ラドワニ散策

 宿屋の入り口でフローラさんとグリノワさんと別れた僕とユウキは、高級店が並ぶ通りから離れて庶民街へと足を向けた。

 先ほどの通りではお店だけが並んでいたのだが、庶民街には屋台も多く並び通りには香ばしい匂いが漂っている。

 たくさんの屋台に足を延ばしたい気持ちもあったのだが、僕もユウキも気になったのはラドワニの特産品である鉱物だ。

 グリノワさんたちは宝飾品店と言っていたので別行動になったのだが、僕が鉱物に興味を持つのは鍛冶の為だ。

 でも、どうしてユウキは鉱物に興味を持ったのだろうか。


「冒険者ギルドには鉱物の採取依頼もあったりするんだよ。それで、口頭で特徴を教えてもらったり、本で調べたりもするんだけど、本職じゃないから見分けがつかないことも多いんだよ」

「だから勉強がてら見て回りたいってこと?」

「うん。下級冒険者が受けられる依頼だと、カマドではキルト鉱石くらいだったから僕でも問題はなかったんだけど、これから先の依頼では違う鉱石を見ることもあると思ってね」

「ユウキ、真面目なんだねぇ」

「ジンは鍛冶師だから?」

「上質な鉱石があれば、何が鍛冶に適していて、錬成に適しているのか、その辺りを見て回りたいかな」

「ジンも僕とほとんど同じだよね?」

「……言われてみるとそうだな」


 そこまで話をすると、顔を見合わせて笑ってしまった。

 結局のところ、観光に来たとは言ってもやることは変わらないようだ。

 僕は鍛冶の為に、ユウキは冒険者の為に見て歩く。


「それで、どこから見て歩こうか?」

「とりあえず、片っ端にだな!」

「だね!」


 始めてきた都市でどこをどう行くなんて分かるはずもない。ならば、入りやすそうな場所から片っ端に行くべきだろう。

 僕たちは門の近くにある一つの鉱石店へ入ってみた。


「いらっしゃいませー! ……って、子供?」

「あっ、ごめんなさい。ちょっと見てみたいだけなんですけど、いいですか?」

「あぁ、ごめんなさいね。構いませんよ、他にお客様もいないしね」


 店主の女性の方は笑顔で僕たちが中を見て回ることを許可してくれた。


「あの、もしよろしければ質問とかをしてもいいですか? 鉱石については詳しくないもので」

「大丈夫ですよ。それにしても子供なのに礼儀正しいのね、この辺りの子じゃないでしょ?」

「僕たちはカマドから来ているんです。僕がジンで、こっちは冒険者のユウキです」

「あら! そうなのね。私はここの店主でリディア・マキュリアよ。それで、何を聞きたいのかしら?」


 僕はユウキに視線を向けたのだが、ユウキは苦笑しながら僕の方を優先するようにと言ってくれた。


「僕の場合は名前と実物が一致したらいいだけだから構わないよ。ちゃんと商品名も書かれているしね」


 そう言って一人で店内を見て回り始めた。

 ユウキの厚意に甘える形で、僕はリディアさんに鍛冶に適した鉱石について質問を口にした。


「鍛冶に適した鉱石? そういえばカマドからって言ってたわね。ジン君は鍛冶師見習い?」

「えっと、一応、見習いは卒業しています」

「えっ! そ、そうなの? その年で一人前の鍛冶師だなんて凄いね! それとも、見た目に反して実は私よりも年上なのかな?」

「いやいや、見た目通りの子供ですよ」


 苦笑しながら話をしていると、リディアさんは色々と教えてくれた。

 まずは最近の人気鉱石であるアドミニカ鉱石。

 硬質であるにも関わらず反発力も少ない鉱石で見習いを卒業したての鍛冶師でも鍛冶がしやすく、値段も安い。

 そして、各属性に適した鉱石を知ることができたのは嬉しかった。

 火属性のフレアストーン。

 水属性のアクアジェル。

 木属性のウッドアルタイル。

 土属性のアルクゾッド。

 風属性のヒューゴログス。

 光属性のライトハイストル。

 闇属性のアンストラウム。

 ただ、各属性の鉱石は値段が高いので早々に手を出すことは難しいだろう。


「ジン君は銅とかキルト鉱石を使った鍛冶が多いのかな?」

「あー、えっと、そうですね。主にキルト鉱石ですかね」


 本当は色々と素材を使ったことがあるのだが、ここで変なことは言えないので濁すことにした。


「そっかー。それじゃあ属性の適性がある鉱石はまだ難しいかもしれないわね。アドミニカ鉱石とは違って反発力も強いみたいだし」

「そうですよねー、あははー」


 ついでに、ではないが装飾品として仕上げるのに適した鉱石もいくつか教えてもらった。

 ラトワカンには魔獣を狩りに行くのだから、討伐証明を冒険者ギルドに持ち込んでお金ができたらみんなにお土産でも買ってあげたい。特にカズチには錬成用の鉱石を買ってあげるのもありな気がする。


「あれ? リディアさん、ラトワカンって鉱石も採れるんですか?」


 鉱石が特産品のラドワニである。近くの山がラトワカンなのだから、もしかして鉱山なのではと思ったのだ。


「ラトワカン? 一応採れるけど、すでに廃坑になっちゃってるから採れても良質なものは採れないだろうね」

「そうですか」

「もしかしてラトワカンまで行くの?」

「はい。師匠の修行で」

「それなら、もし鉱石が採れたら持ってきてよ。それなりの値段では買い取ってあげてるわ」

「本当ですか! ありがとうございます!」


 おぉっ! これでお小遣い稼ぎのめどが魔獣以外でも立ったよ!

 話が終わるとユウキも見回ったみたいで、僕たちはリディアさんにお礼を言ってからお店を後にした。


 ※※※※

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 ※※※※

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