向かう先は王都

 馬車はカマドから北へと向かっている。

 北にある都市で大きな場所と言えば一ヶ所しかないのだが、念の為だろう、リューネさんが確認をしてきた。


「北ってことは、行き先は王都でいいのかしら?」

「はい。以前にユウキと話をしていたので」

「僕の案内で王都観光でもと思っているんです」

「おっ! 楽しそうじゃないか!」

「うわー! 楽しみです!」

「私も行くのは初めてですから、とても楽しみです」


 ユウキの言葉に、カズチ、ルル、フローラさんと順番で声をあげる。


「それじゃあ、私はその間、自由行動とさせてもらおうかしら」

「一緒に行かないんですか?」

「私も元は王都出身だからね。知り合いもいるし、寄りたいところもあるのよ」


 そうだった。

 リューネさんは、王都から派遣されてカマドに来ていたんだったっけ。


「分かりました。それじゃあ、王都に着いたら別行動で」

「まあ、宿は同じ場所だし、何かあればちゃんと報告はするからね」


 ウインクしながらそう言ってくれたリューネさんに頷きながら、僕たちは馬車で進んでいく。

 正規ルートから進んでいるので一日もあれば到着できる。

 そう思っていたのだが、予想外の出来事に遭遇してしまった。


「――ぎゃああああっ!!」


 森の奥、ややルートを外れた方向から悲鳴が聞こえてきたのだ。


「ジン!」

「ここは大丈夫だから行って!」

「私も行きます!」


 即座に反応したユウキとフローラさんが飛び出していき、追い掛けてフルムが駆け出す。

 僕とリューネさんは周囲を警戒しつつ馬車の護衛だ。

 ガーレッドはいつでも飛び出せると言わんばかりに鼻息を荒くしている。


「まさか、いきなり問題と遭遇するとはな」

「さすがはジン君って感じだねー」

「……ルル、それはさすがに酷くないかな?」

「いやいや、ルルちゃんの意見はもっともだと思うわよ?」

「ビーギャー!」


 まさか、この場の全員から同意されるとは思わなかったよ。


 ユウキたちが飛び出してから数分後、茂みがガサガサと揺れるのと同時にフローラさんが姿を現した。


「フローラさん、どうだった?」

「魔獣に襲われた隊商だったようです。人への被害はなかったみたいですが、馬と馬車がやられてしまったみたいですね」

「あーららー。それじゃあ、これからの移動は難しくなるんじゃないかしら」

「それで……」

「どうしたの? ユウキはあちらの護衛をしているとか?」


 何やらフローラさんが言い難そうにしている。

 隊商と言っていたが、もしかしれ面倒な相手なのかもしれないぞ。


「もし良ければ、一緒に王都まで行ってくれないかという話なんです」

「それくらいならいいんじゃないかな?」

「ただ……少々強気な発言をされる方で、注意が必要かと」


 となれば、現段階でユウキにも色々と言っていそうだな。もしかしたら、フルムを寄こせとか言っていてもおかしくはないぞ。


「急いで向かいましょうか。ユウキとフルムが心配だね」

「なら、このキャラバンのリーダーはジン君だけど、今だけは形式的に私をリーダーにしておきましょうか」

「大人の相手は大人が、ということですか?」

「えぇ。その方が何かと都合がいいからね」

「……なんだか、すいません、リューネさん」

「いいのよー。これくらい、想定内だからね」


 リューネさんの優しさをありがたく思いながら、僕たちは茂みをかき分けて馬車を森の奥へと進めた。


 進んだ先にいたのは、五名の人物。

 やや恰幅が良く身なりも豪華な人物が一人と、その執事と思われる者が一人。残る三人は護衛だろうか。

 そのうち、護衛の一人が何やらユウキと言い合っている。


「だからよー、その霊獣を俺に売ってくれないかって言ってるんだよー」

「フルムは売り物ではありません」

「だったら、譲ってくれねえかー?」

「彼は僕の家族ですから、譲る譲らないという話にはなりません」

「……おいおい、優しく言っている今で折れておいた方がいいぜー?」


 ……助ける助けないの前に、態度がなってないじゃないか。


「ユウキ!」

「あっ! ジン、それに皆さんも」

「……おいおい、マジかよ! まだ霊獣がいるじゃねえか!」

「おぉっ! すみません、皆様方!」


 ユウキに突っかかっていた護衛を押しのけて、身なりが豪華な人物、おそらくは隊商の方だろうけど、そいつが先頭を歩いていたリューネさんの前に笑みを貼りつけて現れた。


「護衛の者が失礼をいたしました! いやはや、助けていただき誠にありがとうございます!」

「……いいえ、皆さんが無事でよかったです」


 そして、こちらもリューネさんが笑みを貼りつけて対応している。

 ……正直、驚きの対応です。お茶らけたリューネさんしか知らなかったから。


「ユウキ。フルムと一緒にこちらにいらっしゃい」

「……はい、分かりました」


 ユウキもリューネさんが仕切っている意図を察したのか、すぐにお辞儀をしてこちらに歩いてくる。

 その背を睨みつけているのは、やはり突っかかっていた護衛である。


「もしよろしければ、私たちを助けていただけないでしょうか? これでも、王都では有名な商会を営んでいるのですよ!」

「そうですねぇ……私たちの者や、霊獣にちょっかいを出さないと誓っていただければ、私は構いませんよ」


 断ると思っていたのだが、リューネさんは予想外に条件付きでならよいと口にした。


「おぉっ! ありがとうございます! もちろん、こいつらには言い聞かせますから!」

「そうですか。それでは、一緒に王都へ向かいましょう」


 お互いに笑顔を貼り付けたまま、話は終了したようだ。

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