異世界転生して生産スキルのカンスト目指します!
渡琉兎
プロローグ
日本での記憶
俺の名前は大杉政策、独身彼女なしの二八歳。ごく平凡な会社員だ。
朝起きて車で職場に向かい、日中は仕事に精を出し、夜はそのまま帰宅する。
そんな毎日の繰り返しを淡々とこなしてきた。
そんな俺にも趣味がある。
それは、ゲームだ。
いい大人が何をやっているんだと言われるかもしれないが、パッとしない俺の人生においてゲームは唯一童心に戻って心の底から楽しめる時間なのだ。
俺が今一番ハマっているゲームは--生産系のゲームだ。
ツクール的なものや街を発展させるもの、鍛冶スキルなんかがあるゲームならなお良し、今までプレイしてきたゲームではそういったスキルを全てカンストして最強の装備を鍛えに鍛えてきた。
満足いけばゲームを引退して次のゲームに移っている。
仲良くなったプレイヤーには惜しまれるのだが--俺が作る装備に未練があるだけなのだが--俺は未練も何もないのでさっさと辞めてしまう。
現在プレイしているゲームはオンラインRPGで好きな職業が選べるよくあるゲームなのだが、当然俺が選んだのは鍛冶職人だ。
冒険は素材集めをするためだけに臨時のパーティを組むこともあるが、基本的にはソロプレイで黙々と鍛冶スキルを上げていた。
ゲームを始めて半年、鍛冶スキルのカンストに迫っていたので帰り道にでも新しいゲームを探そうかとその時は考えながら仕事に励んでいた。
「大杉せんぱーい、仕事が終わったら飲みに行きませんかー?」
「すまん、今日は予定が入っているんだよ」
「予定って、どーせゲームでしょう?」
どうせってなんだ、どうせって!
この口の悪い後輩女子からはよく飲みに誘われることがある。
こいつが新人だった頃は先輩として指導をしたり、俺主導で飲みに行くこともあった。
早く仕事を覚えてもらって俺のゲーム時間を確保する必要があったからだ。
ただ、そのせいで俺に懐いてしまったのかよく声を掛けてくれるようになった。
これでゲーム好きだったなら良かったんだが、大人になってからはゲームから引退、スマホゲームすらやっていないってことで話が全く通じない。
正直、今となっては飲みに行くのも俺には辛かった。
「ゲームの何が悪いんだよ。すまんが、今日はパスだ」
「今日も、の間違いですよね。いいですよーだ、他の人を誘いますー!」
頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。
……何それ、ガキか。
まあ、俺の貴重なゲーム時間が確保できたので良しとしよう。
仕事も終わり、後輩ちゃんに声を掛けられる前にさっさと事務所を後にする。
「お疲れ様でしたー」
「あっ、先輩、ちょっと待って!」
聞こえないふりをして早足で会社を出ると車に乗り込んですぐに走らせる。
真っ直ぐ帰っても良かったのだが、考えていたことを実行に移すことにした。
途中でゲームショップに寄り道をして最新作のゲームを物色する。
「……これが面白そうだな」
一時間近く物色してようやく決めたゲームを購入すると再び車を走らせる。
今日は花金、徹夜すれば今やっているゲームの鍛冶スキルもカンストできるはずだ。
新しいゲームをプレイする楽しみを考えながら鼻歌交じりに車を走らせていたその時だった。
--ビシッ!
「なあっ!」
突如としてフロントガラスに蜘蛛糸状のヒビが広がった。
視界を遮られて慌ててハンドルを切ってしまい制御ができなくなる。
そして、悪いことは重なるもので昨日から季節外れの大寒波が直撃しており雪が積もっていた。
強烈な衝撃が襲ったかと思えば突然の浮遊感。
--これは、死んだな。
死ぬ間際になると走馬灯が見えると聞いたことはあるが、俺にはそんな暇なんてなかったようだ。
ただ一つ悔しかったこと、それだけが頭の中を埋め尽くしていた。
「今日でカンストだったのにーーーーっ!」
これが、俺の最後の言葉になった。
後に事故の原因が調べられると、フロントガラスに突如広がったヒビの原因が若者たちの悪戯が原因だと分かった。
走っている車めがけて石や空き缶などを投げつけて音を楽しんだり、車がどんな反応を示すのかを見ていたらしい。
悪質な悪戯--人が一人死んでいるのだから悪戯とも言えない事件として扱われ、ニュースにも取り上げられていた。
結婚もしていないし彼女もいない、悲しむのは家族くらいだろうと思っていたがそうではなかった。
学生時代の友人も参列してくれて職場のみんなも涙を流してくれた。後輩ちゃんなんか大号泣だ。
あの時の飲み会に参加させていればこうはならなかったと悔やんでいた。
(……悪いこと、しちまったかなぁ)
そんなことを考えられるなんて、俺は死んでなお現世に未練を残しているみたいだ。
……俺の未練なんて、ゲームしかないと思ってたんだけどな。
そう考えていると意識がだんだんと薄れて行く感覚を覚えた。
(あぁ、ついに天国に行くみたいだ)
短い人生だったが悪いことはしていないはずだ。
これで行き先が地獄だったなら神様を恨んでやろう。
そんなことを考えている間にも意識は薄れていき、眠るように意識を失った。
そして目を覚ました俺の前に突如として広がった光景を見て一言--。
「……ここ何処よ?」
何もない草原のど真ん中。
俺はそこに一人で立っていた。
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