挑戦状?
その後、僕たちはユウキの家を後にした。
フローラさんともすぐに別れて三人で本部に戻ると、ルルはミーシュさんの手伝いがあるからと小走りで食堂に向かう。事務室ではホームズさんたちが忙しそうに仕事をこなしていた。
邪魔をしてはいけないと軽い挨拶だけに留めて部屋に戻ろうとした時だ。
「――おい、貴様!」
突然の声に、僕はそのまま歩いて行こうとしたんだけど――。
「ちょ、お前だよ、そこの小さいの!」
「えっ、僕?」
「そうだよ、お前だよ!」
「……えーっと、どちら様でしょうか?」
おそらく『神の槌』の見習いか何かだと思うけど、僕は見たことがなかった。
他人に迷惑をかけた記憶もなかったので何用だろうと首を傾げる。
「俺はジュマ・ボマス、鍛冶師だ」
「はぁ。それで、先輩が何かご用でしょうか?」
「貴様、棟梁や副棟梁に目をかけられているからって調子に乗ってるんじゃないぞ!」
「……へっ?」
なんとも酷い言いがかりである。
僕は鍛冶も錬成も上手くいっていないし、それどころか今はふたりとも王都に出ているせいで練習時間もない状態なのだ。
調子に乗るどころか、焦りしかないんですけど。
「俺だけじゃない。他の鍛冶師や見習い達も貴様を目の敵にしているんだからな!」
「えー、そんなこと言われてもなぁ」
「ちょっと、どうしたんですかジュマさん」
「カズチは黙ってろ! だいたいどうしてお前はこんな奴と行動してるんだ? お前の価値まで下がってしまうだろう!」
むっ、今の発言は聞き捨てならないな。
「カズチが誰と一緒にいようが関係ないと思うよ。それにカズチはカズチだから、誰と一緒にいようがその価値が下がることはない」
「なあっ! ……貴様、口答えする気か!」
むむ、何故そこでカズチが頭を抱えるかなぁ。
「どうしましたか?」
僕たちの声を聞いてホームズさんが事務室から出てきてくれた。
仕事中に申し訳ないと思いながら口を開こうとすると、先にジュマとやらが話し始めてしまった。
「ザリウスさん! こいつが調子に乗っているから教育してやろうと思っていたんです!」
「コープスさんが、調子に乗ってる?」
首を傾げながらこちらを見てきたので、僕も同じように首を傾げる。
だって調子に乗ってるつもりなんてないからこっちを見られても分からないんだもの。
「そのようには見えませんが?」
「棟梁と副棟梁に敬意を払わず、好き勝手にやっているじゃないですか!」
「そうなのですか?」
「敬意は払ってますよ。ただ、接し方が少しフレンドリーなだけであって――」
「それが敬意を払ってないって言ってるんだよ!」
……えっ、そうなの?
ゾラさんも楽しんでるし、ソニンさんも別段注意しないから問題ないと思ってるんだけど。
「棟梁も副棟梁も、本来なら貴様みたいな見習いが教えてもらえる人じゃないんだ! 自分が特別になったつもりなのか? いい加減にしろよ!」
言いたい放題で僕が口を挟む隙間もあったもんじゃないね。
「でも、ふたりとも普通に接してくれるからなぁ」
「……なめてるのか!」
「そんなことはないけど、えーと、それならどうしたらいいのかな?」
「俺と勝負しろ!」
……へっ? 勝負?
「……暴力反対!」
「当たり前だろ! 鍛冶勝負だよ!」
「鍛冶勝負? えっ、鍛冶するの? なんか楽しそうだね!」
「楽しそうってなんだよ! 勝負だって言ってるだろ!」
僕と先輩の間の熱量の違いは何なのだろう。鍛冶ができるなら楽しいに決まってるじゃないか。
「……カズチ君、これはいったいなんだろう」
「……えっと、俺にもよく分かりません」
カズチとホームズさんがポカンとしている横で、僕とジュマは勝負の話し合いを進めていく。
「ねぇねぇ、いつどこでどんな風にやるのかな?」
「鍛冶場で三番勝負だ!」
「三回も鍛冶ができるんだね! よーし、楽しまなきゃもったいないね!」
「だからなんで楽しんでんだよ!」
「だって鍛冶ができるんだよ! 先輩は鍛冶が楽しくないの?」
「楽しく…………楽しいけど、今はそういうことじゃないんだよ!」
なんだ、やっぱり先輩も鍛冶が好きなんじゃないか! 言動とは違って良い人なのかもしれないね。
「な、なんでそんなニコニコしてるんだよ!」
「だって、ジュマさんも鍛冶が好きなんだなーって思っただけですよ?」
「う、煩いな! 勝負は三日後だ、分かったな!」
「はーい!」
最後は顔を少し赤くして去ってしまった。
鍛冶勝負かぁ、楽しみだなぁ!
……あれ、そういえばなんで絡まれてたんだっけ?
「……やっぱり、ジンはジンだわ」
「……まあ、他の鍛冶師と交流を持つのも大事ですからね」
呆れ顔のカズチに、無理やりポジティブに考えようとしているホームズさん。
何がそんなに不思議なんだろう。
「二人とも、どうしたの? それと、今の人って結局誰だったの?」
「……まあ、ジンだからな」
「……コープスさんですからね」
だから、その言い方は酷くないかなぁ!
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