ダンジョン五階層・VSベヒモス①
『ブモオオオオオオオオォォオオォォッ!!』
僕たちが姿を見せると、その魔獣は大きな咆哮をあげて威嚇してきた。
先ほどまでの真っすぐ続いていた一本道とは異なり、天井は10メートル以上高く、広さも十分ある。
当然ながら、魔獣もフロアに見合うサイズをしていた。
「で、でかいなぁー」
「あれは、伝説級の魔獣だよ、ジン!」
「まさか、こんなところでお目に掛かるだなんてねぇ」
「……私、生きて帰れるだろうか」
え? そんなにヤバい魔獣なの?
(――おぉー、ベヒモスじゃないか!)
「……ベヒモス?」
エジルの呟きを耳にして僕がそのまま呟くと、三人が一気に臨戦態勢へ入った。
「ジンも早くエジルに変わって!」
「え? あ、わかった」
(――やったー! よーし、ガンガン行くぜーっ!)
「命大事でお願いします」
(――無理だよ! ほら、来るぞ!)
僕のお願いはあっさりと拒否されてしまい、途端に視界が切り替わっていく。エジルに体の支配を委ねた瞬間にその場から移動したのだ。
「ビギャアアアアッ!」
「グルアアアアッ!」
先制攻撃はガーレッドとフルムだ。
巨大な火球を吐き出し、雷撃が全身から放出される。
ベヒモスに直撃するとフロア一帯に火の粉が撒き散らされ、真っ赤な光に照らされる。
ユウキたちが一気呵成に攻めようと駆け出したその時だ――
「戻れ!」
「「「――!」」」
本当に非常事態だったのだろう。
エジルがいつもの軽く口調ではなく、強い言葉でユウキたちを止めた。
三人が反射的に大きく飛び退くと、ベヒモスの周囲に立ち昇っていた黒煙が一気に吹き飛ぶと、一定範囲の地面が一瞬にして抉れて吹き飛んでしまった。
「……な、なんだったんだ?」
「……ちょっと待って、嘘でしょ?」
「……ビギュギュ」
「……グルルゥゥ」
「……効いていない、だと?」
マギドさんの言葉には僕も驚いてしまった。
黒炎の中から出てきたベヒモスの肉体には全く傷が付いておらず、むしろ単に怒らせただけのようにも見える。
なるほど。ここが最下層なわけはない。
きっとここは、何匹かいる中の一匹、中ボス的な魔獣なのだろう。
これだけの魔獣がまだまだ下層にいるのかと思うと、やはり魔王のダンジョンは一筋縄ではいかないと思えてならない。
「すまん、ジン! 急だったから声を借りたぞ!」
(――そのままでいいよ! ってか、ベヒモスを倒すまでは全力でやってくれ!)
「助かる! みんな、俺の指示に従ってくれ!」
「「「おうっ!」」」
「ビギャ!」
「ガウッ!」
一人称が俺に変わったからか、全員がジンではなくエジルが体を動かしていることを理解した。
エジルの指示は素早く、一塊にはならずにベヒモスを囲むような位置を取る。
ベヒモスの正面に立つのはエジル、左右の前足の前にはユウキとマギドさん、後ろ足の前にはガーレッドとフルム、真後ろにリューネさん。
先ほどの地面を抉る攻撃は前方後方と関係がないので常に注意をしなければならないが、それ以外は各自で攻撃を仕掛けていく。
外皮が非常に硬く、直接攻撃もそこまでのダメージにはならない。
それでも攻撃を仕掛けているのは、全員が一点のみを集中して攻撃しているからだ。
「ベヒモスの外皮を破るには耐久力を削るしかない! 一点を打って、打って、打ちまくるんだ!」
それならば全員で一ヶ所を攻撃した方が早いと僕なんかは思ってしまうが、そうすると外皮の耐久力を削る前にこちらへ範囲攻撃が繰り出されるらしい。
ベヒモス討伐で最もやってはいけないことが、一塊になることなのだとか。
(――その範囲攻撃って、そんなにヤバいのか?)
「ヤバいぞ! 俺の時代だと、範囲攻撃で百人近い討伐隊が、一撃で死んでしまったからな!」
……おう、それはヤバい。
それだけ広い範囲に攻撃できるのであれば、たった一人を相手にでも使ってしまえば確実に仕留められそうなものだが、正面でベヒモスの攻撃を集めているエジルには使われていない。
いや、実際は僕の体なので使ってほしくはないんだけど。
(――なんでそれを使わないんだろう?)
「一度使うと、結構な魔力を消耗するんだろうな! だから、簡単には使えないんだと、俺は思っているよ!」
口内から吐き出されたブレスを回避しながら、エジルは素早く前に出てベヒモスの顎に一撃を加える。
直後には風の刃が顕現して襲い掛かって来たが、
倒すまでには相当時間が掛かる、そう思っていた矢先――突如として地面が揺れた。
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