始めての魔獣

 少し小高くなった場所を超えた先、そこでユウキは魔獣と戦っていた。

 ゾラさんの言う通り素人の僕が見ても苦戦しているようには見えず、むしろ複数の魔獣の相手にして圧倒しているようだ。

 しかし、ユウキはとても不思議な動きをしている。


「……人って、普通ならあんなスピードで直角に曲がれませんよね?」

「おぉ、あれじゃよあれ」

「あれって、何がですか?」

「無属性魔法じゃ。ユウキは無属性を使ってあの動きを可能にしているんじゃよ」


 なんと! まさかこんな身近に無属性魔法の使い手がいたとは!

 闇属性以外は試すことができたし、ユウキの手が空いたら無属性についても聞いてみよう。

 それにしても、魔獣と言っても気持ち悪いものから動物みたいなもの、人に近い姿形の魔獣までいることに驚いた。

 今ユウキが対峙しているのは人に近い魔獣だ。二足歩行で片手に錆びたナイフを持って振り回している。

 その横には既に事切れた狼みたいな魔獣と馬みたいな魔獣が横たわり、奥にはドロドロの魔獣がゆっくりとユウキに近づいている。

 他にも多くの魔獣が既に倒されているのを見ると、結構前から戦っていたのかもしれない。


「ふーむ、この量はちと多すぎかのう」

「そうなんですか?」

「うむ。今の時間なら現れても二匹か三匹くらいのはずじゃが、数えただけでも十匹はいるようじゃ」


 何やら変なことでも起こっているのか分からないが、話している間にもユウキが一瞬の加速から魔獣の懐に潜り込み剣を胸へ一突き、人型魔獣は口内から鮮血を吐き出して絶命した。


「なんだか瞬間移動したみたいだね」

「無属性魔法をあれだけ使いこなしている人は初めて見たよ」

「ルルでもそうなの?」

「私が見たことあるのは単純に力を強化したり、高く飛んだり、早く走ったり、そんなところ。あれだけ機敏に動き回れるなんて知らなかったよ」


 ほほう、これは素晴らしい先生になってくれそうだ。

 そもそも魔導師の名門家にいたのだから詳しいのも当然だし、持っている属性を期待されないながらも極めようとするのも頷ける。

 早く終わらないかなと思いながら見ていると、ユウキが後方にいたドロドロ魔獣に視線を向けて懐に入れていた投げナイフを魔獣目掛けて投擲--目に止まらぬ速さで真っ直ぐに命中するとドロドロは動きを止めて固まってしまった。


「あの魔獣、どういう仕組みなんだろう」

「あれはヘドゥという魔獣で、近づいてきた相手に消化液を付着させて攻撃してくる。奴が通ってきたところを見てみろ、草が溶けているじゃろう」


 視線を奥に向けると、緑が広がる草原の中で一直線に草が溶けて土が表面に見えている場所があった。


「えっ、それじゃああのドロドロは全身が消化液ってこと?」

「その通りじゃ。遠距離攻撃を持っていない場合は危険な相手じゃが、動きも遅いので比較的楽に倒せる。ユウキのように投げナイフなどが有効じゃな」


 そうして既に倒されている魔獣についても解説してくれた。


 狼に似た見た目の魔獣はラーフ。

 四肢の爪を用いて相手に掴みかかり切り裂く、さらに鋭い牙が肉を抉り強靭な顎は骨をも砕く力を有しており、噛み付かれたら千切れるまで離さない。


 馬に似た見た目の魔獣はゴラリュ。

 太く発達した四肢が近づくものを全てなぎ倒す。踏みつければ粉砕し、蹴られれば吹き飛ばされる。逃げようとしても強靭な脚力で追い掛けられれば逃げることは叶わない。


 最後に人型魔獣のゴブリン。

 こいつはゲームにもよく出てきたからなんとなく想像はできたが、まさにその通りだった。

 僕たちと同じように武器を使うことができるくらいの知能を持っているが、それはただ振り回すくらいだ。ただし男性と女性を区別することはできるようで男性は食料、女性はいわゆる性玩具的な扱いをされるらしい。

 最後には食料として殺されてしまうのだが、捕まった女性の末路は尊厳を粉々に砕かれた上での死になってしまう。


 魔獣は発見次第倒すべき対象なのだが、人型魔獣はその最たるものとして警戒されている。


「……魔獣って、怖いね」

「当然じゃ、魔獣だからのう。だからこそ危険な場所に行ってくれる冒険者のために、儂らはより良い武具を作れるよう努力するんじゃよ」


 僕も頑張らなければいけない。

 それと、さっきは魔獣が見られると喜んでしまってごめんなさい、もうしません。

 心の中で謝っているとユウキが全ての魔獣を倒してくれた。

 十匹の魔獣をたった一人で倒してしまったのだから駆け出しとはいえユウキの実力は相当高いのではないだろうか。

 ゾラさんも驚いていたしね。


「あれ? ユウキは何をしてるんだろう」

「あれは魔獣を討伐した証拠になる部位を回収しているんじゃよ」

「それに何か意味はあるんですか?」

「魔獣討伐は冒険者ギルドが常時依頼を出している案件じゃ。都市の平和のためじゃからな。それで、討伐した魔獣の証明部位を提出すればその分の報酬が受け取れるというわけじゃ」


 証明部位は魔獣の身体の一部、その中でも小さな部位になっている。

 耳が付いている魔獣の場合は概ね耳が証明部位になるのだが、ヘドゥのように耳が付いていない魔獣の場合はギルドが指定した部位を持ち込めば問題ない。ヘドゥの場合は固まった身体の一部らしい。


「--あれ? こっちに来てたんですね」


 証明部位の回収が終わったユウキが僕たちに気づいて声を掛けてきた。

 魔獣の討伐も凄かったけど、やっぱり無属性魔法の使い方が目を引いたようでルルが少し興奮気味だ。

 魔獣の死体の間を歩くのは少し怖かったけど、僕たちはユウキの所へ移動した。

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