ダンジョン・五階層

 ……いったい何が起きているのだろうか。

 階層を進むたびにどこに階段が見当たらず、しばらくすると立て看板が現われてちょっと待てと指示をしてくる。

 僕が思うに、魔王は完全にテンパっているんだろうなぁ。

 だって、三階層はなかなか凝った作りだったけど、次の四階層は全くと言っていいほど何もなく、魔獣も弱くなってしまい、全てのフロアをあっという間に探索することができた。

 それで階段が見当たらなかったのでまさかと思っていたら、再びの立て看板である。

 そして、テンパっていると思っているのは僕だけではなかった。


「……とりあえず、もう少しだけ待ってあげようか」

「「「うんうん」」」


 ユウキたちも苦笑を浮かべながら僕の言葉に頷き、地面に腰掛けて休んでいる。

 リラックスしながら弁当を食べている光景は、ここがダンジョンだということを忘れてしまいそうだ。

 全員がお腹いっぱいに弁当を頬張り、談笑をして、小腹が空いたらおやつを食べて、再びの談笑。

 それだけの時間で暇を持て余していた僕たちだったが、ようやく五階層へ向かう階段が現れた。


「おっ! ようやく現れたみたいだな」

「よし、気を引き締めて頑張ろう!」

「なんだか気を引き締めるのも難しくなるくらいに、雑なダンジョンだけどねー」

「いけませんよ、リューネ様。ここは魔王のダンジョンなのですから」


 意見は人それぞれだろうけど、正直なところ僕もリューネさんと同意見だ。

 これを魔王が意図的に行っているのなら大成功なんだろうけど、そう思えないくらいにテンパっている感じが立て看板からも伝わってくる。

 殴り書きの文字で、それも少し怒っているような感情がありありと伝わってくるのだ。


「……もしかして、面倒になったから次で終わらせようとか、思ってないよな?」

「まさか。まだ五階層だよ? これで終わりだと、低ランクのダンジョンと同じくらいになっちゃうんだけどなぁ」

「そうよねぇ。確認されている最高ランクのダンジョンで三十階層だっけ?」

「いえ、それ以上です。あくまでも現在確認されているのが三十階層までで、さらに下があるみたいですから」


 マジかよ。低ランクのダンジョンって。

 僕の考えが外れてくれることを願う限りだ。

 何故なら、僕はもっとダンジョンを満喫したいからな。

 ……まあ、こんな簡単なダンジョンだったら、さっさと攻略して三十階層のダンジョンを目的地にしてもいいかもしれないぞ。


「よーし、行ってみよー!」


 僕の力の抜ける音頭を受けて、五階層へ続く階段を進んで行った。


 ……あれ? 何も、ない?

 どこまでも続く一本道。魔獣もなく、ただただ真っすぐに続いている。

 魔王が何かを間違えたのかと思い始めたところで、前方に横へ広がった大きなフロアがあることに気がついた。


「……あそこ、何かがいるね」

「……うん。さっきまでの魔獣とは、比べ物にならないくらいに巨大な気配だ」

「……精霊も、怯えているわ」

「……ここからが、本番ということですね」


 巨大な気配を感じ取った時から、冷汗が止まらない。

 これが魔王ではなく、ただの魔獣なのであれば、やはり魔王はとてつもなく強大で、凶悪な存在なのかもしれないな。


「ビギャ!」

「ガウガウッ!」

「なんだ? また先行させてほしいって?」


 僕の言葉に二匹はうんうんと頷いている。

 だが、さすがに今回の魔獣を相手に二人だけを送り出すのは危険な気がする。


(――だったら、ジンも一緒に行ったらいいんだよ)

「……エジル。お前、戦いたいだけだろ」

(――……バレたか!)


 そりゃそうだろう。いきなり声を掛けてきたんだからな。

 ただ、確かに二匹のことが心配なら僕が……いや、僕たちが全員で一緒にいけばいいだけの話か。


「よし、全員で一気に片付けよう!」

「一つ目の山場ってことだね」

「よーし、全力でやってやるわよ!」

「私もこの双剣を存分に振るってみせます!」

「ビギャギャー!」

「アオオオオォォンッ!」


 緩んでいた全員の気持ちが一気に引き締まり、僕たちは巨大な気配を放つ魔獣が待つフロアへ足を踏み入れたのだった。

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