冒険者ギルド

 僕たちは最初の目的地である冒険者ギルドに向かったのだが、どうやら役所と隣接しているようですぐに到着した。

 前回は鍛冶の音と役所にしか目がいっていなかったので気づかなかったらしい。


「……ま、まぁ、役所の正面から見たら隠れるから分かりづらいよね」

「そうか? 普通気づくと思うけどな。ジンだから気づかなかったんだろ」


 ……カズチが冷たい。

 ルルの言う通り、役所を正面にしたら冒険者ギルドの建物が隠れている。……三分の一くらいだけど。


「まあまあ、ジンだから仕方ないじゃろう。ちなみに、逆側に隣接しているのは商人ギルドじゃ。『神の槌』は特殊じゃからリューネが管理しておるが、他のクランは全て商人ギルドの管轄じゃから覚えておいて損はないぞ」

「僕だからって、カズチもゾラさんも酷い! ルルだけだよ、優しくしてくれるのは」

「……あは、あはは」


 ルルの乾いた笑い声を聞きながら、ゾラさんに続いて僕たちは冒険者ギルドに足を踏み入れた。


 役所ほどではないが、それでも広大な内部は窓口が五箇所あり全ての受付に長蛇の列ができている。

 見た目に冒険者と分かる服装の人もいれば、魔法使いみたいなローブ姿の人、中には何故か上半身裸の筋骨隆々の人までいる。

 何が正解で何が間違いなのか分からない状態で、ゾラさんは奥にある別の窓口に足を向けた。


「手前の窓口は全て冒険者が依頼を受ける窓口になっておる、儂らみたいな依頼主は奥にある窓口が対応してくれるんじゃ」


 奥には依頼主用の窓口が三箇所、数は少ないが混んでいるわけではなく一人から二人が並んでいる程度だ。

 ゾラさんは一人だけが並んでいる列に並び、僕たちはその横に立つ。

 数分後、前の人も依頼が受け付けられたようで窓口から離れたのでゾラさんが前に進んだ。


「いらっしゃいませ、本日はどのようなご依頼を……って、ゴブニュさんじゃないの!」

「おっ! 久しぶりじゃのう、ダリア」


 窓口に立っていたのはゾラさんの知り合いのようだ。

 黒髪ロングの眼鏡女子は、周りにいる僕たち子供を見て一言--。


「隠し子」

「違うわい! クランの見習いたちじゃ!」

「あっはっはっ! そんなマジにならなくても分かってるわよ!」

「まったく、久しぶりに会っていきなりそれかい」


 溜息交じりに呟くゾラさんと楽しそうに笑うダリアさん。

 僕たちはと言うと、ポカンと成り行きを見守ることしかできない。


「今日は依頼ついでにこやつらに依頼方法を教えようと思ったんじゃよ」

「なるほどねー。おはようございます、私はダリア・ライズって言います」


 ダリアさんが笑顔で名乗ってくれたので、続いて僕たち三人も自己紹介を行う。

 すぐに依頼の受付に進むのかと思ったが、依頼方法についてを教えるために別の席で行おうとダリアさんが提案してくれたので、僕たちはギルドの個室へ移動することになった。

 暗に窓口でたむろするなと言うことでもあるのだろうが。

 個室にはコの字型のソファがあり、中央に机が置かれている。

 簡素で実務重視のインテリアなのだろう。


「さて、依頼方法だったよね。まずは依頼書の書き方を教えようかな。ゴブニュさん、依頼があるんだよね? それを書きながら教えようかな」

「それが良いじゃろうな」


 そう言いながらダリアさんは持っていた封筒の中から一枚の書類を取り出した。


「これが依頼書です。上から依頼者の名前、住所、職業、依頼内容、最後に報酬額になっています。依頼内容に関しては細かく書く場合もあるので備考欄がついています」

「細かく書く場合はどういったことを書けばいいとかあるんですか?」

「特にないけど、危険な依頼だった場合は高ランクの冒険者限定だったり、特定のスキル持ち限定だったりかな」


 特定のスキルかぁ。

 この世界にはどれだけのスキルがあるのだろうか。冒険者になるつもりはないけれど、この世界で生きていくなら便利なスキルは習得したいものだ。


「今回、儂の依頼は小僧が魔法の練習をしている間の護衛じゃ。カマドの外には出るがすぐ近くなので危険度は低い」


 そう言うと、名前、住所、職業の項目を埋めたゾラさんは、依頼内容のところに『簡単な護衛依頼、場所はカマド周辺、見習いの魔法練習のため一日時間を要する場合あり』と書いた。


「……これだけ?」

「その通りじゃ。この周辺には危険な魔獣もおらんし、駆け出しの冒険者でも問題なかろう。高ランク冒険者へ無駄に依頼すると金が掛かるからの」

「お金持ちのくせにー」

「いくらあってもたりんわい」


 あれだけの規模のクランなら、収入も多いけど出費も多いだろうね。

 無駄を省くのは大事だと思います。

 最後の報酬額のところには大銅貨三枚、と書いていた。


「それじゃあ説明を続けるね。書いた内容を窓口で提出、その内容を私たち職員に受理されれば発注完了です。それにしても、大銅貨三枚は高くありませんか?」

「もしかしたら一日時間をもらうかもしれんからの、その保険じゃ」

「なるほどね。それじゃあ、この依頼は駆け出しの冒険者にお願いしてもいいでしょうか?」

「構わんが、どうしてじゃ?」

「実は目をかけてる子がいるんです。一週間前に冒険者登録をしたんだけど、他の駆け出しがやらないような小さな依頼も受けてくれるいい子だから経験を積ませてあげたいんですよね」


 冒険者にも色々いるらしい。

 まあ、依頼を選べるなら実入りがいい依頼を選ぶ気持ちも分かる。けれど、それは実力に見合った仕事ならばだ。

 実入りがいいだけで実力以上の依頼を受けるのは依頼人は当然だが、自分にもプラスはないだろう。

 ダリアさんが目をかけている冒険者は身の丈にあった仕事を選んでいるんだろうな。


「今ギルドに来ているのか?」

「さっき見かけたから、探して来ていいでしょうか?」

「構わん、行ってこい」


 ゾラさんが了承したことで、ダリアさんは会釈をしてから個室を後にした。

 依頼書を見ながら僕はゾラさんに気になったことを聞いてみる。


「報酬額には目安ってあるんですか?」

「ある。もし依頼をする時に分からなければ受付に聞けば教えてくれるぞ」


 少なくてもいけないし、高くてもいけない。

 報酬額にも相応の額を提示しなければ相場が崩れてしまうのだろう。

 もし依頼することがあれば必ず職員に聞くことにしようと決めた時、ドアが開かれてダリアさんと共に一人の少年が緊張した面持ちで個室に入ってきた。

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