黒炎刀

 フレアイーターの素材は赤の中に黒が交ざっている。

 ギャレオさんの要望によりトウを付けなければならなくなった事もあり、重さは今の剣と同等にして片刃で打つ事にした。

 転生したばかりの頃ならいざ知らず、今はある程度鍛冶師として生きていく覚悟というものがある。

 今の僕はトウと名付けるのであれば、絶対に刀を打つ事に決めているのだ。


「片刃の刀……あー、剣になりますがいいですか?」

「片刃の剣ですか? ……はい。コープス様が満足の行く剣を作ってください!」


 い、いいんだ。ここで断ってくれれば簡単だったんだけどなぁ。

 でも……久しぶりに刀を打てるとなれば気合いの乗り具合も段違いだ。

 フレアイーター……絶対に完璧に打ってやる!


「ありがとうございます。それじゃあ、ちょっとイメージを膨らませますね」


 食事の後の時間を貰えてよかった。

 ユウキが戻ってくるまでの時間だけど、これならイメージを膨らませて固める事もできそうだ。

 片刃であり、赤と黒の色合いを交ぜ合わせた刀か。

 漆黒の素材であれば黒羅刀で打った事もあるけど、赤が交ざるとなれば色々と考える事ができる。

 とはいえ、僕の中で一番に浮かんできたのは黒い炎――黒炎だ。

 名前は単純に黒炎刀こくえんとう

 だが、単純なだけにそれに見合ったイメージを作り上げなければギャレオさんにガッカリされてしまう。そうならないように赤と黒を上手く組み合わせなければならない。


「……うん、良い感じだな」


 刃の部分を黒、峰を赤にする。光沢を持たせれば美しさも保てるだろう。

 火属性を得意としているギャレオさんの戦闘スタイルは力強く剣を振り圧倒する。その中に冷静さを併せ持っているので隙も少ない。

 だからかもしれないが、柄にはそこまで手を加えずに機能美を高めていこう。

 元々が硬質な素材だが、一振りの中に凝縮してしまえば更に硬くなり同等の質の剣と打ち合ったとしても打ち負ける事はないだろう。折るなんて事は不可能なはずだ。


「……できた」


 このタイミングで食堂のドアがノックされ、開かれた先からユウキとフルムが姿を現した。


「お、お待たせしました! それと――」

「さあ! ジン殿、鍛冶をして見せてくださいませ!」

「昨日も見たのですが、どうしても見たいと仰られたのです」

「……ポーラ騎士団長とオレリア隊長も、来ちゃいました」


 あちゃー……この人たち、暇なのかなぁ。


 ――庭に移動した僕たちは、最後の鍛冶に挑む事になった。

 すでにイメージは固まっている。これが完成すれば、きっとギャレオさんも満足してくれるだろう。

 だが、それは完成品が出来上がってこそ言える事だ。

 絶対に失敗はできない。……いつぶりだろうか、こんなに緊張したのは。

 刀を打つと決めたからだろうか、少しだけ……本当に少しだけ、緊張しているな。


「…………よし、始めます!」

「しかと見届けるぞ、ジンど――ふぐっ!?」

「黙って見届けてください、ポーラ様」


 ……この人だけは、何も変わらないなぁ。良い感じで緊張が解けてくれた気がするよ。

 そう考えながらカズチが錬成してくれたフレアイーターの素材を土窯に置くと、炎を点した。

 ここからはいつも通りの流れなのだが、どうしても融点に辿り着くまでは異なってしまう。

 素材によって融点が異なるのは当然なのだが、今回は火属性に適性を持った素材である。過去の経験から見ても、融点が高い事は想像に難くない。

 フレアイーターも想像通りに融点が高くなかなか溶けだしてくれない。

 これは……一筋縄ではいかないかもしれないなぁ。


「まだか……まだ、溶けないのか……」


 すでに過去最高の火力に到達している。

 ……ホームズさん、なんて素材を送ってくれちゃってるんですか。

 そして、この素材を完璧に錬成できたカズチの腕も相当に上がっているって事だね。


「……マジで負けられないな!」


 気合いを入れ直した僕が火力をさらに上げると、ようやく表面に一筋の雫を見る事ができた。

 そこからは早かった。

 火力の調整に気を配りながら一気に溶かし、無属性魔法で強化した筋力で槌を振るい、フレアイーターの素材を成形していく。

 黒炎刀を完璧なものにするために、全身全霊を込めて打ち据えていく。

 久しぶりに周囲の光景が見えなくなっていた。どれだけの時間で槌を振るっていたのだろうか。


 ――そして、完成した黒炎刀が放った光は庭一杯を埋め尽くすものになっていたのだった。

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