閑話:魔王
「――もう! なんなのよ、あいつらは!」
憤りの声を漏らしていたのは、ダンジョンを造りだした張本人である魔王だった。
魔王の予想ではダンジョンに辿り着くまでに一日。到着してからも階層攻略に一日から二日は時間を要すると考えていた。
しかし、蓋を開けてみればブリザードマウンテンに足を踏み入れた当日でダンジョンを見つけてしまい、さらに階層攻略もあっという間で二階層も簡単に突破してしまった。
一日一階層を造ると考えて、攻略に二日掛れば余分に一階層を増やす事ができるはずだったが、そうはならなかったのだ。
「と、とりあえず、あれをこーして、こっちをあーして……違う! これじゃあ結局さっきと一緒だもの! うーん、うーん……あーもう、どうしたらいいのよー!」
頭を抱えてしまった魔王だが、このまま階層を広げないわけにはいかない。
とりあえず攻略するのに時間が掛かるよう罠を多く設置し、もう少し下層で配置しようと考えていた上級魔獣を配置する事で時間を稼ぐ事にした。
「こ、これで三日は確保できるはず……いいや、これなら四日はいけるわよね!」
そう考えて三階層を開放してジンたちが待ちぼうけを食らっていたフロアに階段を造り出す。
「よ、よーし! これでちょっとは休めるわよね!」
一仕事を終えた魔王は大きく息を吐き出してから近くにあった椅子に腰掛ける。
このまま少しだけ眠ってもいいだろうかと瞼をゆっくりと下ろして、深い眠りに落ちようかという――その時だった。
――ビービービー。
「…………はあ?」
魔王がダンジョンに異常が起きた時に鳴るよう設定していたブザーが音を発した。
眠りにつく直前に起こされてしまい不快な気持ちを隠し切れなかった魔王だったが、どうして音が鳴ったのかを確認するために椅子から立ち上がる。
「………………う、嘘でしょぉぉぉぉ?」
三日、もしくは四日は大丈夫だろうと考えていた三階層が、まさかの数時間で攻略されてしまったのだ。
ブザーはフロアボスとして配置した上級魔獣が討伐された事で鳴っており、現在ジンたちは四階層へ続く階段がないために三階層をうろついていた。
「ま、まずは立て看板を置いて……よ、よし、できた。でも、これからどうしたらいいのかしら? 僕、わかんないよおおおおぉぉっ!!」
泣きそうになりながら四階層を造り始めた魔王だったが、冷静な思考はすでにない。
四階層に足止めの効果は全くなく、なんとか造りだしても開放した数時間後にはまたしても攻略してしまった。
「……………………もうやだ。もう嫌だよおおおおぉぉっ!!」
悲鳴にも似た声をあげながら頭を掻きむしる魔王。
もうどうしたらいいのかわからなくなった魔王は、最後の手段に出ることにした。
「……よし、決めたわ! 次で終わらせてやるんだから!」
ダンジョン作成に必要な全ての力を五階層に注ぎ込む事を決めた魔王は、四階層とは比べ物にならないくらいに広大であり、最高難易度の階層を造ることを決めた。
これだけやって攻略されれば、後は自分が出て行くだけだと覚悟を決めており、もしそうなれば自ら手を下してやろうと考えていた。
「ふふ、ふふふ。僕に掛かれば、あいつらなんて屁でもないんだからね!」
そう口にしてはいるものの、魔王は五階層が突破されるとは全く考えていなかった。
この考えがどのような結果を生みだすのかは――数時間先の話である。
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