風属性付与の剣
本来ならば桶の中から剣を取り出して確認するのだが、今回は肝心の桶が光が弾けるタイミングで吹っ飛んでしまったことからすでにその身を晒している。
細く長い刀身の色は薄緑をしており、樋の部分……今回で言うとフラーって言うんだったか、だけを深緑と色合いを分けてみた。
僕が持った感じでもとても軽いこの剣は、無属性で動き回る戦闘スタイルを持っているユウキにはうってつけの武器ではないだろうか。
「ユウキ、振ってみる?」
「……い、いいのか?」
「もちろん。ユウキが使うと思って打ったんだから」
今回は素直に受け取ってくれたので、色合いは問題なさそうだ。
ヒューゴログス、派手な色じゃなくてよかったよ。
ユウキが素振りをするたびに『ヒュン』と心地よい音が聞こえてくる。
グリノワさんはそんなユウキを見て何度も頷いているのだが、マリベルさんはいまだに口を開けたまま固まっている。
フローラさんもユウキを見ているのだが、その表情はグリノワさんとは異なり……ふふふ、乙女の表情をしているよ。ここには何も言うまいて。
最後にソニンさんだが……うん、僕にジト目を向けられても困るんだけどな。
「全く、コープス君はこれだから」
「ソニンさんの錬成が最高だったからですよ。この結果は僕のせいではありません」
「ガハハハッ! どっちも最高の力を発揮したということでいいではないか!」
「そうですよ! あんなに美しい剣、私は見たことがありませんよ!」
「……ジ、ジン君!」
「は、はい!」
最後にようやく正気に戻ったマリベルさんから詰め寄られると、両手を握られ、真っすぐ見つめられ、こう言ってきた。
「私にも打ってちょうだい!」
「ダメです」
「な、なんでケヒートさんが断るんですか! 私はジン君にお願いしてるんだから!」
お、おう。僕が答える前にソニンさんが即答してしまったよ。
「ダメなものはダメなのです。というかマリベル、あなたの武器は超一級品ではないですか」
「そうだけど、もう一本あった方がいいじゃないのよー! 私の剣だって、ユウキ君の剣みたいに折れちゃうかもしれないんだしさ!」
「……ほほう」
あ、あれ? なんだかソニンさんの雰囲気が一気に変わったような。……それも、もの凄く怖い方向に。
「マリベル~? 私が精魂込めて打ち上げた剣が、折れるかもしれないと言いましたか~?」
「……あ、あのー、いやー! それは物の例えでございまして、ほほほ、本当に折れるだなんて思っていないわよ、本当よ!」
「だったら~、もう一本なんて必要ないわよね~?」
「……えっと、それとこれとは別と言いますか、なんと言いますか」
「マ~リ~ベ~ル~~~~?」
「じょ、冗談でーす! ジンくーん、今の発言は忘れてねー!」
……ソニンさん、めっちゃ怖いんですけどー! いや、怖いのは分かってたけど、今日は特に怖かったよー!
今後、ソニンさんの作品を悪く言うのは止めておこう。というか、悪く言えるはずもないんですけどね! 超一級品なわけですからね!
「……と、こうなるわけですから、コープス君もむやみやたらに鍛冶を人前で見せないように、いいですね?」
「……はい」
今回は仕方がないが、今後は気をつけなければならない。
マリベルさん、怪しんでなければいいけど。後からもの凄く追及されそうで怖いんだよなー。
しばらくはソニンさんの側を離れないようにしないとな、うん。
「……ジン、この剣に名前を付けてもらってもいいかな?」
「そう来ると思っていたよ!」
名前付けて問題、もう慣れたからね!
人並みの名前だと
しかし、風神剣ではあまりに安易すぎるのでもう少し考えてみよう。
今まで通り刀を付けることも考えたけど、ユウキのファンズナイフには付けてないんだよな。
それなら横文字にしてもいいのかもしれない。
となると、風だとウインドになるのか。剣はソードとかブレイドとか?
そのままつなげるのも安易だよなぁ。
隼の剣、ファルコンブレイド? ……なんだかなぁ。
風から離れてみてもいいかもしれないな。
なら何を軸にして考えるか。
「……ユウキ……ゆうき……勇気?」
……うん、勇気ならユウキにぴったりの名前を付けられるんじゃないかな!
勇気、勇敢、勇猛、それらを網羅する言葉。
組み合わせる言葉は、ソードでいいかな。ブレイドだと並びが似ちゃうから。
「……ブレイヴソード」
勇気の剣、という意味だ。
僕はユウキが持つ勇気に何度も助けられてきた。
そして、その勇気が助けた人のことも知っている。
だから、この剣の名前にはピッタリだと思ったんだ。
「ブレイヴソードか……うん、気に入ったよ。ありがとう、ジン!」
「こちらこそ。今まで本当に助けられてきたからさ。これが少しでもお礼なってくれたら嬉しいかな。まあ、ソニンさんの力も借りちゃってるから、僕だけの剣ってわけじゃないけど」
「いいえ、これはコープス君が打った、正真正銘、コープス君の剣ですよ」
「ソニンさん」
僕の隣に立ち、そして頭を撫でながらソニンさんがそう言ってくれた。
「私はただ手を貸しただけ。剣の形を作り、ユウキ君のことを想い、最後の最後まで必死になって槌を振っていたのはコープス君、あなたなのですから」
「……はい!」
ブレイヴソード。
これが、これからのユウキを助けてくれるに違いない。
「……ねえねえ、ケヒートさん? ちなみに、これはどれくらいの価値があるものなんですか?」
……この感動的なタイミングで下卑た質問をしているのはあなたですか、マリベルさん?
「……あなたには絶対に教えませんよ、マリベル? それよりも、私はまーださっきのことを怒っているのよ?」
「……な、何も聞いてませーん! 私、ハピーと一緒に哨戒して来まーす!」
「あっ! マリベル様、お食事は……行ってしまわれましたね」
「全く、あやつはいつもこうじゃからのう」
「食事は私たちだけで先に食べておきましょう。マリベルの分は残しておけば問題ないでしょうしね」
まあ、感動的に話がまとまるよりかは、笑顔のままで締めくくる方が僕たちっぽいのかな?
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