錬成の成果

 ソニンさんの錬成部屋の前には既にカズチが待っていた。


「カズチ、久しぶり!」

「おう……ジン、なんか気持ち悪いぞ」

「気持ち悪いとは酷い!」

「いや、だって、にやけが止まってないぞ」

「へへへへ、だって鍛冶部屋ができたんだよ? そりゃにやけるでしょ!」

「そうなのか。それじゃあ、今度見せてくれよな」

「もちろん!」


 にやけが止まらないのは仕方ないよね。顔に出てても仕方ないよね。

 だって鍛冶部屋だもん!


「はいはい、嬉しいのも分かりますが、錬成の時にはちゃんと集中してくださいね」

「分かりました!」

「単純だなぁ」


 そう言われながら錬成部屋に入ると、カズチと並んで椅子に腰掛ける。

 僕は銅、カズチはケルン石で前回と同じだ。

 カズチはサラおばちゃんと色々話し合っているようで、今回も雫形を錬成するらしい。

 まだまだ数が足りないようで、指定の数に達したらまとめて買い取るのだそうだ。


「上手くいくといいね」

「俺の錬成に掛かってるからな、頑張るよ」


 やはり販売されると意識できれば緊張感も変わってくる。これがカズチにとっても良い刺激になるだろう。


「よし! 僕も頑張るぞ!」


 鍛冶部屋が出来たのだから良い素材を錬成したい。

 そうすれば錬成スキルはもちろん、鍛冶の質も高まって鍛冶スキルの習得にも繋がるはずだ。

 錬成の速度を落としたくはないので分解から排除を同時進行で行う。

 浄化に関しては別個で考えて魔力をギリギリまで注ぎ込む。

 不思議なもので何度か錬成を繰り返していると、ここまでの魔力なら大丈夫、これ以上は無駄になる、これじゃあ足りない、といったことが何となくだけど分かるようになってきた。

 さらに無駄になったり足りなかったりすると錬成が上手くいかないのだ。

 やはり浄化が錬成の核なのだと改めて自覚した瞬間だった。

 再構築まで終わると、今までの錬成とは明らかに違うのだと感覚的に分かってしまった。

 ソニンさんも目をパチクリさせながら錬成を終えた銅を見つめている。


「ど、どうでしょうか?」

「……見てみますね」


 銅を手にしてじっくりと眺めていく。

 前回よりも長い時間を掛けて観察してくれたソニンさんの手には自然と汗が浮かんでいるように見えた。


「……素晴らしい!」

「えっ? 本当ですか?」

「本当です! これは、私やゾラ様に匹敵する錬成ですよ!」

「……たった数日で、抜かれたのかよ」

「いや、これもスキルのせいだからね?」


 何となくコツは掴めていた。

 掴めていたけど、こんなにもすぐに超一級品に仕上がるものだろうか。

 知識を深めたわけでもない。知識以外にも何かきっかけがあった?


「……何が原因なんだろう」


 次の錬成でも継続して超一級品が錬成出来れば、何かしら分かる部分があるだろうか。

 一人で考え込んでいると、ソニンさんが興奮気味に僕の肩を叩いてきた。


「素晴らしいですよ、コープスくん! 少し休んだらもう一度錬成を行いましょう!」

「えっ、あの、その、ソニンさん、少し落ち着いてください」

「はっ! ……し、失礼しました」

「副棟梁がこんなに興奮するの初めて見ましたよ」

「……は、恥ずかしいですね」


 苦笑するカズチもケルン石の錬成を終えており、群青色の美しい雫形に錬成されていた。

 以前見たものよりもグラデーションが綺麗に出来上がっているので、カズチの錬成も上達しているのが一目で分かった。


「凄い綺麗だね」

「なんかジンに言われても褒められてる気がしないな」

「酷い! 本音なのに!」

「あはは、冗談だよ。ありがとな」


 ありがとう、とは言ってくれているが表情はあまり優れていない。

 ……やっぱり、僕がいきなり追い抜いてしまったのが原因だろうか。


「カズチ、その、僕のはインチキというか、チートというか、英雄の器が卑怯なわけであって、決してカズチが劣ってるとかそんなんじゃないからね!」

「何だよいきなり。ってかちーとってなんだ?」


 何だよ、って言われてもなぁ。そこで慰めてましたとか言ったら、逆に怒られそうなんだよなぁ。


「……大方、ジンに抜かれて落ち込んでるって思われたか?」

「うっ! ……は、はい」

「……はぁ。あのなあ、俺だってまだまだ見習いなんだよ。抜かれたことには少し落ち込んだけど、別に励まされるほど落ち込んではいないぞ」

「ほ、本当? 怒ってない?」

「怒るわけがないだろ。これは俺が未熟な結果だ。むしろ、もっと頑張らなきゃいけないって思ったくらいだ」


 ……この世界に来て、色々な人と出会ったけど、カズチとは一番最初に友達になれたんだ。

 色々教えてもらって、助けてもらって、出かけることだってあった。

 もし嫌われたりしたら、立ち直れるかどうか分からない。

 それ程までに僕の中でカズチの存在は大きなものになっているのだ。


「……僕たち、友達だよね?」

「何を今更。友達だし、錬成に関してはライバルだ。そうだろ?」

「……う、うん! もちろん!」


 ニヤリと笑ったその表情は、いつものカズチの表情だった。

 カズチはすぐに一流の錬成師になるだろう。

 英雄の器はあるけれど、それに慢心しないよう僕も頑張らなくては!

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