第1章:未知の世界と出会い

大草原のど真ん中にて

 見渡す限りの大草原。

 遠くの方にわずかだが森らしきものが見えるものの、それ以外は何もない場所に俺は立っていた。

 地獄ではないだろう、そう思いながらも天国ってこんな場所なのかと疑問を抱くのも無理のない光景だ。

 視線を手のひらに向けてみる。


 --んっ?


 おかしい。

 俺の手にはゲームダコがあり、綺麗とは程遠い手をしているはずだ。

 それなのに今見ている俺の手は真っ白で美しく、テレビでよく見るモデルさんみたいな手をしている。

 疑問に思いながらも俺の意思で動くのだから、この手は間違いなく俺の手だ。

 その手で顔を触って見る。


 --んんっ?


 友人からは髭が濃いと言われ続けてきた。それは俺も自覚している。

 朝一番で髭を剃っても仕事終わりにはチクチクするのだ。

 それがどうした、どれだけ触ってもツルツルじゃないですか。

 髪だってそうだ。指を通そうとしてもゴワゴワして引っかかっていた髪がするりと通り抜けてしまう。

 視線を地面に向けても疑問は深まるばかり。

 俺は自分の良いところを挙げろと言われれば必ず身長と答えるほどの高身長だ。

 それなのに、目線から地面までの距離が非常に近くなっているではないか。


「……どうなって--んんんっ?」


 ま、待て待て待て!

 何故だが物凄く声が高くなっているんだが!

 まるで子供声じゃないか!


「あー、あーあー、あいうえお。……マジかよ、子供に、戻ってる?」


 だけど、おかしなことがある。

 俺の声はこんなに高くて可愛らしい声ではなかったはずだ。

 もしやと思い体のあちこちを触って確かめてみる。


「……よかった、男だ」


 ホッとするとなんとなく自分の顔を見てみたくなったが、顔を映してくれるような道具を持っていないことに気づいた。

 仕方なく全身に視線を向けて見る。

 全裸で立っているわけではなくちゃんと洋服を着ているのだが、俺の記憶の中にある洋服ではない。

 日本ではもちろん、テレビでも見たことがない服装なのだ。

 だが、何処かで見たような気もする。


「……あぁ、そうか。ゲームの中でよく見る洋服なのか」


 この感想がピッタリだった。

 大きく丸いボタンが付いた上着にもっさりとしたズボン、赤や緑といった明るい色合いの上下を見れば日本にもそうそういないだろう。

 キャラメイキングをする時にこういった色合いは選択肢でよく目にしたが選ぶことはなかった。

 まさか俺自らが着ることになるなんて思いもしなかったが。


「とりあえず、どうしよっかなぁ」


 ポケットに手を突っ込んでみても何もない。

 完全に身一つで大草原のど真ん中に立ち尽くしているのだから、まずはこれからどうするのかを考えるべきだろう。

 とは言っても何処に向かって歩けば良いのかも分からない。東西南北、どっちがどっちなのかも分からないがとりあえず何処に進むのかを運に任せて決めるしかなかった。


「向かった先で天国か地獄か決まるわけじゃないよなぁ」


 頭を掻きながらボヤいていると、あることに気づいた。


「……何か、近づいてくる?」


 気づかなかったが、遠くの方から何かがこちらに近づいて来ていた。

 遠すぎて点に見えていたものが近づいて来たことで見えるようになったのかもしれない。

 とりあえずここに俺しかいない、ということではないようなので何となくだか一安心。

 それでもあれが吉と出るのか凶と出るのか、運任せなのに変わりはないが何もない今の状況ではその運に頼るしかない。


「良い人だったら良いなぁ……人、だよね?」


 ゲームの世界ならモンスターなんてものが存在することもある。

 身を守る術を持たないのだから、俺は吉が出ますようにと心の中で強く願いながら近づいてくる何かを凝視していた。

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