一試合目の結果

 銅を窯の中に入れて溶けていくのを眺めていると、隣からの視線を感じて振り向く。

 何故だか驚きの表情を浮かべているジュラ先輩に首を傾げながら、僕は溶けた銅が型に流れたのを確認して鋏で型から外す。

 前回上手くいった時はカズチやルルの視線があったけど、ジュラ先輩からの視線は集中力を乱す恐れがあるので意識の外に追いやり銅にだけ集中する。


「金床は……ここか。うーん、自分の部屋と違ってやり難いなぁ」


 最初に配置を確認していなかった僕のミスなので、ぼやく程度で抑えて気合いを入れ直す。

 槌を手に取り想像の中のナイフを強くイメージ、無属性魔法も忘れずに使って銅を打ち始める。

 ユウキの言葉通りなら、一回目のこの鍛冶でより上のランクで仕上がる可能性が高い。

 ここは落とせないと思いつつ、形を成形していく。

 隣からはジュラ先輩の槌を振るう音が響いてきており、やはり一人部屋で打つよりも周りからも音が聞こえてくる方が気持ちいいなと思ってしまう。

 道具の位置が違う為、最初は戸惑ってしまったけど概ねいつも通りの流れで進行できている。


「さて、最後の仕上げだね」


 僕が呟くと、周囲がざわついている感じになったが気にしている暇はない。というか、何にざわついているのかさっぱりなのでどうしようもなかった。

 細かな調整を加えた後、桶の水に銅を入れた直後――水の中から光が溢れてキラキラと光り出した。

 おっ、これは良い出来になりそうだ。

 そんなことを考えてホッとしていたのだが、ふと周りからの視線が集まっていると感じ顔を上げる。


「……えっと、皆さん、何でしょうか?」


 鍛冶場にいる人の中で、僕の鍛冶を見たことあるホームズさん、カズチ、ルルはいつも通りの表情なのだが、それ以外の面々は全員が目を丸くしてこちらを見ている。

 横を向くと、鍛冶の途中であるにも関わらずジュラ先輩まで手を止めてこちらを凝視していた。


「……あは、あはは! 本当に面白いね、見習い君は!」

「ふむ、ゾラさんが囲いたがる理由も分かった気がするね」


 アクアさんとポニエさんがそれぞれの感想を口にする。

 僕の鍛冶って、なんか変なの? そういえば最初の時にゾラさんが驚いていたから、今更ながらおかしいんじゃなかろうかと心配になってきた。

 ……考えても分からないので、とりあえず水の中からナイフを取り出した。

 形はいつも作っているナイフと同じ形状で、質量が多かったのでその分刀身を太く、長くしている。

 特別な紋様とかもない、本当に極々普通のナイフ。


「えっと、これをどうしたらいいんですか?」

「私が預かりましょう。ジュラ君のナイフが打ち上がってから、我々で審査しますから」


 ホームズさんの言葉を受けて、そのままナイフを手渡す。

 気を取り直したジュラ先輩は再び槌を振るい始めていたので、遠目からどういった鍛冶をするのか見ていたのだが……。


「あー、僕の鍛冶って、めっちゃ変だったんだ」

「お前、気づいてなかったのか?」


 呆れ声を漏らしたのはカズチ。


「だって、僕が見た鍛冶ってゾラさんだけなんだもん。鍛冶場でも一応見たけど、あれは遠目からだったし時間もなかったからじっくり見てなかったじゃん」

「言われてみればそうだな」

「基準がゾラさんって、よくよく考えればあり得ないよね」


 鍛冶師のトップが基準になってしまったのだから鍛冶自体がおかしくなっても仕方ないだろう。

 ……その証拠にギャラリーは未だにざわついてるし、アクアさんが大爆笑している。

 こんなことならゾラさんの弟子を自ら辞退するのもありなんじゃないかと思っちゃうよ。


「くっ、くそっ!」


 ジュラ先輩も鍛冶が終わったようだ。だけど途中で手を止めてしまったのがいけなかったのだろう、その出来はあまりよくなかったようだ。

 そのことが見た目にも分かったからか、ジュラ先輩がホームズさんにナイフを渡してから数分で審査は終了した。


「それでは発表します。一試合目の勝者は――コープスさんです」


 ギャラリーもこの試合に関しては勝者が分かっていたのかあまりざわつくことはなかった。パラパラと拍手が送られたのだが、鍛冶師からの拍手は一切ない。

 拍手が聞こえてきたところに目を向けると、そこにはナルグとタバサが顔を出していた。


「先輩たちも応援に来てくれたんだ」

「これは負けられなくなったな」

「負けるつもりなんてないもんね」


 カズチの言葉へ強気に返すと、視線をホームズさんへと戻す。


「今回の結果はコープスさんが3ランクアップ、ジュラ君が1ランクアップという結果でした」


 しかし、3ランクアップという結果には驚いたようでざわざわと騒がしくなる。

 ……僕も驚いたけどね。3ランクもアップしたなんて、最初の鍛冶以来じゃないか?

 それにユウキが言ってた仮説も立証できそうだし、これは有意義な鍛冶勝負になりそうだ。


「……次は、絶対に勝つ!」


 リラックス気分なのは僕だけのようで、ジュラ先輩はといえばこちらを睨みつけて次の鍛冶に備えて気合いを入れている。

 もしユウキの仮説が正しければ、次からは昨日の気分転換の力が発揮されない可能性が高いので要注意だ。


「道具の配置も考えなきゃな」


 頭の中で配置を考えながら、僕は二試合目に挑む為に窯の前へと移動した。

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