魔獣戦

 ガルさんの案内で到着した場所の先には、真っ直ぐにこちらへと向かってくる魔獣の群れが確認できた。

 このまま何もせずに馬車まで接近を許せば、守りきるのは困難だろう。

 さて、どのようにして仕留めていこうか。

 今のところ見せた魔法は火、水、土、風、無属性である。

 ……今考えたら、これで木属性まで使ったらほとんどの属性を持っていることがバレてしまう。実際には全属性持ちなんですけど。

 なるべくはすでに見せている属性を使うべきだろう。


「……よし、決めた」


 僕は頭の中で使う属性を思い浮かべて、集団の一番前に立つ。

 心配そうにこちらを見ているメルさんに笑顔を返しながら、僕は魔獣の群れを見据えた。

 頭の中でイメージするのは──かまいたちだ。

 集団の魔獣を取り囲むようイメージして、その中にかまいたちを発生させる。それも連続で、何度も何度も。


「……照準完了……おっ、魔獣全部入ったかも? ……とりあえずやってみるか……」


 ぶつぶつと呟く僕の背中に視線が突き刺さっている気がするけど気にしない。イメージ力と集中力が大事なのだ。


「…………よし! かまいたち!」


 ガーレッドを拐った冒険者に放ったものと同じとは言えない規模のかまいたちが魔獣の群れの中で荒れ狂う。

 外皮が薄く脆い魔獣から両断されていき、攻撃されたことに気づく間もなく仕留めていく。

 その中でも外皮が硬かったり、柔らかな体毛を持つ魔獣は一撃で仕留めることができなかったものの、二度三度とかまいたちの刃が襲い掛かると耐えきれずに破壊されて両断されるという同じ結末を迎える。


 昨日まで苦戦した魔獣がいとも簡単に地に伏していく光景に、ホームズさん以外の冒険者たちは声も出せないようだ。

 半数くらいは仕留めたいと思っていたのだが、結果的にほぼ全滅まで追い込めたのはラッキーだった。

 魔獣が群れで固まっていなければ、今のような状況にはならなかったはずだからね。


「ふぅ。それじゃあ、後はよろしくお願いします」

「これくらいの量なら私一人でも問題ないでしょう。皆さんはコープスさんの護衛をお願いしますね」


 そう言って高台を降りていったホームズさんは、キャリバーを片手に驚くほどの速さで残る魔獣を排除していく。先ほどの鬱憤を晴らすかのように、嬉々としてキャリバーを振るう。


「……あれが、破壊者デストロイヤーの本気か」

「あー、あれはまだ本気じゃないと思いますよ?」

「そ、そうなのか?」


 ガルさんの呟きに僕が答えると、聞き返してきたのはロワルさんだ。


「ホームズさんがキレると、言葉に暴言が混じるからまだまだ肩慣らし程度じゃないですかね」

「……あれで、肩慣らし」


 最後にラウルさんがポカンとしながら呟いた数分後──生き残っていた残りの魔獣も完全に討伐された。


 その後は魔獣の死体処理に難儀していると、死体処理くらいならとラウルさんが手伝ってくれた。


「ジンって、変な奴だな」

「むっ、心外ですね。まあ『神の槌』でも頻繁に言われるので慣れましたけど」

「……頻繁に言われてるんだ」

「僕って小さい頃の記憶がないんですよね。だからみんなが知ってる常識を知らなかったりするんです。それでなんですけど」

「……そうなのか、その、ごめん」


 そういう設定なのです、逆に許してください、ラウルさん。


「僕は気にしてないんですけどね。ゾラさんに拾われて『神の槌』に入れたし、鍛冶や錬成ができてとても充実してるんですよ」

「だから、こんなところにまでついてきて助けたいんだな」

「その通りです」


 僕が原因だから、とは言えなかった。

 言えないことが多いというのは辛いもので、仲間に嘘をつくことはさらに辛いことだと、今初めて実感している。

 ヴォルドさんなら通り名持ちだし立場的に話をしたけれど、まだ他の人には言えないのだ。


「ゾラ様もソニン様も、とても素晴らしい人だ。王都が何を考えているかは分からないけど、何かしら意図があるならすぐに殺すなんてことはしないはず。だから、絶対に助けような」

「はい」


 ラウルさんなりに僕を励ましてくれているのだろう。その気持ちが嬉しくて、素直に頷く。


「あー、それとだが、ジン」

「なんですか?」


 最後には何か言いにくそうにしているのでなんだろうと首を傾げると──


「火属性、威力強すぎだから注意な?」

「えっ!」


 そういえば、僕の火がボンボン音を立てて爆発しているのと違って、ラウルさんの火はメラメラと魔獣の体を徐々に焼き付くしていく。


「……こ、細かな調整が苦手なんだよね!」

「いや、鍛冶師なら火属性の調整は上手くないとダメだろ!」

「鍛冶と魔獣を燃やすのは違うじゃん!」

「……まあ、ジンが言うならそうなのか?」

「そういうこと!」


 僕は無理やりラウルさんを納得させると、死体処理を終わらせて馬車の方まで戻っていった。

 ……ラウルさん、絶対に納得してなさそうだけどね。

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