冬支度

 ――数日が経ち、『神の槌』は年末年始の休みに入った。

 今日までの間はみんな仕事を必死にこなしていたので来年への持ち越しはなく、晴れ晴れとした表情で本部を後にして帰路につく。

 本部の部屋を借りている面々は当然ながら残っているのだが、そこでも笑顔が溢れており冬支度の話し合いを仲が良い者と話し合っている。

 僕もみんなと同じように仕事をこなしていたのだがゾラさんから振られる仕事はそこまで多くないので、仕事の合間を使ってお世話になって人へのお礼の品を錬成していた。


「――よし、これで全員分揃ったな!」


 その数なんと一七個!

 ……予想以上に多くなったけど、お世話になった人に渡す物だからこれくらい必要なのだ。

 僕は魔法鞄に錬成した品を入れるとガーレッドと共に動き出した。

 最初に向かった先は事務室で、予定通りなのはいただけないがホームズさんたちが仕事をしている。


「おはようございます」


 声を掛けるとホームズさんが顔を上げて微笑んでくれる。

 今年はこの笑顔にだいぶ癒されたものだ。


「朝早くからどうしたのですか?」

「事務仕事が残っていると思って、手伝いに来ました」

「「た、助かります!」」


 ホームズさんよりも先にカミラさんとノーアさんが声を大にして喜んでくれた。


「……すみません、コープスさん」

「いえいえ、それじゃあどこから手を付けたらいいですか?」

「それでしたら——」


 ホームズさんの指示に従って僕は事務作業に打ち込んだ。

 午前中で終わるかと思っていたが結構な量の書類があったので終わらず、途中で休憩を挟みながら作業に没頭した。

 僕が手伝いに来た時は当たり前の光景なのだが、カミラさんとノーアさんの休憩時にはガーレッドが大活躍してくれる。

 少しずつ大きくなっているとはいえ、ガーレッドはまだまだ可愛らしい存在なのだ。

 そして、朝の六の鐘が鳴ってしばらくしてようやく全ての書類が片付いた。


「お、終わりました~」

「コープス様、本当に助かりました。それにガーレッドちゃんも!」

「僕よりもガーレッドの方が助けになったみたいですね」

「ピッキャキャーン!」


 僕のツッコミにノーアさんは慌てていたが、ガーレッドが胸を張っていたので結局事務室は笑い声に包まれた。


「しかし、本当にありがとうございました、コープスさん」

「職人が仕事を終えたということは、その書類が溜まっていると思ったので」

「仰る通りですよ。職人の方々も頑張ってくれていましたから、我々もここで踏ん張っているんです」

「ですが、ギリギリのギリギリで書類を持ち込むのは正直どうかと思います」

「そうですね~。帰り支度をしている時に山の書類を持って来られると心が折れそうになりますから~」


 ギリギリまで仕事を入れているって、『神の槌』は大きなクランなのだからそこまで切羽詰まっているとは思えないんだけどなぁ。


「余裕をもって仕事を入れているつもりなんですがねぇ」


 ……なるほど、職人の方々は前倒しで仕事をするなんてことを考えていないのかも。

 スケジュールの中でどうやってまとめるか、ギリギリまで仕事を入れてその通りに作業を進めているのだろう。


「仕事が早く終わったら、追加で仕事を入れることもあるんですか?」

「普段であればたまにあります。ですが、そう多くはないですし、年末に入れることはありませんよ」


 改善策はあるかもしれないが、それを今ここで口にするのは止めておこう。

 だって今日は年末なのだから。


「すいません、仕事の話をしてしまって」

「私の方こそ失礼しました。コープスさんはこれからどうするんですか?」

「お世話になった人に顔を見せに行こうと思っています」


 僕とホームズさんが話をしていると帰り支度を済ませたのかカミラさんとノーアさんが声を掛けてきた。


「それではホームズ様、コープス様、今年はお世話になりました」

「良い職場に就職できてよかったです~」

「こちらこそお世話になりました。また来年もよろしくお願いします」


 ホームズさんが二人と握手を交わしている間に、僕は魔法鞄から二人に渡すお礼の品を取り出した。


「僕もお世話になりました。これ、もし良ければ受け取ってください」


 取り出したのはキルト鉱石を使った黄色い花の置物と、アクアジェルを使った青い花の置物だ。

 黄色い花をカミラさんに、青い花をノーアさんに手渡した。


「うわあっ! とても綺麗な置物です~!」

「コープス様、これはいったい?」

「お世話になった人へ顔を見せに行くだけだと味気ないかと思って、こうしてお礼の品を準備しているんです」

「ですが、私たちの方がコープス様にはお世話になっておりますよ?」

「言われてみるとそうですね~。本当に頂いてもいいんですか~?」

「当然です。二人をイメージして錬成したんですから」


 僕が笑顔でそう口にすると、お互いに顔を見合わせて満面の笑みを浮かべてくれた。

 二人は何度も頭を下げながら事務室を後にすると、僕はホームズさんと向かい合いホームズさんの為に作ったお礼の品を取り出した。

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