見送り
北門に到着した僕が見た者は、同行してくれる人たちと、見送りに来てくれた人たち。
同行してくれるのはカズチ、ユウキ、フローラの三人。
見送りに来てくれたのはゾラさん、ソニンさん、ホームズさん、ミーシュさんまで来てくれている。それに、ルルにリューネさんにダリアさん。
他にも親しくしていた『神の槌』の職人さんや、冒険者のみんなが来てくれている。
しかし、気になるのが見送りに来てくれた人の中に大荷物を持っている人がいるんだよね……それも、二人も。
「おはようございます、皆さん!」
「小僧、あまりやり過ぎるでないぞ?」
「コープス君、あまり無理をしてはいけませんよ?」
「ユウキには私の技術をこれでもかと叩き込んでいますからね」
「……みんな、心配し過ぎじゃない?」
まさか、第一声が心配の声になるとは思わなかったよ。
「寂しくなったら、いつでも戻ってくるのよ?」
「あたいの料理で、腹いっぱい食べさせてやるからね!」
「ありがとうございます。ダリアさん、ミーシュさん!」
少しだけ涙ぐんでいるダリアさんに頭を下げ、ミーシュさんには笑みを返す。
「ジン、馬車の準備はできてるよ」
「御者は私とユウキ様が交代で務めます」
「荷物も積んでるぞー」
ユウキ、フローラさん、カズチの順番で声が掛けられた。
「……ねえ、ジン君」
「ルル。えっと、その荷物はいったい?」
ルルからは事前に一緒に行きたいとかは何も聞いていない。
でも、この様子を見ると、まさかなんだが。
「わ、私も、一緒に行くよ!」
……やっぱりね。
「でも、いいの? きつい旅路になるはずだし、ルルは料理人としてミーシュさんの下で頑張ってるじゃないか」
「うん。でも、私も行きたいの。ジン君もカズチ君も、ユウキ君もフローラさんも、みんなが先に進もうとしている。……置いていかれたく、ないの」
「置いていくわけじゃ――」
「ルルのことをよろしく頼むよ!」
僕の言葉を遮るように、ミーシュさんの快活な声が聞こえてきた。それと同時に背中を強く叩かれてしまい、僕は咳き込んでしまう。
「ごほっ! ……ちょっと、ミーシュさん!」
「あははっ! ごめんよ、ジン! でもね、ルルは一人で、時間を掛けて考えた結果、一緒に行きたいと言っているんだ。これで置いていくなんて、言わないよね?」
「……料理長」
「ルル。あんたが決めたことだ、しっかりと、自信を持って、ジンたちの力になってやりなさい!」
「はい!」
……ここまで言われたら、断れるわけないじゃないか。
それに、ルルがいてくれるのは僕としても心強いし、今よりも確実に楽しい旅路になってくれるはずだ。
「分かった。一緒に行こう、ルル」
「ありがとう、ジン君!」
「こちらこそだよ。よろしくね」
僕はルルと握手を交わし、そのままユウキに声を掛けて荷物を馬車に乗せてくれるよう頼んだ。
……そして、もう一人、大荷物を持っている人がいるんだよなぁ。
「……」
「えっと、それじゃあ、行ってきますね、リューネさん」
「ちょっとおっ!? この荷物が見えないの、ジン君!」
「いや、ただニコニコと笑っているだけの人の意図なんて、察することはできませんが?」
「嘘よ! 今の発言から、私の意図を理解してくれているのは分かってるわよ! でもあえて言いましょう! 私も連れてって!」
「…………ええぇぇぇぇ~?」
「なんで嫌そうなのよ!?」
ものすごく驚いているけど、僕の反応にもちゃんと理由があるんですよ。
「いや、別に嫌ではないんですけど、国からの指示でカマドにいたんですよね。絶対に問題になりますよね?」
リューネさんは『神の槌』の……ではなく、ゾラさんとソニンさんが作る超一級品の作品を管理する仕事を国から指示されている。
国の指示を無視してついて行くって、問題以外の何ものでもないじゃないですか。
「そこは大丈夫よ! シリカに全てを叩き込んできたから!」
「ホームズさんみたいなことを言わないでくださいよ!」
「あははっ! それに、ちゃんと王都の役所にもお役御免の許可を貰っているから、安心してちょうだい!」
「うーん、いいのかなぁ」
僕としては同行者が増えるのはありがたいんだけど、『神の槌』に関わっていた人物がこうも抜けるのは迷惑にならないだろうかと心配になってしまう。
「連れていってやれ、小僧」
「……いいんですか、ゾラさん?」
心配をよそに、背中を押してくれたのはゾラさんだった。
「小僧たちは全員がまだ子供じゃ。保護者ではないが、大人が一人いるのといないのでは、各都市での扱いや信頼度が大きく変わるぞ」
「そうそう! 私もちゃんと仕事するからさ!」
「……まあ、そこまで言うなら。よろしくお願いします、リューネさん」
「もっちろんよ! あー、楽しくなりそうだなー!」
本音は絶対に最後の言葉ですよね!
「えっと……それじゃあ、皆さん。行ってきます!」
「小僧の名前が、風の噂で聞こえてくることを祈っておるぞ!」
「こちらのことは気にしないようにね!」
「コープスさん、ユウキ、行ってらっしゃい!」
みんなから声が掛けられ、僕たちは笑顔で手を振りながら、ついにカマドを出発した。
そして、僕たちのキャラバンが誕生した瞬間でもあったのだ。
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