仕掛け

「……グリノワさん? グ、グリノワさん!」


 何が起きたのか、一瞬分からなくなっていた。

 だが、呆けている場合ではない。

 僕は立ち上がり駆け出すと、すぐに水属性魔法で消火を始めようとしたのだが。


「——あたたたた、まさかこんな仕掛けがあるとは思わなかったわい」

「……グ、グリノワ、さん?」

「なんじゃジン、心配で来てしもうたのか?」

「……あ、当り前じゃないですか! ってか無事なんですか? 怪我は?」

「掠り傷程度じゃわい。ドワーフは頑丈じゃからのう」


 煙が晴れてきたところでグリノワさんの体を見てみたのだが、衣服は所々吹き飛んでしまっているのだが、口にした通りに皮膚がやや焦げているくらいで大きな傷は見当たらない。


「それでも、早く戻ってフローラさんに回復魔法を使ってもらいましょう!」

「……仕方がないかのう。目的の物も吹っ飛んでしまったし、収穫はなしか。おっと! その前に整地をせねばならんな」

「……整地、するんですか?」

「この状況でほっとくわけにはいかんだろう。魔獣も埋まって入るが、本当に死んでいるかは分からんからのう。火属性で確実に燃やしてやるのも儂らの仕事じゃよ」


 魔獣の存在を口にされると無視はできない。

 グリノワさんも心配だが、本人はぴんぴんしているので問題はない……のかな?

 ということで、グリノワさんが火属性で地面を燃やしているのだが、土の中の魔獣も考慮して火力は相当に強い。

 鞄の中からガーレッドがとても嬉しそうにしているのだが、あまりの火力に僕は汗が止まらない。


「ま、まだ燃やすんですか?」

「念の為じゃよ」

「ピー! ピキャキャー!」


 大火力のまま五分程が経過して、ようやく炎が消えていくが焦げ臭いと魔獣の焦げた臭いが鼻を衝いてきた。


「うーむ、今回は土を入れ替える前に光属性を使ってもらった方がよいかもしれんのう」

「そ、そうですね。これは、臭すぎます」

「ビー、ビギャー」


 言われてすぐに光属性を発動させた。

 大量の魔獣が焼けたのだから、光属性も今までよりもより濃い魔力を使って滅菌する必要があるだろう。

 両手を付き出した僕は、範囲を指定して光属性を発動させた。

 真四角に範囲を指定すると、周囲から光が立ち昇り徐々に中央へと光が増えていく。

 滅菌がされているとより激しい光が立ち昇り、滅菌が終わると弱まっていくのだが、爆発が起こった中央のところだけがなかなか光が消えてくれない。


「……グリノワさん、本当に大丈夫ですか? 爆発の中に変な毒が入っているとかあるんじゃないですか?」

「どうじゃろうなぁ」

「えっ! ほ、本当に大丈夫ですか? 体に異常はないんですか?」

「特に何もないぞ。なーに、もし毒があったとしても大丈夫じゃよ」

「な、何を根拠に?」

「ドワーフは頑丈じゃからな!」

「そんな理由で安心できるか! さっさと滅菌と整地も終わらせてすぐに戻りますよ! もう面倒ですからそのまま整地もやっちゃいますね!」


 僕は光属性を発動しながら、滅菌が終わったところを中心に土属性で整地を並行して始めることにした。

 小さな光になったところの土が盛り上がり新しい土が出てくるのと同時に平たく均していく。

 この方が時間短縮にもつながるし、一回ずつ魔法を使うよりも魔力の消費も少ない。

 何度か魔法を使っていて気がついたのだが、魔法は発動する一番最初が魔力をより消費するようで、一度発動したままさらに別の魔法を使う方がスムーズにできるのだ。


「……これは、驚いたのう」


 そんなグリノワさんの呟きが聞こえてきたが、今はその体の方が心配なので無視である。

 中央の光がようやく小さくなってきたのを確認した僕は、最後の仕上げとして整地を行い完了させた。

 大規模な魔法行使で久しぶりに疲れてしまったが、後は馬車に戻るだけだ。

 振り返った僕はグリノワさんに声を掛けようとして――ふらついてしまった。


「おっと!」

「……あ、あれ?」

「ジン、魔法の使い過ぎじゃぞ?」

「……でも、魔力枯渇になるには、まだ早い気がするんですが?」

「大量に魔力を使うと魔力枯渇になるが、短時間に強力な魔力を連続行使すると枯渇ではないが疲労が溜まる。その反動じゃろうな」

「……す、すいません」


 グリノワさんの為にと頑張ったのだが、逆に迷惑を掛けてしまったようだ。

 支えられたまま僕が落ち込んでいると、大きな手が僕の頭を優しく撫でてくれた。


「何を言うか。儂の為に頑張ってくれたんじゃろう? 儂がお礼を言うことはあっても、ジンが謝ることなど何一つないじゃないか」

「でも、このままだとすぐに戻れません」

「言っておくが、儂はぴんぴんしておるんじゃぞ? 子供の一人くらい、担いで走るのなんて容易いことよ!」

「……か、担ぐって、何をするつもり――どわあっ!」


 肩を支えてくれていた腕が腰に回されると、僕の体はいつの間にかグリノワさんの肩に担がれていた。


「ちょっと、グリノワさん! ま、まさか、このまま――」

「走るぞ!」

「ちょっと待ってくださーい!」

「ピーキャキャキャー! キャキャー!」


 頭が下を向いたままの全力疾走に僕は悲鳴をあげる。

 その横でガーレッドはとても楽しそうな声をあげていたのだが、僕は何のリアクションも取ることができなかった。


 ※※※※

 宣伝マラソン二日目です!

 2020/02/05(水)に『カンスト』3巻が発売となります! 三日後です!

 これも皆様の応援のおかげでございます、本当にありがとうございます!

 3巻でも新キャラは登場するのですが、それ以上にweb版を読んでくれている方でも『おっ!』と思っていただけることが一つございます!

 それは――ガルが一足先に登場するんですよ!

 どういう立ち位置での登場になるのかは、ぜひ書籍版を手に取っていただけると幸いです、よろしくお願いいたします!


『異世界転生して生産スキルのカンスト目指します!3』

 ■作者:渡琉兎

 ■イラスト:椎名優先生

 ■出版社:KADOKAWA(レーベル:ドラゴンノベルス)

 ■発売日:2020/02/05(水)

 ■ISBN:9784040734934

 ■価格:1,300(税抜)

 ■B6判

 ※※※※

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