駆け出し冒険者
少年は緊張した面持ちで個室に入ってきたのだが、手と足が一緒になって前に出ていることから相当緊張しているのだと察することができた。
何故こんなにも緊張しているのかと首を傾げていると、カズチがこっそりと教えてくれた。
「カマドでは棟梁に声を掛けてもらえるだけでも光栄なんだよ」
へぇー、ゾラさんって冒険者からも尊敬されてるんだね。
……意外だなぁ。
「は、はじめまして! ユウキ・ライオネルです!」
「おう、儂が『神の槌』の棟梁のゾラ・ゴブニュじゃ。こいつらは見習いで、でかいのがカズチ・ディアン、ちっこいのがジン・コープス、女の子がルル・ソラーノじゃ」
「ちっこいのって、酷いです!」
「分かりやすいではないか!」
むむむ、やはり僕は尊敬できそうにないよ! 絶対に大きくなってやる!
「……あの、話はダリアさんから伺いました。本当に僕なんかでいいんでしょうか?」
おずおずと呟くユウキくん。気持ちは分かるけどね。
一週間前に冒険者になった駆け出しで、小さな依頼しかこなしていない。それがいきなりカマドで尊敬されているゾラさんの依頼を受けるとなれば不安にもなるよ。
「簡単な依頼じゃからの。元々駆け出しでも構わないとしていたから気にするな」
「そう、なんですね。ありがとうございます」
「なーに言ってんの! あんたが依頼を受けたんだからお礼を言うのは依頼者なのよ」
「で、でもですね、ダリアさん」
「でももくそもない! あんたは依頼をこなしてみせるって自信を持っていればいいんだから」
この二人は姉弟のようだと思ってしまった。
ダリアさんって面倒見よさそうだし弟とか妹がいそうだな。
ユウキくんはおとなしそうに見えるけど、なんで冒険者になったんだろう、少し気になる。
「まあまあ、ダリアは厳し過ぎるのではないか? ユウキだったな、よろしく頼むぞ」
「は、はい!」
その場で依頼書が受理され、ユウキくんに依頼書が渡された。
「依頼が完了できたら、儂が最後にサインをする。その依頼書をユウキが窓口に提出すれば依頼完了となり、報酬額が渡される」
「報酬額は何処から引かれるんですか?」
「一般的には依頼人が受付の時にギルドへ預けるが、儂の場合はギルドに口座があるのでそこから引かれておる」
「……ちなみに、おいくら?」
「言うかバカモン!」
「けちー」
僕とゾラさんの会話を聞いてユウキくんは固まってしまった。
出会ってからこんな感じでずっと喋っているのでカズチは慣れたみたい。ルルはまだ少し驚いているけど。
「あははっ! なんだか本当の子供みたいですよ、ゴブニュさん」
「……はぁ、小僧と喋っていると調子が狂うわい」
「えっ、それじゃあ敬いながら話しましょうか?」
「そっちの方が気持ち悪いからやめい」
……よし、言質を取りました! 僕はこれからもこの話し方を貫きますよ!
「それじゃあ、次は道具屋じゃな。見習いの勉強なんじゃ、すまんがついてきてくれ」
「も、もちろんです!」
あらら、本当に緊張してるね。これはルル以上かもしれない。
道具屋に向かいながらでもユウキくんと話してみようかな。
「儂の行きつけは少し裏道に入ったところじゃからの、出発じゃー」
「「はーい」」
「は、はーい」
「えっ、あっ、は、はーい?」
戸惑っているユウキくんの背中を押しながら僕はギルドを後にした。
カマドを歩いていて気づいた、ゾラさんって本当に尊敬されているんだな。
すれ違う人が次々に声を掛けてくる。職人以外にも冒険者や酒場の主人、住民からも声を掛けられている。
前を歩くゾラさんの背中を見つめるユウキくんの表情もそれに値した。
「ねぇねぇ、ゾラさんってそんなに凄いの?」
「えっ! ジンさんも、その、『神の槌』の見習いなんだよね?」
「そうなんだけど、クラン内じゃあおじちゃんって感じだからなぁ。それと、僕のことは呼び捨てでいいからね」
「えっと、あの、えっ? おじちゃん?」
「そうそう、近所のおじちゃん」
「あー、こいつは少し特殊だから気にしない方がいいぞ」
僕の言葉を遮るようにカズチが口を挟んできた。
しかし特殊って、僕への印象がどんどん変な方向に行っていないだろうか。
「えぇっと、カズチさん、だったよね」
「俺のことも呼び捨てでいいぞ。お前のこともユウキって呼んでいいか?」
「あっ、もちろんだよ! ジンさん……ジンも、僕のことはユウキって呼んでね!」
呼び捨てにされて何故か喜んでいるユウキを見ていると何となく友達いないのかなー、って思ってしまうのは僕だけだろうか。
素直でいい子って印象があるから友達になれたら嬉しいな。そして依頼をする時のお得意様になってくれるとさらに嬉しいなー。
「それじゃあ、ユウキはどうして冒険者になったの?」
「冒険者になった理由かぁ……僕の場合は親に何も期待されていなかったからかなぁ」
「……なんかごめん、出会った初日で聞くことじゃなかったね」
むむむ、まさかそんな暗い話が飛び出してくるとは思わないもの!
もっと英雄に憧れているとか、色んなところに旅をしたいとか、プラス思考の理由が欲しかったよ!
「あはは、気にしないでよ。僕みたいな冒険者は結構いるからさ」
「そうなの?」
「……あっ! ライオネルって、もしかしてあのライオネルですか?」
今まで黙ってついてきていたルルが突然声をあげたので内心でビックリしながら、あのライオネルが気になったので無言で視線をユウキに向ける。
苦笑を浮かべながらも口を開いてくれた。
「ルルさんの言う通り、僕はあのライオネル家の末の子なんだ」
……いや、だからあのライオネル家ってなんですか?
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