアイテムを一つずつ手に取りながら面白そうなものがないか物色していると、ここでもルルが声をあげた。
「あっ! これ、
……なんですかそれは?
そう思っていたのは僕だけじゃないようで、カズチも首を傾げている。
ユウキは魔導師の名門の出だけあって分かったようだ。
「魔法石は魔法を保存する機能を持ってる貴重な石なんだ。普通だとセールなんてしないものなんだけど……ここのセール品って一律大銅貨一枚だったよね?」
「本当ならそんな格安で買えるものじゃないんだよ? なんでこんなに安いのかしら」
もしかして不良品なのかと疑っていると、ポーションをカートに乗せたソラリヤさんが戻ってきた。
「ソラリヤさん、この魔法石はどうしてこんなに安いんですか?」
「それかい? それは既に魔法が保存されているんじゃが、誰も使いたがらないから売れ残ってしまったんじゃよ」
「魔法が、保存されてる?」
そんなに変な魔法が保存されてるのかと思いくっついていたメモ書きに目を向けた。
『魔法名:ポイズンアース、効果:使用者周囲の地面が毒の沼になる。解除するには使用者が毒の沼を通って沼外に出る必要あり。補足:猛毒なので注意必要!』
……誰だよ、貴重な魔法石にこんな魔法を保存したやつは!
「保存した魔法は一度使わないと空にできんのじゃ。こいつを買うなら、大量の解毒薬とポーションが必要じゃ。何ならここで買ってもいいんじゃよ?」
「遠慮します、こんな魔法はいりません」
魔法石を片付けた僕たちはゾラさんのところに戻ると、精算を済ませてカバンにポーションを突っ込んだ。
僕はガーレッドをカバンの中に戻してから店を出ようとしたのだが。
「……大銅貨一枚……魔法石……ダメだ、毒の沼をどうにかできなきゃ意味がない……」
……ちょっと、ユウキ! 買うかどうか迷わないでよ! もう行くんだよ!
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