鍛冶部屋にて

 退院初日ということもあり錬成の授業は一度だけだった。

 超一級品が出来たことには満足だけど、その要因が何だったのかは結局分からなかったので少し消化不良である。

 超一級品を鍛冶の練習に使うのは勿体ないと言われてしまい取り上げられてしまったが、代わりにカズチから以前に練習で錬成した銅をいくつか貰ったので良しとしよう。


 食堂ではルルに魔導スキルについて聞こうとしたのだが晩御飯の時間帯で忙しそうだったので遠慮した。

 明日もまた会えるのだから急ぐ必要はないのだ。

 それよりも今、僕の心を掴んで離さないのは鍛冶部屋である。

 今日の夜、早速だけどゾラさんに時間をもらっているので鍛冶をする予定で、カズチも鍛冶部屋が気になるようで一緒だ。

 部屋に戻ってもウキウキが止まらずにカズチだけでなくガーレッドにも笑われたように感じた――が、そんなことは気にしない。

 この気持ちは止められないのだから!


 鍛冶の時間は朝の二の鐘から三の鐘まで、夜の二の鐘から三の鐘まで、と決められている。

 もうすぐ二の鐘が鳴ると思っていると、扉がノックされたので急いで開ける。

 そこにはいきなり開いた扉に驚くゾラさんが立っていた。


「……何もそこまで急がんでも」

「何を言いますか! 鍛冶が出来る時間は一分一秒も無駄には出来ないんですよ!」


 驚きは呆れに変わり、最後には苦笑になった。

 そんな顔されても僕の意思は変わりませんからね!


「とりあえず鍛冶部屋に行くかのう。おっ、カズチも一緒か。良い勉強になるはずじゃからゆっくり見ていくといい」

「はい!」

「いや、僕の鍛冶部屋だからゾラさんに言われなくても」

「……そうじゃな、その通りじゃ」


 再びの呆れ顔である。……いや、カズチまで同じ顔しないでよね、間違ってないんだから。

 開かれた鍛冶部屋だけど、土窯の横に置かれている道具が増えていた。


「あれ? これって……」

「必要最低限の物は用意しておいたぞ」

「ゾラさん! 心の底からありがとうございます!」

「その心を常日頃から持っていればのう」

「持っていますとも! 口に出さないだけです!」


 いや、マジで、本当ですよ?

 鋏、金床かなとこ、桶。それに一通りの型が置いてあった。

 魔法で火力の調整は簡単だからふいごはないけど問題なし。

 たがねは僕が上達したら調達しよう。名を刻むのとか、夢だったからなぁ。


「それとの、ザリウスから預かっとった魔法鞄マジックパックじゃ。……もの凄い量だったのう」

「あ、見ました? 僕だけじゃなくてホームズさんにも自重は必要ですよねー」

「言う割には嬉しそうじゃが?」

「個人的には素材が沢山ですからね!」

「……それもそうじゃな」

「さーて、何を作ろうかな〜」


 時間が迫っていることもあり、僕は型を見ていく。

 前回作ったナイフ、少し長めの短剣や長剣。さすがにナイフ以外は一つの金属で作るのは難しいようで柄は別で用意する必要があるらしい。

 それならば、一人で完結できるナイフを今回も作ろうかな。柄部分に関しては後日聞いてみよう。


「よし、ナイフを作ろう!」

「それが良いじゃろうな。イメージはあるのか?」


 ユウキにプレゼントしたナイフは刀身の波紋にこだわった作品だ。

 波紋にはこれからもこだわるつもりだけど、今回は僕が錬成に失敗した銅を使うのだから少し遊びも加えたい。


「……そうだ、ナイフサイズののこぎりなんてどうだろう」

「の、鋸じゃと?」

「また何でそうなったんだ?」


 二人が首を捻るのも無理はない。だけど、遊び半分なのだから構わないのだ。

 それに刃をギザギザにするメリットもある。


「ギザギザの刃で傷つけられると、傷口がグチャグチャになるでしょ? あれって痛いし治り難いんだよねー」

「……小僧、怖いこと言うの」

「……冒険者みたいな考え方だな」

「……も、もちろん鋸としても使えます! あー、なんて便利なんだろー!」

「「嘘つけ!」」


 いや、思ったことを口にしたら引かれたんだもの、嘘の一つや二つ許してよね。


「と、とりあえずそんな感じのものを作ります!」


 そうこうしているうちに夜の二の鐘がカマドに鳴り響いた。


「よし! やりますよ!」

「やってみろ」

「楽しみだな」


 僕は気合を入れて失敗した銅を土窯の中に放り投げて火属性魔法を――。


「あっ! こ、小僧、ストップじゃ!」

「……何ですかゾラさん、僕の気持ちを折らないでくださいよ!」

「いいから待つんじゃ。鍛冶部屋を壊したいのか?」

「何事でしょうか、待ちますとも」


 マジで何事なのよ、鍛冶部屋を僕が壊すわけないのに。


「小僧、魔導スキルを習得したじゃろう?」

「げっ、そうなのか?」

「そうだよ。でも、それがどうかしましたか?」


 魔護符まごふや付与に使う以外の有用性がないのだから、今のところ関係ないよね?


「魔導スキルは魔護符や付与以外にも、単純に魔法の効果を上昇させる効果もあるんじゃ」

「うん、それで?」

「それで? ってのう……小僧、今普通に火属性を使おうとしたじゃろう」

「はい」

「今までのことを考えろ。魔法の練習の時にありえない炎が出たのを」

「……?」


 いや、もうこの際はっきり言ってくださいよ。


「……はぁ。ただでさえ英雄の器で十倍になってるんじゃぞ。魔導スキルを習得して、何も意識せずに魔法を使えばどうなるか、と言うことじゃ」

「……あー、あー! なるほど!」


 鍛冶部屋で火炎放射以上の炎が出ちゃうのか!


「……それめっちゃ危ないよね!」

「だから言うておろう!」

「ダメだ、ジンはどこが抜けてるか分かんねえ」


 危ない危ない、鍛冶部屋どころか自分達が丸焦げになるところだったよ。

 えっ、でもそれって、また魔法の制御から必要ってこと?

 それとそこ、一人だけ喜ばないの、ガーレッド!

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