手料理でお昼ご飯

 その後はたわいない雑談をしていると、台所から料理を終えたルルとフローラさんがお盆を持って戻ってきた。

 ふたりともとても笑顔でとても楽しそうだ。台所で親睦を深められたのかな。


「できたよー! 材料も色々使わせてもらったから美味しいと思うよ!」

「私も頑張りました! 召し上がってください!」


 テーブルに並べられた品数に驚きながらも、とても良い香りに空腹感が刺激されていく。

 特にカズチはよだれを垂らしそうなくらい料理を凝視していた。


「それじゃあ、いただこうか」

「「「「いただきまーす」」」」

「ピキャキャキャキャー!」


 家主であるユウキの音頭でお昼ご飯を食べ始めた。

 品数もそうだけど、バランス良く野菜やお肉も使われているので健康にも考えられている。

 これだけの材料を使われたらユウキも大変じゃないかと思うんだけど……今は聞けないよね。


「誰かの手料理なんて久しぶりだから、嬉しいものだね」

「ユウキは自炊してるの?」

「外で食べるとお金がかかるからね。節約する為に自炊はしてるよ」

「すごいな。俺は料理なんてやったことないぞ」

「今時は料理くらい作れないとモテないんだよ」

「料理もできるなんて、ユウキ様はすごいですね!」


 何気にユウキを褒めてポイントを稼ごうとしているフローラさんは置いておき、料理は本当に美味しい。

 ミーシュさんの料理に味が似てるのは当然ながら、ルル独自の味付けもされている。若いからか少し濃いめの味付けだけど、これはこれで僕は好きだ。


 そしてあまり食べたことのない味付けはフローラさんだろうか。

 香辛料の香りが強く、食欲を刺激してくる。手を伸ばせば辛味が強い中にしっかりとした味付けもされていて、こちらも若者には好きな味だと思う。

 その証拠にカズチが猛烈な勢いで掻き込み、むせては水を飲んで再び掻き込んでいた。


「これ、すげぇ美味い」

「うふふ、ありがとうございます」

「本当だね。辛味が食欲をそそるよ」

「本当ですか!」

「良かったね、フローラさん!」

「はい!」


 リアクションの違いに驚きつつも、賢く黙っておくことにしよう。

 フローラさんの恋が実ることを祈るばかりだよ。

 ルルはユウキのことが好きじゃなかったのかな。

 うーん……まあ、僕にはあまり分からない世界だから勝手に想像するに留めておくか。


「ユウキにフローラさんも、今日は付き合ってくれてありがとう」

「僕も楽しかったから気にしないでよ」

「私は勉強になりましたから、むしろありがたかったです」

「家まで上がらせてくれたし、食材まで使わせてもらったもんねー」

「こんな美味い料理が食べられたわけだし、俺もラッキーだったよ」


 魔導スキルの勉強だけのつもりだったけど、思わぬ交流ができて本当に良かった。

 フローラさんもルルと仲良くなったみたいだし、これで少しは気が楽になってくれると嬉しいな。


「ユウキ達はこれから冒険者ギルドに行くの?」

「うーん、今から行っても魔獣はあらかた狩られてるだろうし、今日はゆっくりしようかな」

「私も帰ろうと思います。たまには早く帰って家の片付けもしなきゃいけませんし」

「長居するわけにもいかないし、僕たちも帰ろうか」

「そうだな。この借りはそのうち返すからな」

「うん! 私も何かあったらお手伝いするからね!」

「気にしなくていいのに。でも、ありがとう」


 笑顔でそう言ってくれたユウキだけど、その優しさに甘えてばかりではいけないだろう。

 ユウキには有言実行、カズチが錬成した素材で僕が槌を振るい、様々な武具を作りたいと改めて決意した。


「ユウキは主にどんな武器を使ってるの?」

「いきなりだね。まあ、普通の剣を使ってるかな」


 そう言って取り出したのは刀身六〇センチくらいの長さがある剣である。

 これがどれ程のランクにある剣なのか僕には分からないけど、ユウキが普通と言っているのだからそうなのだろう。


「僕があげたナイフは使ってる?」

「あれは……大事に保管してるよ」

「なんでだよ!」

「だって、小金貨相当って言われたら使えないよ!」

「ユウキに使って欲しくてあげたのに!」

「えっ、えっ? しょ、小金貨相当?」


 僕とユウキのやり取りをフローラさんが唖然としながら眺めている。

 鍛冶見習いの僕が小金貨相当の武器を打てるなんて、まあ普通思わないよね。

 僕だって驚いたし、今現在で同じような武器を打ててないわけだし。

 それでもユウキにはあのナイフを使ってもらいたい。何か危険があった時にはユウキの助けになりたいのだ。


「せ、せめて持ち歩いてくれないかな?」

「でもなぁ……」

「お願い! 僕はあのナイフを観賞用で打ったわけじゃないんだよ!」

「……分かったよ。護身用ってわけじゃないけど、持ち歩くようにするよ」

「ありがとう!」

「でも、それだけ価値があるものを目立つところには下げられないから、隠して待つけどいいよね?」

「もちろんだよ!」


 何もないに越したことはないけれど、何かあってから持ってなかったでは遅いのだ。

 冒険者のユウキはその何かに遭遇する機会が多いかもしれないので、常に備えはしていてほしい。


「……小金貨」


 その中でフローラさんだけがなかなか現実に戻ってきていなかったのを見て見ぬ振りをする僕だった。

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