エジルの動きと僕の目線
(――うわっ! 何だこれ、気持ち悪いな!)
僕の最初の感覚はそれだった。
だって、自分の視界だけど自分の意思で向きを変えられないんだもの、とても違和感を感じてしまう。
右を向きたくても左を向いてしまったり、瞬きしたくてもしてくれない。慣れるまでに時間が掛かりそうだな。
「気持ち悪いとか言うなよな、なんか悲しくなるよ」
「……ジン、じゃない?」
僕の声でエジルが呟くと、ユウキが疑問を問い掛けてきた。
「んっ? あぁ、君は確かユウキだったね。今の俺はジンじゃないな。話は聞いてる人だったよね」
「あ、その、はい」
「それなら問題ないよ。お姉さんも聞いてるよね?」
「……聞いてるわ」
「よろしい。そっちの女の子は……初めてだね。でもまあ、今の状況なら仕方ないかな」
「…………な、何が?」
状況が全く分からないフローラさんを気にすることなく、エジルは腰に差していた
「さて、君は俺が斬ってあげよう。後悔しても遅いからね?」
(――絶対に倒せよな! 僕の体に傷つけるなよ!)
「注文が多いねー。絶対に倒すけど、傷はつけるかもしれないよ、ごめんね」
(――……鍛冶に支障がないくらいでよろしく)
「あれ? 意外と素直だね、どうしたの?」
(――五分五分なんだろ? だったら仕方ないよ)
「……そうだな。うん、俺に任せろよ!」
エジルにも僕の覚悟が通じたのかもしれない。
気合を入れたエジルが一歩踏み出す――直後には無属性魔法を発動して悪魔の懐に潜り込み銀狼刀を振り抜く。
悪魔の胸部を斬り裂き火属性の熱傷で傷口が焼けただれる。
後方へ飛び反撃に備えたが、悪魔は傷口に目を向けただけで動きが見えない――いや、その表情にだけ変化が起きていた。
(――ちょっと、笑ってるんだけど?)
「うーん、やっぱり力が足りなかったか」
(――無属性使ってたんだよね?)
「そうだけど、あれって本人の力を強化するものだからね。元の力が低ければ、強化される力にも限界があるんだよ」
(――そうだったんだ、知らなかったよ。あっ、動き出しそうだね)
話していると悪魔に動きが見られた。
『キイイィィヒャヒャヒャヒャヒャ!』
傷口に手を添えてドロリと流れ出る血を見つめながら笑みを深めると、突然奇声を発した。
「うわー、あいつ痛みに強いタイプかぁ、嫌だなー」
(――そうなの?)
「ああいうタイプは斬られることを恐れずに突っ込んでくるから、こっちもやられる覚悟を持っていかないと不意をつかれることがあるんだ」
(――こりゃ、本当に怪我は仕方なさそうだね)
「すまんが、そう思っていてくれ」
言い終わった直後、悪魔は笑みを浮かべたまま右手をこちらに向けてくると、紫色の炎が直線的に放たれた。
エジルも左手を突き出して炎を放つ。
火属性のランクが二に上がったこともありその火力は今までの火炎放射よりも跳ね上がっている。
しかし、それでも悪魔の炎とは相殺という形で爆発が巻き起こった。
煙に紛れて再び駆け出したエジルだったが、悪魔も同様に煙の中へ飛び込んできていた。
出会い頭に降り抜かれた右足目掛けて銀狼刀を叩きつけたのだが、膂力で上回る悪魔に押し切られてしまう。
間一髪で後方へと飛び衝撃を軽減させたのだが、腕には痺れが残りその威力の高さを物語っていた。
「目標の能力上方修正、膂力高修正、体皮強度やや下方修正、衝突時に裂傷あり」
(――何言ってるの?)
「んっ? あぁ、これは俺の癖みたいなもんだ。戦いながら相手の分析をして攻略の糸口を掴むみたいな」
(――へー、ただ戦ってるわけじゃないんだね)
「ちゃんと考えてるんだよ」
そうしているうちにも悪魔は次の攻撃に移っていた。
自らの影が怪しく揺らぐと、そこから漆黒の魔獣が姿を現わす――その数は三匹。
その姿は鳥、馬、そして犬――ではない。最後の一匹は嫌な記憶として残っている魔獣だった。
(――うわー、ケルベロスだー)
「あはは、あの時は苦労したみたいだからね。俺に体を貸してくれたらすぐに終わったのに」
(――あの時はあの時、今は今だろ)
「そういうことにしておこう」
しかし、色合いがまるでない漆黒の魔獣は喉を鳴らすこともなければ声を上げることもない。
まるでそこに存在しているだけのように見える。
(――あれって、本当に魔獣なの?)
「正確には魔獣ではないかな。あれは闇属性魔法の上位版で複製だと思う」
(――複製?)
「人間で使える人もそうはいないね。それに、使えたとしても自分の身代わりを作るくらいなんだけど、あいつは魔獣を複製したみたいだ」
一対一から、突如四対一の数的不利な状況。
さて、エジルはどう動くんだろうか。
「……さて、困ったな」
(――えっ、マジかよ)
困ってたよ!
「そりゃそうでしょ。一匹一匹は強くないけど、あいつらは悪魔の意思通りに動く傀儡だ。連携の部分で言えば文句なく面倒臭い相手さ」
そう言われてみるとその通りだ。自分の思い通りに動いてくれるんだからタイミングも何もかもがピッタリになるわけだもんね。
そう思っていると、背後から足音が近づいてきた。
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