追跡

 くそったれ、何だよあいつら! ガーレッドを助けなきゃ!

 でも、その前に--。


「カ、カズチ、大丈夫?」

「いってぇ。あぁ、大丈夫だ。だけど、ガーレッドが……早く助けを呼ばないと」


 朝も早かったせいで入口には誰もいない。叫んだのでそろそろ誰か来ると思うけど、そもそも助けを呼ぶとしてここにいる人でどうにかなるのか?

 僕やカズチのように返り討ちにあうんじゃないか?

 いったい、どうしたらいいんだ?


『--ピ……ー』

「……えっ?」


 今、ガーレッドの声が聞こえた?


『--ピキュ……!』

「ガ、ガーレッド!」


 確かに聞こえた、ガーレッドの助けを呼ぶ声が!

 そうだ、僕はガーレッドの親だ。親が子供を見捨てていいわけがないじゃないか!


「……カズチは助けを呼んでくれ」

「ジン、お前はどうするんだよ」

「ガーレッドを追いかける」

「バカ! 殺されるぞ! それに何処に行ったのか分からないじゃないか!」


 いや、何処に行っているのかは分かっている。何となくだけど感覚的に分かるんだ。

 これが霊獣契約の力なのかもしれない。


「後は任せたよ!」

「ちょっと待て、おい--」


 カズチの言葉を最後まで聞かずに僕は--俺は無属性魔法を使用して駆け出した。


 あー、筋肉痛が痛いな。

 あー、カズチを傷つけやがって。

 あー、ガーレッドを怖がらせやがって。


「あー! マジでムカつく! あいつらマジでぶっ飛ばす!」


 ガーレッドはカマドを出て森の中に向かっているようだ。

 本部を出た時にはばらけて逃げていた、ならば何処かで合流するはず。

 その時に追いつければベストだろう。

 その後はどうするか--そんなのは決まっている。


「や・き・は・ら・う!」


 カマドの街中を超高速で駆けながら最短距離を選択していく。

 そこまで歩いていないけれど頭の中には自然と道筋が見えている。

 ソラリアさんの道具屋を通り過ぎ、冒険者ギルドと役所の前を通り過ぎる。


 --あれは、ユウキ!


 立ち止まって手を借りるか?

 いや、ここで速度を落とすことはできない。

 ならばどうするか--。


「ユウキ!」

「えっ、あっ、ジン!?」


 一瞬の邂逅、目と目が合い、そのまま通り過ぎていく。

 ユウキは昨日ゾラさんと話をしていた。僕の様子を見て何かあったのだと察してくれるはずだ。

 ダリアさんに話がいけば自ずとゾラさんやリューネさんにも話がいくだろう。

 侵入者は焼き払う予定だけど、手は多いほうがいいに決まっている。

 それに……俺が殺されてしまった時にガーレッドを助けられる手も多いほうがいい。


「くそっ、せっかくの異世界転生で生産に勤しもうとしてるってのに、いきなり死ぬかもしれないとかありえないだろ」


 それでも俺は駆けた。

 後輩ちゃんが俺の死を後悔していた姿を見て、俺自身が後悔する道を選べるはずがない。

 カマドを出てからも魔法を切らせることなく駆けていく。

 ガーレッドは森を入って少しのところで止まっている、そこが侵入者の合流地点なのだろう。

 今がチャンスだ、今しかないんだよ!

 五〇メートルを何本走っても息切れしなかった体が息を切らしている。

 肩が上下に揺れ、大粒の汗が流れていく。

 目の前に魔獣がちらほら出てくるが完全無視だ。

 俺は冒険者ではないし、今は魔獣に関わっている時間なんてない。


 --まずい、動き出した!


 こちらの動きに気づいたのか、それともたまたまなのか、ガーレッドが森の奥に移動を始めている。

 相手が再び魔法を使って走り始めれば間に合わない。

 一か八か、俺はありえないイメージで魔法を行使することにした。


 --ガーレッドがいる場所に一瞬で到着するイメージ。


 何処にいるかも分からない、むしろそんなイメージが叶うのか。叶ったとしても俺の体が持つのかも分からない。

 だけど、何もせずに連れていかれるくらいなら可能性を信じて行動を起こす方がいいに決まっている。


 --イメージするのは、ガーレッドの隣を歩く俺の映像だ!


 ミシミシと筋肉が悲鳴を上げているのが分かる。


「ぐっ、がああああっ!」


 あまりの激痛に口からも苦悶の声が漏れるが構わない、絶対に追いついてみせる。


「いっけええええぇぇぇぇぇぇっ!」


 叫んだ直後、俺の視界には高速で通り過ぎていく周りの映像とは別にはっきりと見えている映像があった。

 見間違えるはずがない、カバンの中から顔を出して助けを呼んでいるガーレッドを!


「--みーつーけーたーぞーー!」

「ピッ、ピキャーー!」

「なあっ! あのガキ、追いつきやがったのか!」


 驚愕の声をあげたのはガーレッドが入っているカバンを掴む丸坊主の男性。

 手前にいた髭面とぽっちゃりが振り返り迎撃する構えだ。


 --手加減不要だよなあ!


 この時の俺は久し振りに黒い笑みを浮かべていたかもしれない。

 何せ、ゲームのように好きなだけ暴れてやろうと決めていたから。


「焼け焦げろ--火炎放射!」

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