ライオネル家

 ライオネル家っていうくらいだから貴族かなと思いながらカズチを見ると、カズチも首を傾げている。

 よかった、知らないのは僕だけじゃないみたいだ。


「ライオネル家っていうのはね、魔導師の名門なんだよ! 国の魔導師長もライオネル家の方なんだから!」


 ……おぉぅ、ルルがこんなにも興奮しているのは初めて見るよ。

 でも、国お抱えの魔導師長ってことは相当な実力者だよね。その末の子がユウキってことだけど、ならばそれこそ何故冒険者なんかになったんだろう。


「ライオネル家は魔法でのし上がった家なんだけど、僕には魔法の才があまりなかったんだ」

「だからって、期待されないなんてことあるの?」

「貴族にはよくあることなんだよ。一番上の兄上が家を継いで、優秀な二番目三番目の兄上が補佐に就く。姉上たちも貴族家に嫁いで優雅に暮らしているけど、才能がなかった僕は早い段階から切り捨てられたんだ」


 なんて酷い話なんだろう。

 お腹を痛めて産んだ子に才能がなかっただけで切り捨てるなんて、そんな家に生まれたくないよ。

 貴族だからって誰でも優雅に暮らせるわけではないんだな。生まれた順番や才能で大きく変わる生活環境……怖すぎる。


「最初は途方に暮れたけど、これも親の愛ゆえなんだ」

「切り捨てることが?」

「才能がないまま家にしがみついていると、結局居場所がなくなる。そして、いい歳になったところで路頭に迷うことになるんだ。家がギリギリまで仕事を模索してくれるのも愛だけど、早くに決断して自立させてくれるのも同じく愛なんだよ」


 子を守りたい気持ちと、子に自立を促す気持ち。

 どちらも必要なものだからこそ、ユウキは切り捨てられたことも愛だと言えるのだろう。

 この世界での普通に困惑しながらも、ユウキが悲しくないのならそれもいいのかと納得させる。


「住むところまでは援助してくれたし、そこでやりたいことを考えた時に冒険譚が好きだったからさ、冒険者になったんだ」

「それだよー!」

「えっ、あの、何が?」


 そういうのを待ってたんだよ!

 そうだよね、健全な男の子なら冒険譚とか英雄譚に憧れるよね!

 僕は健全ではないので、そんな子たちに装備品を作ってあげるのさ!


「よしよし、僕が見習いを卒業したらユウキの装備品を作らせてね! 錬成はカズチがやるからさ!」

「おい、何勝手に決めてるんだよ!」

「えっ、嫌なの?」

「嫌じゃねぇけど、こういったのは馴染みの鍛冶屋とか錬成屋があったりするから口約束で決めちゃダメなんだ」


 ほうほう、確かに口約束だと何かあった時に揚げ足を取られかねない。

 ユウキがそんなことするとは思えないけど、他のお客さんならありえるのだろう。


「ユウキは馴染みの鍛冶屋とか錬成屋ってあるの?」

「いや、僕は駆け出しだからないよ。装備も全部既製品で揃えてるんだ」

「どうだ! ならば大丈夫だろう!」

「……はぁ、その話は今度落ち着いた時にでもしよう。ユウキもごめんな、ジンはあまり常識を知らないんだ」

「僕は構わないよ。それに、見習いとはいえ『神の槌』の人に作ってもらえるならとても嬉しいよ」

「ふっふっふっ、そのうち見習いを卒業するもんね!」

「お前はまだ何もしてないだろうが!」

「これからだもーん!」

「……お前ら、黙って歩けんのか?」


 僕とカズチが言い合っていると、ゾラさんが振り向いて嘆息を漏らしている。


「すいません、棟梁」

「喋りながらの方が楽しいですよ!」

「……もうよい、着いたぞ」


 ……わーお、いつの間に着いたんだろう。

 ただただゾラさんについて歩いていたけど、裏道に入ったことにも気づかなかったよ。

 目の前の建物は石造りが多いカマドにおいて、木材をふんだんに使用した僕好みの建物だ。

 両開きの扉を開けると、中には乱雑に積み重なったセール中と書かれた棚や、商品が綺麗に並べられた棚もある。

 目の前のセール品には目もくれず、ゾラさんは奥にズカズカと進んでいく。


「おーい、おるかー、儂じゃー」


 それで伝わるのかと疑問に思っていたのだが、奥の方から初老の女性が姿を現した。


「んー? おうおう、ゾラじゃないか、よく来たねぇ」

「お久しぶりです、ソラリヤ婆」


 腰が曲がった白髪のソラリヤさんはゾラさんを見つけるとニコニコと満面の笑みで迎えてくれた。


「ソラリヤ婆、今日はアイテムを買いに来ました。それと、こっちは見習いたちと駆け出しの冒険者じゃ」

「おぉ、そうかいそうかい、みんな可愛らしい子じゃないか……んっ? んんんっ?」


 ニコニコ顔が一転、首を傾げながら真顔になったソラリヤさんは一点を見つめている。

 それは--僕が抱えているカバンだ。


「めんこいの、面白いもんを持っとるなぁ」

「あー、えぇっと、いいのかな?」


 チラリとゾラさんを見ると、仕方ないと言わんばかりに軽く頷いた。

 ずっとカバンの中というのも苦しいだろうし、許可が出たのなら一度外に出してあげた方がいいだろう。


「出ておいで、ガーレッド」

「……ピ、ピキュ?」


 ひょっこりと顔を出したガーレッドの愛らしさに微笑みながら、そういえばと思いユウキに視線を移すと目を見開いたまま固まっていた。


 ……ごめん、言うの忘れてたよ。

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