キルト鉱石

 洞窟内は薄暗い、かと思いきや意外に明るかった。

 奥に向かうと徐々に薄暗くなるのだが、入ってしばらくのうちは外からの光が差し込み火属性魔法や光属性魔法を使わなくても視界は問題ない。

 壁に見えているキルト鉱石に光が反射して洞窟内を照らしていたのだ。


「結構進んで来たけど、まだ魔法なしでも問題なさそうだね」

「奥に行けば必要になるけど、なるべく魔力を温存して損はないからね」

「もし明かりが必要になったら僕が魔法を使うからね。フローラさんには魔獣の処理で火属性をたくさん使ってもらったからさ」

「いえ、ここも私が」

「ダメだよ。魔力の温存は大事だからさ。それに、ここまで僕は何もしてないから暇だったんだよね」

「ピキャ」


 ガーレッドも僕と同じで二人の活躍を眺めているだけだった。

 ちゃんと調整するので何かしらの仕事が欲しいところなのだ。


「分かりました。その時はよろしくお願いします」


 素直に頷いてくれたフローラさんを見て、正直ホッとした。

 汗もそうだけど、途中でポーションも飲んでいたのだ。そんな人に魔法を任せるわけにはいかないからね。

 魔力枯渇になるようなヘマはしないと思うけど、大事な場面で使えないとならないようにしなければ。


「あっ! あれとかどうかな?」

「うーん、一度採ってみようか」


 僕は見た目にも綺麗で大きなキルト鉱石を指差して採掘を開始した。

 大きい鉱石であれば時間が掛かるなあ、なんて思っていると、あっさりと採掘は終了してしまった。


「……う、薄いな!」


 そう、表面に出ていた部分がその全てだったのだ。

 何だこれ、フリスビーみたいじゃないか。


「これはいらないかな」

「そ、そうだねー、あははー」


 さすがのユウキもフォローできず、同意を示すことしかしなかった。

 その後も何度か気になった鉱石を採掘したのだが、どれも小さかったり、形がいびつだったり、それだけで高価なものはなかなか見つからない。


「ホームズさんと来た時はもっと奥まで行ったの?」

「最深部まで行ったよ」

「さ、最深部ですか?」


 フローラさんが顔を引きつらせている。

 洞窟の中で魔獣と遭遇してしまうと逃げ場がない。それが洞窟の奥であればあるほど、戻るにも時間が掛かるので嫌なのだろう。


「あの時は師匠がいたから行けたけど、さすがにこのメンバーで行こうとは思わないよ。まだ出てきてないけど、ここにはバルラットがいるからね」

「……バルラット?」


 魔獣、だよな。

 初めて聞く名前に首を傾げていると、ユウキが特徴を教えてくれた。


「僕たちと同じくらいの大きさの魔獣で、ネズミみたいな見た目の魔獣だよ」

「ネズミ?」


 この世界にもネズミっているんだな。……僕が想像しているネズミと同じだろうか。


「ネズミって、歯で木とかをカリカリ噛んだりする四足歩行のあれ?」

「そうそう。ジンは見たことないの?」

「あるといえばあるけど、ないといえばない」

「何それ?」


 ……ごもっともで。


「とりあえず、バルラットは集団でいることが多いんだ。強力な魔法が使えれば一掃できるだろうけど、僕みたいに近接戦闘しかできないと数に圧倒されちゃうんだよ」

「ホームズさんは魔法も凄かったの?」

「一瞬でバルラットの群れがいなくなったよ」


 わーお、さすが破壊者デストロイヤー


「そういうことならこの辺りで採掘した方が良さそうだね。だけど良さそうなのがなー」

「フローラさんもこの辺りで……フ、フローラさん?」


 ユウキが言葉に詰まってしまったので僕も振り返ってみる。……えっ、あの、ちょっと、何でそんなに顔が青いんですか?


「フローラさーん、大丈夫ですかー?」

「えっ? あ、はい! だ、大丈夫ですよ!」


 いや、全然大丈夫じゃないよね!


「どうしたの? 何かありましたか?」

「いえ、あの、その、じ、実は私……」

「実は?」

「――ネ、ネズミが苦手なんですううううぅぅっ!」

「「……へっ?」」


 ネズミが苦手って……あー、それで奥に行くのかとなった時に顔を引きつらせていたのか。

 ネズミに似たバルラット、それも大きさが桁違いで人間と同じくらいときたもんだ。そりゃあ青ざめるのも分かるよ。


「も、もももも、もし群れで現れでもしたら、私はああああぁぁっ!」

「ちょっと、落ち着いてよ、フローラさん」

「そうだよ、あまり大声を出すと出てきちゃうから!」

「で、出てくる! バルラットが!」


 ちょっとユウキ! 煽らないでよ!


「大丈夫だよー、落ち着いてー、深呼吸ー」

「すー、はー。すー、はー。すー……はー」

「どう? 落ち着いた?」

「……は、はい、少しは」

「うん、よかった。大丈夫、バルラットは今のところ出てきてないし、騒がなければ出てこないよ」

「はい」

「それに、もし出てきたとしたら僕が魔法で焼き払うから安心して」

「ジン様が? ……あー、そういえば、凄い魔法を使っていましたね」


 その覚え方はどうかと思うけど、もし出てきた場合は僕が適任だろうから仕方ないよね。

 無属性以外使えないユウキと、魔力が少なくなっているフローラさん。いや、そもそもフローラさんはバルラットと戦えないか。


「そういうこと。だから安心してね」

「……冒険者の私が、このくらいで怖気付くなんて。ジン様、すいません」

「苦手なものは仕方ないよ。誰にでも苦手なものはあるからさ」

「ジン様にもあるのですか?」

「もちろん!」


 苦手なものはありますとも。……いや、苦手というか、逆らえない?


「ソニンさんには逆らえません。僕の鍛冶部屋が潰されちゃうので」


 ポカンとした表情で何度か瞬きをした後、フローラさんらしくクスクスと、それでも満面の笑みで笑ってくれた。

 ユウキもその姿を微笑みながら見つめている。

 気持ちが落ち着いたフローラさんと共に、僕たちは相談の上でもう少し奥に進むことにした。

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