二度目の鍛冶
とりあえず小さな火を出そうとゾラさんが提案してきたのでチャレンジしてみる――だが。
「――どわあっ!」
「……やっぱりのう」
「……火、って言うよりは炎だな」
指先から飛び出しだ真紅の炎に前髪が少し焦げてしまった。
……だから喜ばないの、ガーレッド。
しかしこれは困ったぞ。火属性を調整出来なければ鍛冶云々の話ではなくなってしまう。
「弱い火、弱い火、弱い火……」
呟きながら意識づけしつつ、頭の中にはマッチの揺れる儚い火を想像する。
……ライターの火では炎が飛び出すからね。
それでもバーナーみたいな炎が出るんだから魔導スキルと英雄の器のコンボは破格過ぎるよ。
――長い時間を掛けてようやく弱い火を出せるようになってきた。
弱い火を作り出すのに相当な時間を使ってしまい落ち込みたくなったが、そんな時間ももったいないと言い聞かせて鍛冶の準備に取り掛かる。
土窯の中に火を投入してゆっくりと温度を上げていく。
銅が真っ赤に色を変えてドロリと溶け始めると、逆円錐の穴を通り型に流れていく。
全ての銅が流れ込み型を満たすと、外気に触れてゆっくりと固まりだす。
鋏で掴み金床に乗せると、二回目ということもあり慣れた手つきで槌を振るう。もちろん無属性魔法も忘れない。
二回目で慣れた手つきというのもおかしなことだが、知識から何となくイメージは出来ているのでこんなものだろう。
良い品ができるかどうかは別としてね。
「……長さは、これくらい、かな」
刃渡り四〇センチ程で前回のナイフよりも長めにしてみたのは、本当に
波紋には小さな波を二層にして浮き上がるようイメージして丹念に成形していく。
そういえばギザギザの刃ってどう作るんだろうか。
……まあ、何とかなるだろう。前回も水に入れたらピカーって光ると出来上がっていたし。
桶にはタップリの水を溜めている。満足いく長さ、形に成形出来たので水の中に銅を入れた。
前回はここで部屋を埋め尽くすほどの光が溢れ出したんだけど……あれ?
「……光、小さいなあ!」
「……これは、どういうことじゃ?」
桶の水は光っているものの、その光量は前回とは比べ物にならないほど弱い。
部屋の一部を薄っすらと光らす程度の光量しか持っていないのだ。
「……一応、出来たみたいだな」
「……と、取り出すよ?」
僕は意を決して水の中から銅を取り出した。
見た目には僕が思っていた通りのナイフ兼鋸が出来上がっていた。
……でも何だろう、なんだか物足りない気がするんだよね。
素材の違いもあるのだろうか。
「どれ、見せてみろ」
僕はナイフ兼鋸をゾラさんに渡す。
一人でうーん、と唸りながら眺め回す姿に緊張しながら待っている。
数分程眺め回した後、ゾラさんが口を開いた。
「使った素材は中の下だとソニンに言われたんじゃろ?」
「そうですね」
「ふーむ、そうか」
……えっ、もしかしてダメだったのか?
「評価としては素材よりも一つランクが上の良い品が出来ておる。良くやった、と言えるんじゃが、前回の出来を見ているからか物足りなく感じるのう」
「前回の素材はどのランクの素材だったんですか?」
超一級品を使った素材はゾラさんから渡された物だった。あれが超一級品だったのか、はたまた普通の出来の素材だったのか。
見た目では凄い素材だと感覚的に思わなかったので超一級品ってことはないと思うけど。
「あれは上の下ランク、一級品手前の素材じゃ。それを超一級品の武器に仕上げたんじゃよ」
「それって、凄いことなんですか?」
「相当凄い。儂でも本気でやって二回に一回くらいかのう」
ゾラさんでもそれくらいなのに、それを初めてでやってしまったのか。
それ程に英雄の器が異質で破格なのだと改めて実感したが……はて、今回はその効果がはっきりと現れなかったようだ。
「前回と今回で何か違う点はあったかの?」
「違う点って言われても……」
素材、場所、道具、それくらいしか思い浮かばない。
僕自身に何か変わったことはないはずだけど。
「……もしかして」
「何かあるんじゃな?」
「えっと、これが原因かは分からないんですけど。成形しながら、これでいいのかな? って思っちゃいました」
「と言うと?」
「刃の部分、ギザギザにする時にどうやるんだ? これでいいのか? イメージだけで? みたいなことを考えながら、何とかなるかなー、って思ってました」
「なるほどのう。それが原因かも知れんな」
最初の錬成の時にソニンさんにも言われたことだ。
鍛冶よりも出来ないかも、と思ってしまえばその通りに出来てしまう。深層心理に近い部分で錬成の質は落ちてしまった。
今回の鍛冶も確信を持って作ることが出来なかったから、前回のような結果にならなかったのだろう。
「イメージをしっかり思い浮かべて、自信を持って作る。そうでなければどんなことでも上手くはいかんじゃろう」
「その通りですね。知識はあくまでも自信を持つための要因であって、それが全てではないってことですか」
意識付けが大事なのだと分かったのは今回の収穫だろう。これからはその点を注意して鍛冶をするべきだね。
――カーン、カーン、カーン。
そんなことを考えているうちに聞こえてきたのは三の鐘。
「今日はここまでじゃな」
「えぇー!」
「ソニンに言いつけるぞ?」
「終わります、すいません!」
「棟梁には不満を言うのに、副棟梁には逆らわないんだな」
「だって、ソニンさんなんだもん」
……怖いし。
まあ焦らなくてもこれからは何度でも鍛冶が出来るんだもの、我慢は必要だよね。
「それで、このナイフはどうするんじゃ?」
「うーん、何かに使えるかも知れないし僕が持っておこうかな」
「なら、こいつにも名前を付けてやれ」
鋸だからなぁ。
ギザギザの刃……ギザギザ……ザラザラ……鮫肌?
シャークソード? シャークナイフ? それともまた日本っぽい名前にしようかな?
…………よし、決めた。
「名前は――
「まーた聞かん響きじゃなあ」
「いいんですよ」
海鮫刀を
僕は明日も朝から鍛冶をしたいことをゾラさんに告げると、ソニンさんとホームズさんと相談してくれることになった。
そうだよね、みんな暇じゃないもんね。
「明日の二の鐘に誰かを寄越すが、無理な場合もあるからの」
「はーい」
「それじゃあ、俺も戻ろうかな」
「また明日ね」
ゾラさんとカズチを見送ると、部屋の中は静かになった。
ガーレッドがベッドに上がろうとパタパタしているので抱き上げて乗せてあげる。
中央まで移動すると、振り向いて円らな瞳をこちらに向けてくれた。
錬成から鍛冶まで、時間は空いたけれど退院初日にしては詰め込み過ぎたかもしれない。ベッドに腰掛けるとどっと疲れが現れたのもそれが原因だろう。
お風呂は明日の朝に入ろうと決めてガーレッドと一緒に横になる。
なんだか色んなことが今回もあったけど、これからの僕は鍛冶にのめり込もうと心に誓う。
だって、鍛冶部屋が部屋に出来たのだから当然じゃないか。
素材だった沢山あるのだ、錬成も早く上達して色々な素材を錬成出来るように頑張ろう。
「明日から、忙しく、なるな……」
そんなことを考えていると自然と瞼が重くなり、僕は深い眠りに落ちていった。
第2章 完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます