持ち込みのお肉
しばらく談笑をしていた僕たちは、エルダさんから声を掛けられた時にブルベアーのお肉で料理を作ってほしいとソニンさんからお願いをしてみた。
「ブルベアー! でも、そんな高価なお肉だったらそっちの食堂で作った方がいいんじゃないの?」
「フローラさんが本部に入れないので、外で作ってくれる人を探しているんです。量は結構あるので、私たちだけではなくエルダや他のお客様に配ってくれてもいいんですが、どうですか?」
エルダさんの反応を見ると、やはりブルベアーのお肉は高価なものらしい。
そして、ソニンさんの言葉が聞こえていたのだろう。周囲のお客さんからの視線が決定権を持っているエルダさんに注がれていた。
「……まあ、私も食べてみたいし作ってみますか!」
「「「ありがてえ!」」」
エルダさんの決定に僕たちの机の周囲にいたお客さんから歓声が上がり、気づいていなかったお客さんも何事だとこちらへ視線を向けてきた。
そして、歓声を上げたお客さんからさらに周りの机に情報が回ったのだろう、遠くの方からも同様の歓声が上がり始めていた。
「それで、ブルベアーのお肉はどこにあるの?」
「あっ、それは僕が持っています。……ここで出してもいいんですか?」
「いいけど、そんなに量があるの?」
「えっと、ここにいるお客さん全員にあたるくらいには」
「……カウンターの方まで来てくれる?」
「……はーい」
全員にあたるくらいの量、と言った時点でどれくらいのお肉があるのか察したのだろう。エルダさんはすぐにカウンターへ移動するように促してくれた。
僕も出したお肉を運ぶのは面倒だと思っていたのですぐに移動し、カウンターでブルベアーのお肉を
「うわあ! ……ねえ、こんなにたくさんのお肉をここで使っちゃっていいの?」
「いいんです。ブルベアーを倒したのはユウキですし、そこまで行けたのはフローラさんのおかげだし、本部で僕たちだけで食べるよりかはみんなで楽しく食べた方がより美味しくなると思うんです」
取り出されたのは恐らく5キロくらいの量である。
本当はもっと少ない量だったのだが、マリベルさんがもっと貰いなさいと言ってこれだけの量になったのだ。
『——私は何もしてないんだから、人数が多いそっちがたくさん貰ってよね!』
というのがマリベルさんの主張なのだが、元々はマリベルさんがブルベアーを倒そうと言ってきたのにね。
ただ、そのおかげで僕たちだけではなくエルダさんはお客さん全員にブルベアーのお肉を配ることができるので、今ではありがたいと感じている。
「よーし! それじゃあ腕によりをかけて作ってあげるわね! みんなも楽しみにしていなさいよ! それと、ソニンたちにお礼を言いなさいよね!」
「「「「「ありがとうございまーす!」」」」」
野太い声が気楽亭に響き渡り、僕たちは苦笑を浮かべる。
さらに外からは何事だと中を覗いてくる人もいたのだが、ブルベアーのお肉が食べられるとは誰も口にしなかった。
それは当然で、食べられるのは気楽亭で食事をしていたお客さん――お金を落としてくれている人たちだ。
たまたま通り掛かって、たまたま食べられた、では意味がない。
「それにしても、ブルベアーのお肉ってそんなに高級なんですか?」
みんながいる机に戻ってきた僕はそんなことを口にする。
「高級品と言われていますからね。一般の人たちの口にはなかなか入ってこない物なんですよ」
「僕と魔法の特訓をした時にはゴラリュのお肉を食べただろう? ゴラリュは歯ごたえがあるお肉なんだけど、ブルベアーのお肉には甘みがあって、歯ごたえも溶けるようにとても柔らかいみたいなんだ」
「ゴラリュのお肉も十分美味しかったけどなぁ。ユウキはブルベアーのお肉を食べたことあるの?」
僕の質問にユウキは苦笑しながら答えてくれた。
「まだ実家にいた時に食べたけど、あの時は何も分からずに食べてたかも」
「高級お肉を何も分からずに食べるなんて、凄いね」
「あはは。でも、冒険者になって初めて分かったよ。どんな物にも誰かの苦労が乗っかっているんだなって。だから、何も分からずに食べたり使ったりするのは罪だなってさ」
「何も分からずには罪、かぁ」
「そうかもしれませんね」
ユウキの言葉に僕とフローラさんは大きく頷いてしまう。
その隣ではソニンさんが微笑みながら軽く頷いていた。
「その言葉は、物を作る仕事をしている我々にとってはとてもありがたい言葉です。ユウキ君、これからも我々が打った物を使う時には、感謝してあげてください。その想いが、我々の力にもなりますから」
「は、はい!」
ソニンさんの言葉もとても重く、そして説得力のある言葉だ。
確かにユウキがファンズナイフを大事に扱ってくれているのを見ると僕はとても嬉しく思っていた。
そして、そんなユウキにこれからも色々な物を売ってあげたいと思っているのも事実だ。
感謝の気持ちを表現するのって、大事だなと実感するよ。
「——みんな、お待たせー!」
「「「「「うおー! 待ってたぜー!」」」」」
そこに聞こえてきたエルダさんの声に周囲から大歓声が聞こえてきた。
最初に料理が運ばれてきたのはもちろん僕たちの机である。
「味見の為に先に食べちゃったけど、とっても美味しいわよ」
料理を並べながらそう言われてしまった僕たちは、会話もそこそこに料理に舌鼓を打つのだった。
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