黒炎刀②
……あっちゃー。これ、絶対に刀へ対する想いが成果に乗っかっちゃったねー。
まさか同行するマギドさんよりも……これ、もしかしたらオシド近衛隊長が賜ったアダマンタイトの剣よりも質としては上かもしれないなぁ。
「……光が、収まった?」
「……凄い光でしたね、ギャレオ先輩。……先輩?」
どうやらこの剣を手にするギャレオさんは気づいたようだ。この剣の価値に。
「おおぉぉぉぉっ! 凄いではないですか、ジン殿!」
「素晴らしい光でしたね。……その光に照らされたポーラ様のお姿が最高に美しかったのですけどねええぇぇぇぇっ!」
……うん、こっちは完全に空気を読めていないようだ。
「……コ、コープス様? この剣を、本当に私が?」
「オーダーメイドですからね。でも、まずは見てもらいましょうか」
ゴクリと唾を飲み込みながら水に沈められた先にあるだろう剣を見つめている。
そんなギャレオさんを見て苦笑しながら、僕は剣を持ちあげた。
「……うん、イメージ通りの出来だな」
今回はグラデーションを使わず、赤と黒を綺麗に色分けしている。
しかし、赤の色はやや黒が交ざったような深紅なのでこれでも十分に美しい見た目が保たれていた。
もちろん、見た目が美しいだけの刀ではない。その切れ味も僕が打ってきた中では最高に近いものだと自負できる出来栄えになっているはずだ。
「……ギャレオさん、振ってみてもらえますか?」
「……あ、あぁ」
……やや気圧されているかな。
でも、この剣は最初に口にした通りギャレオさんの為に打ったオーダーメイドの一振りだ。気圧されたとしてもこいつを扱ってもらわなければならない。
「よろしくお願いします」
少しだけ声のトーンを変えて直接刀を手渡す。
僕の意思が伝わったのか、ギャレオさんは表情を引き締めて柄を握り刀身を眺めた。
「……失礼します」
しばらく見つめていたのだがゆっくりと庭の広い場所へ移動し、立ち止まると構えた。
「…………はあっ!」
一振り。たった一振りだったが、ギャレオさんの表情が驚きに染まる。
そして、刀の性能に自分を合わせていくようにゆっくりと、そしてじっくりと素振りを繰り返していく。
表情はすでに真剣なものに変わっており、ゆっくりとした素振りなのだが額には大粒の汗が噴き出しては動きに合わせて散っていく。
ギャレオさんから感じるもの凄い気迫に、この場にいる誰も声を掛ける事はできなかった……できなかった……できな……ええぇぇぇぇ?
「……ぉぉ……おぉぉっ! ギャレオよ、ここで一度手合わせだ!」
空気を読まない……いや、読めないのはもはやお決まりなのか、ポーラ騎士団長が興奮した様子で前に進み出したのだ。
「……申し訳ありません、騎士団長様。今の私では、この刀を存分に振るう事ができませんので、その機会はいずれまた」
「な、なんだと!? わ、私もその刀に触れてみたいのだぞ! 剣と刀で触れ合おうぞ!」
「触れ合うだと! で、でしたらポーラ様、私と触れ合いませんか!」
……な、なんだろう、この混沌とした状況は。
「……なあ、ジン。これ、止めなくてもいいのか?」
「……僕に止められると思う?」
「……ジンにしか止められないと思うよ?」
カズチもユウキも勝手を言ってくれる。僕に止められるはずがないだろう。
それに、止めるというのであれば僕以外にも適任がいるじゃないか。
「お前たち、ここがどこだか分かっているのだろうなぁ?」
「「……はっ!?」」
「申し訳ありません、魔導師長様!」
この場合、ギャレオさんは一切悪くない。それなのに彼だけが謝っているって、本当に大丈夫なんだよなぁ、騎士団は?
「ギャレオが謝る事ではない。謝るべきは……なぁ?」
「「も、申し訳ありませんでしたああああぁぁっ!」」
さすがユージリオさん、分かっていらっしゃる。
その後、ポーラ騎士団長とオレリア隊長は大きく肩を落として屋敷を後にしたのだが、ギャレオさんはしばらく刀を馴染ませる為にと何度も黒炎刀を素振りしていたのだった。
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