ナイフの名前
とりあえず明言は避けておくとして、僕は銅のナイフを見てから聞きたかったことを聞いてみた。
「そのナイフに名前って付けたの?」
「名前かぁ。まだ付けてないんだよね」
「えっ! そうなの?」
「ジンに言われるまでは家に飾っておく予定だったからね。考えてなかったんだよ」
そういえばそんなことを言っていたね。
でもその時は護身用に隠して持っておくと言ってたじゃないか。
「隠して持っておくんだよね?」
「そのつもりだったけど、やっぱり師匠にナイフ術を習ってみようと思う」
「そこまでの物じゃないと思うけどな」
「そう思えるジン様が凄いと思います」
「えっ、フローラさんまで」
「先ほどの斬れ味は相当のものだと思います。仮にラーフではなく硬い筋肉を持つゴラリュだったとしても同じように斬ることができたと思いますよ」
えー、だって、銅のナイフだよ? そんな凄いナイフに仕上がるものなのかな?
「銅でこの斬れ味は異常なんだよ。だからこそ、その凄さが際立っていると言えるかもしれないね」
「うーん、そんなもんかなぁ」
「……ジン様は不思議な方ですね」
僕のことを不思議な人と考える人が多くないかな! 別におかしなことをしてるつもりはないんだけど、何でだろうね?
「そんなことよりもナイフの名前だよ!」
「そう言われてもな……そうだ! ジンが付けてよ!」
「えー、こういうのは使う人が決めるものだと思うよ」
「僕がジンに決めてもらいたいって思ってるんだ、お願いできないかな?」
それは難しい依頼でございますよ。
僕の知識は日本の知識に偏っている。
この世界で聞かない響きだと変に思われる恐れがあるんだよね。
「やっぱり僕が決めるのはなぁ」
「お願い! 僕って名前を決めるとかしたことないから思いつかないんだよね」
「ジン様、ユウキ様もこう仰っていますし、どうでしょうか」
むむむ、フローラさんまでそんなこと言いますか。
「……それじゃあ考えるけど、変な名前になっても恨まないでよね?」
「うん! ありがとう!」
「とりあえず、ここに立ち止まってるのも何だし歩きながら考えるよ。ラーフはどうしようか?」
「私が燃やします。火属性はまだランク一なので練習中なんです」
ユウキがすでに証明部位を切り取っている。
そのことを確認したフローラさんが火属性でラーフに火を点けると、ゆっくりと火が広がり、数分後には黒い燃えかすだけが残っていた。
「お疲れ様、フローラさん」
「あ、ありがとうございます、ユウキ様」
額にうっすらと汗を浮かべているフローラさんを見て、普通のランク一ではこんなものなのかと内心で驚いていた。
ゾラさんが魔法の練習の時に、ランク一は使いものにならないと言ったのが分かったような気がする。
今回のようにただ燃やすだけなら問題はないだろうが、鍛冶の為に強い火力を出したり、細かく温度を調整するのはランク一では難しいだろう。
「それじゃあ行こうか」
ユウキの声に合わせて僕たちは先へと進む。
二人は会話を弾ませているが、僕はナイフの名前を考えなければならないので話には入っていない。
うーん、この世界風の名前かぁ。……あれ、待てよ? そもそもこの世界の武器の名前なんて知らないんだけど。
「……成るように成るかな」
ボソリと呟き、こうなったら思いついた名前でいいかと開き直ることにした。
僕の初めてのナイフ……銅のナイフ……超一級品……あまり大それた名前にはしたくないよな。だって、銅だもん。
それならやっぱり初めてっていうところに着眼点を持ってくるべきかな。
他に何かあるだろうか? 僕がユウキにあげたわけで、その理由は何だっただろうか? それはもちろん、命を助けてもらったからだ。
何でユウキは助けに来てくれたんだ? それは僕とユウキが友達だからだ。
友達……友情……絆……始めてよりもこっちの方が僕的には気分が良いかも。
友達や友情はありふれているかも、ここは絆……重いかな? でもユウキなら喜んでくれる気がする。
「……うーん、どうしよっかなぁ」
僕の呟きに二人が振り向いたのが視界の端に移ったが気にしない。今は名前を決めるので頭がいっぱいなのだ。
絆とナイフ、捻りがないよな。銅は英語でBronze……違ったっけ? まあいっか、銅メダルのことをブロンズメダルとかって聞いたこともあるし。絆は英語でBonds……ナイフは英語でKnife……BBK……ビービーケー?
やばい、頭の中がプチパニックになってきた。
「ジン様、大丈夫ですか?」
「なんかすごい顔になってるよ?」
「ピキュー?」
「……大丈夫、大丈夫」
銅も絆も発音が似てるから困るよ。
この際、銅は省いて初めての絆なんてどうだろう。FirstとBonds……こ、こんなんでどうだろうか。
「――ファンズナイフ」
無駄に長くもないし、呼びやすい……と思う。
「ファンズナイフか……うん、僕は好きだな」
「よかったですね、ユウキ様」
ユウキの笑顔を見て、気に入ってくれたのだと一目で分かった。
でも、相当に頭を使ったから次からは考えないぞ! 絶対に使う人に考えてもらうんだからな!
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