魔法石と素材集め
銅のナイフ改め、ファンズナイフを腰に差したユウキと僕たちは鉱山の奥に進むと、徐々に黄色い鉱石が目立つ場所までやってきた。
貰った素材に大量にあったから僕でも分かる。これがキルト鉱石だ。
ここまで来る間にラーフが五匹、ゴラリュが三匹現れたが、全てユウキが一撃で倒してくれた。
ナイフ術を習っていないとは言っていたが、その動きはスムーズで習っていないとは思えない。本人はまだまだだと言うけれど、本格的にナイフ術を習い始めたら相当な使い手になるんじゃないだろうか。
これで貴族家の出で、それも魔導師の名門だというのだから世の中分からないものだよ。
「そういえば、ユウキは
「魔法石? 持っているけど……あ! もしかして魔法を保存してくれるの?」
すっかり忘れていたけど魔法石に魔法を保存する約束をしていたのだ。今はフローラさんとパーティを組んでいるから火属性がないということはないけれど、一人で依頼を受けることもあるだろうし、魔法が保存されていればいざと言う時にも使えるので保存しておいて損はないだろう。
外に出ているわけだしちょうど良いタイミングだろう。
「火炎放射でいいかな?」
「あれってそんな名前だったんだ。うん、お願いできるかな」
鞄から取り出された魔法石を受け取ってから気づいた。
「……これ、どうやって保存するの?」
魔法石を握りながら魔法を発動するって言ってたけど具体的にはどうするんだろう。火炎放射が暴走するってことはないよね?
「魔法石を握り込んで、魔法石に魔法を放つイメージだね。ポイズンアースが相当高い質量の魔法だったから、限界を越えることはないはずだよ」
「わ、分かった」
ちょっと怖いけど、ユウキが言うなら間違いないだろう。
両手で魔法石を握り込むと、手の中に火炎放射を発動する。手の中が薄っすらと赤くなったかと思えば、魔法石に火炎放射が吸い込まれていくのが分かった。
「ピーキャー!」
炎が見えて喜んでいるガーレッドをよそに僕は発動し続けていたのだが、途中で止めた方がいいかもしれないと何となく感じ取った。
「……うん、大丈夫だね」
「ユウキ、今のは?」
「質の良い魔法石は限界を保存者に教えてくれるんだ。ジンも何となく分かったんじゃない?」
「分かった。だから止めたんだけど……そう言うことは先に言ってよね?」
「あはは! ジンなら分かると思ったんだよ」
「壊れたらみんな焼けちゃうんだからね!」
「や、焼ける……」
「ピキャキャ!」
言葉を濁すフローラさんに、そこでも何故か喜んでいるガーレッド。
ユウキには言いたいことがあったけれど魔法石への保存がうまくいったので、そこは口にしないことにした。一応、今は外にいるわけだからね。
「全く。そうそう、この辺りにもキルト鉱石はあるみたいだけど採らないの?」
「採ってもいいんだけど、この辺りの鉱石はあまり良質ではないんだよ」
「へぇ、見た目には綺麗なのにね」
「とても細かく分布してるでしょ? 綺麗に見えるけど、その質量はとても少ないんだ。まとめれば使えはするけど、それをするなら良質な鉱石を探した方が効率がいいってことだろうね」
この辺りはキルト鉱石が分布している場所の入口なのだとか。ここより更に奥に向かえば良質なキルト鉱石が手に入るらしい。
「ユウキもホームズさんとここまで来たの?」
「うん。師匠は別の場所にも行ったみたいだけどね」
「別の場所?」
「素材の中に魔獣の素材があったでしょ? あれだよ」
「あー、なんかホームズさんが珍しい魔獣の素材が手に入ったとか何とか言ってたね」
「きっとそれだね。僕も行きたかったんだけど、下級冒険者を連れて行ける場所ではないって断られたんだよね」
ホームズさんはいったいどこまで行ったんでしょうね。
「そ、その割には楽しそうに話してたけどな」
「怪我で冒険者を引退したって聞いたけど、師匠の実力なら今でも十分やっていけると思うんだよね」
「そうだねー、めっちゃやり合ってたもんねー」
出来損ないとはいえ悪魔と対峙して生き残ったのだ、その実力は今なお健在なんだよね。
本当に、何で事務員何だろうか。
「ユウキ様、ジン様。この辺りならもう大丈夫かと思いますよ」
僕たちの話を邪魔しないように聞いてくれていたフローラさんが口を開く。
その場所はキルト鉱石が目に見える形で大量に存在する洞窟の入り口だった。
「……ここ、凄いね」
「ピーキャー!」
「さっきの小さなキルト鉱石とは全然違うでしょ?」
「そうだね。でも、ここまでの道のりで魔獣ともそこまで遭遇しなかったよね。ダリアさんからは危険度が増すって聞いたけど、それでもやっぱり銅の方がいいのかな?」
出会った魔獣はラーフとゴラリュのみ。それも全てユウキだけで倒してしまった。
中級以上の冒険者と下級冒険者の組み合わせで何とかなるんじゃないのかな。
「僕たちは三人だからね、そこまで魔獣も警戒してないんだよ」
「そうなの?」
「これが採掘する為なら大勢の人間でここまで来るんだけど、そうなると魔獣も警戒して襲いかかって来る確率も上がるんだよ」
「人間も魔獣も同じです。突然大勢の異種族が迫って来たら身構えてしまうものですから」
言われてみればそうだ。
だから必要な人はギルドに依頼して必要な分だけを採ってきてもらうんだね。
大量に欲しければ
「今日は僕が魔法鞄を持ってるから、欲しい分だけ採っていいよ!」
「いや、僕たちが採っても使い道が……」
「そうですね。鍛冶や錬成ができるわけではないですし」
えっ? 使い道ならもっとあるじゃないか。それも二人に直結する使い道が。
「素材を売ったらいいじゃん」
「「えっ?」」
「……えっ、ダメなの?」
素材を手に入れるには買うか依頼するか採りに行くって聞いたから、てっきり素材を買取る場所もあると思ったんだけど、違うのかな?
「いや、ダメってわけじゃないけど」
「考えたこともありませんでした」
「普通そこから考えるんじゃないの?」
冒険者だから住居を持てなかったり商売ができないのはソニンさんから教えてもらったけど、採掘してきた素材を売ってはダメとは聞いていない。
それが商売となれば話は別だろうけど、単純に採って使わないから売りたいです、なら問題ないんじゃないのかな。
「キルト鉱石って結構便利みたいだし、上質な物だったら高値で取引されるんでしょう? せっかくだし探してみようよ!」
「僕は構わないけど、フローラさんは?」
「えっと、私も構いませんが」
「よーし! それじゃあみんなで上質なキルト鉱石を見つけ出すぞー!」
「「お、おー?」」
ユウキはお金に困ってるって前に言っていたし、前パーティを抜けたフローラさんもその可能性は高い。
ここで臨時収入を得られれば生活は多少なりとも潤うのではないだろうか。
特にユウキは一昨日の勉強会で大量の食材を提供してくれたからそのお返しもしたかったのだ。
僕たちは休むことなく洞窟の奥へと進み出した。
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