魔法の制御

 必要な分だけイメージするように言われたけど、具体的にはどんな感じだろう。

 ロウソクの火とか焚火とか、そんな感じだろうか。

 指を立ててイメージを膨らませる。今回のイメージはロウソクの火だ。


「小さな火、ロウソクの火〜」


 すると、指先にチリチリと火花が飛び散り小さな火が灯った。


「おぉ〜! これか!」

「ピッピキュー!」


 僕の指から火が出たのでガーレッドも嬉しいようだ。

 イメージ力で魔法をコントロールできるのであれば得意分野になるかもしれない。

 沢山のゲームをプレイしたのだ、基本は生産職に就いていたけど副次的に魔法にも触れていたからね。

 気分を良くした僕は次に水属性を試してみた。


「水だとなんになるかなぁ。蛇口……違うか。うーん……あっ! ホース!」


 ブツブツ呟いている僕に痛い視線が突き刺さっているのは知っているけど、今はそんなことを言っている場合ではない。

 鍛冶のためにも早く魔法のコントロールを覚えなければいけないのだ。


「水〜、出ろ〜」


 指先を前に突き出して念じてみる。イメージは先っちょを軽くつまんだ時の勢いだ。


「おっ! 出た出た!」


 ピューと飛び出た水は少し強い勢いで飛び出して地面を水浸しにする。

 頭の中で止まれと唱えると水もピタリと止まってくれた。


「なんじゃ、早いのう」

「コツさえ分かれば意外と簡単ですね」

「さっきはものすごい炎を出したくせにのう」

「ゾラさんの説明が足りなかったからですー」


 そうこうしながら僕は色々な属性で魔法を試すことにした。

 例えば木属性なら植物の成長を促してみたり、土属性なら落とし穴を作ってみたり、風属性なら風を吹かせてみたり。

 結果、全てが成功した。

 落とし穴や風を吹かせるくらいなら問題ないだろうと思っていたのだが、まさか植物の成長を促すことまでできるとは思わなかった。

 だって、こんなことができたら世界中の農家さんたちから顰蹙ひんしゅくを買ってしまう。


「普通はそんなことできんぞ」


 ゾラさんはそう言っていたが、実際にはできてしまったのだ。

 もしかしたらランクが上がればできることなのかもしれないが、僕のスキルは全てランク一のはず。

 英雄の器が関係しているのであれば、これは本当に恐ろしいスキルだと思う。

 ランクが上がるとどうなってしまうのだろうか。


「……まあ、考えても仕方ないか。ルルー、光属性と闇属性、それに無属性の魔法について教えてよ」

「光と闇と、無?」


 あれ、意外な反応。

 無属性って鍛冶にも錬成にも使わないからてっきり魔法に使うのだと思っていたけど、まさかないとは言わないよね。


「光と闇は私も持ってるから教えられるけど、無属性は持ってないからなぁ」


 なんだ、そういうことか。

 でもこれで無属性の使い道が本当に分からなくなってしまった。


「そっかぁ。でもとりあえず光と闇の魔法を教えてください!」

「光は本当に単純に暗い場所を明るくするの。今は明るいから分かりづらいんだけど、見ててね」


 言いながらルルは人差し指を立ててイメージを始める。

 すると、指先が微かにだが光っているのが見えた。


「今は分かりやすいように指先に光を集めているの。広範囲を明るくしたいなら範囲を指定して明るくなるイメージを作るとやりやすいかもしれないよ」


 うん、なんて分かりやすい説明なんだ。ゾラさんとは雲泥の差だよ。


「……小僧、変なことを考えておるな?」

「何も考えてませんよーだ」


 ……何故バレる!?

 僕は内心で悔しがりながら闇魔法についても聞いてみた。


「闇魔法は目眩しの効果だね。冒険者の人は魔獣に対してよく使うみたいだけど、私たちはあまり使う機会のない魔法だし練習はいらないんじゃないかな」


 目眩しか。

 確かに使う機会なんてない方がいい気がする。

 冒険者ならまだしも、僕たちにそんな機会がしょっちゅうあったら面倒臭いもんね。


「無属性かぁ。ゾラさんは無属性の使い道って分かりますか?」

「無属性は基本的に身体強化魔法と聞いたことがあるぞ」

「身体強化、何それ。それも冒険者がよく使う魔法なのかな」


 身体強化だって。それって走ったり飛んだり、それこそ剣を振ったりする筋力の強化だったりってことだよね。

 僕には全くいらない属性ではないですか。


「槌を振るうのにも力がいるからの。小僧の場合はちっこいし筋肉が付くまでは必要かもしれんの」


 うん、絶対に必要だったね。だって僕、ヒョロイもん。


「ゾラさんは無属性持ってますか?」

「儂も持っておらんの」

「カズチは?」

「いや、俺も持ってねぇや」


 うーん、この場にいる人は誰も持っていないようだ。

 ソニンさんは持っているのだろうか、今度聞いてみなければいけないな。

 そんなことを考えていると、遠くの方で何やら声が聞こえてきた。


「あれ、この声って、ユウキ?」


 確か森がある方で警戒をしていたような。


「どうやら魔獣が森から現れたみたいじゃな」

「ま、魔獣ですか! だったら早く助けに行かなきゃ!」

「なーに、大丈夫じゃろう」


 な、なんでそんなに落ち着いているんだよ、この大人は!

 冒険者とはいえ子供が魔獣に襲われているんだからすぐに助けに行くのが普通じゃないの!


「儂はユウキに言ったはずじゃ。魔獣がいたら狩れそうなら狩ってよし、一人で無理そうなら戻ってこい、とな。ユウキが一人でやれると判断したから狩っているんじゃろう。もしそうでなければ、あやつは冒険者失格じゃ」

「どういうことですか?」


 僕たちを助けるために戦ってくれているのに、何故無理をしたら冒険者失格なのだろうか。


「仮にユウキが勝てない相手に挑んで怪我をした、最悪の場合に殺されたとしよう。そうしたら依頼主である儂らはどうなると思う?」

「……間違いなく、殺されます」

「その通り。ユウキは依頼を全うできずに、儂らも死んでしまう。そんな冒険者が失格でなくてなんだと言うのだ? ユウキが狩れると判断した、それならユウキに任せるべきじゃよ」


 冒険者の世界も大変だ。

 ただ魔獣を倒せば良いだけじゃない。依頼によっては戦えると思っても、少しでも負ける要素があれば逃げて依頼人の無事を第一に考えなければならない。

 そして、それは依頼主である僕たちも同じなんだ。

 依頼したからには冒険者を信じる必要がある。信じなくて僕たちが勝手に動き回れば冒険者も守れるものが守れなくなる。

 お互いの信頼関係も依頼する時には必要になるのだ。

 僕は今後、何か依頼があればユウキにお願いできるものはお願いしたいと思った。


「……だけど、ちょっとだけ見てもいいですか? 魔獣がどう言ったものなのか見たことないので」


 ユウキが心配と言うのもあるが、魔獣というのをこの目で見てみたいというのも本音だ。

 錬金の勉強で魔素を感知するために近づくこともあるし、ユウキがいる安全な時に見ておいて損はないだろう。


「……仕方ない。しかし、儂から離れるなよ」

「はーい!」


 やった、やった! 魔獣が見れるよ!

 あっ、でも喜ぶところじゃなかったね。だって、ゾラさんが睨んでいるもの。

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