来年に向けての話③

 食事が終わり食後のお茶を飲みながら、最後に僕が来年に向けての話を切り出した。

 ……いや、来年というか将来に向けての話になるかな。


「実は、色々な都市を見て回りたいと思っているんだ」


 ここで暴露していいのかは分からないが、ずっと隠し通せるものでもない。ならば信用できる面々がいるこの場で少しでも僕の考えを知ってもらうことは大事かもしれないと口を開いた。


「都市を見て回りたいって……ジンは『神の槌』を出ているつもりなのか?」

「すぐにではないよ。ゾラさんやソニンさんにまだ恩返しできてないからね」

「でも、将来的には考えているってことだよね?」

「まあ、そうだね」


 カズチの追及に答えると矢継ぎ早にユウキからも声が掛かる。

 女性陣は無言で話を聞いてくれているが、それでも驚きは隠せないようだ。


「それに、今の言い方だとカマドから出て行くってことだよな?」

「……うん」

「一人で行くつもりなの?」

「どうかなー。それに関してはその時になってから考えるよ。今はただ漠然と考えているだけだからさ」


 キャラバンを作るといった具体的なことはまだ口にしない。あくまでもタイミングが合えば旅に出る、くらいに思ってくれればいいだろう。


「その為に、僕も来年は馬車馬のように働く所存です!」

「……いや、ジンがそんなに働いたら市場が壊れる」

「ちょっと、カズチ!」

「それは言えてるかも。棟梁が言ってたよ、小僧に振る仕事を選ぶのが大変じゃー、てね」

「そんなこと言ってたの! ってか、なんでルルがそんなこと知ってるんだよ!」

「だって、食堂でボヤいていたんだもん」


 ゾ、ゾラさんめ!


「私は仕事がやりやすくなって助かってるけどね。ゾラ君もジン君のおかげで仕事をたくさん受けてくれるし」

「……まさか、リューネさんに慰められるとは」

「いやいや、本音だからね! ジン君こそ私に対して失礼じゃないのかな!?」

「わ、私は何も言いませんよ? 言ってませんよ?」

「フローラさんは何か言ってよ!」


 ぼ、僕が意を決して話した内容が、まさかいじられて終わるとは思わなかったよ!

 ……まあ、変な空気になるよりかは嬉しいんだけどね。


 全員が来年に向けての目標を口にして席を立ちあがると、支払いの時に僕はカウンターに置かれていたお土産用のお菓子を一袋購入する。


「これどうするの?」

「……シリカさんへのお土産です」

「だ、だったら私が持っていってあげるわよー! シリカ喜ぶわー!」

「……連行しますからね?」


 藪蛇を突いたかのように慌て出したリューネさんにジト目を向けながら会計を終わらせると、僕たちはリューネさんを囲みながら役所へと向かった。


 役所に到着するとリューネさんを見つけたシリカさんが開口一番でこう叫んだ。


「いい加減にしてくださいよー!」


 涙目で駆け寄ってきたシリカさんにリューネさんは両手を合わせて謝っている。……顔は笑っているけど。


「あはは、ごめんねー」

「笑いごとじゃないんですよ!」


 頬を膨らませて怒っているシリカさんはリューネさんの腕を取るとズルズル引きずりながら受付の中へ連れて行ってしまう。


「あっ、シリカさん!」


 そのまま仕事をするかもしれないと思い僕は慌てて声を掛けた。


「コープスさんが先輩を連れてきてくれたんですね、ありがとうございます」

「あー、あまり褒められたことはしてないんだよね」


 すぐに役所へ引き渡せばよかったのだが、実際は喫茶店で食事まで終わらせてきているのだ。

 そのことを伝えると、それでもありがたいとシリカさんは言ってくれた。


「先輩、溜まっている仕事がない時は本当に帰ってこないんです。私は通常窓口の仕事もしないといけないのに、あの人ときたら全く……」


 ……あぁ、何だか怖いシリカさんが出てきた気がする。

 王都から帰ってきてからは不思議と別人のようになったと聞いているシリカさんだけど、こうして見てみると確かに変わったのだろう。とても自信を持って発言しているように見える。


「そうそう、これはシリカさんへのお詫びで喫茶店のお菓子です」

「うわあっ! でも、普通は先輩が私に買ってくれるべきですよね?」

「そうなんですけどねー。まあ、そこは置いておいて頑張っているシリカさんへのお土産ですから貰ってくださいね」

「……ありがとう、コープスさん!」


 満面の笑みを浮かべて仕事に戻っていったシリカさんを見送り、僕たちは役所を後にした。

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