第3章:鍛冶と時々魔導スキル

鍛冶三昧とはいかず……

 僕の部屋に鍛冶部屋が出来たことで鍛冶三昧! ……って思ってたんだけど、そう思い通りにはいかないものだ。

 時間指定があり、それを破ると鍛冶部屋をソニンさんに潰されかねない――いや、潰される。

 それだけは避けねばならないので約束を破ることはできないのだ。


 さらに気になることが一つ出てきてしまった。


「……鍛冶が、上手くいかない!」

「荒れてはいけませんよ、コープスくん」


 そう、鍛冶がここのところ全くと言って上手くいかないのだ。

 いや、上手くいかないというのは語弊があるかもしれない。


「これでも一つ上のランクで仕上がっているんですから」


 ソニンさんの言う通り。一つ上のランクに仕上がっているのだから上手くは出来ているのだ。

 それでも過去に超一級品に仕上げたことがある身としては物足りない。

 イメージ力を重視して複雑な形状ではなく、単純なナイフを作り続けているのだが、そのほとんどが一つ上、良くて二つ上の仕上がりで止まっていた。


 ――カーン、カーン、カーン。


「あら、三の鐘ですね」

「うぅ〜、終わります〜」


 出来上がったナイフを棚に並べて槌や鋏などを片付けていく。

 鍛冶部屋が出来てから三日が経ったけど、僕の腕前は成長してくれない。

 頭の中でイメージし、さらに鍛冶を開始する前にも何度もイメージを繰り返し固めてきたのだ。それでも一番の出来には程遠い。

 正直、今は何が要因で上手くいっていたのかが分からない状況だ。


「焦っても良い結果には結び向きませんよ」

「分かってます。それでも、考えてしまうんですよね」

「考えることは良いことです。それがいき過ぎてはいけませんけどね」


 鍛冶部屋のドアを閉めて溜息を吐き出す。

 鍛冶はできているのにこの行きづまり感、やはりゲームと現実は違うのだと改めて実感するね。

 これが普通なのか、それとも英雄の器による何らかの要因なのかも分からないのだから、ゼロから考えるしかない。


「それでは、私は戻りますね」

「ありがとうございました」

「今日の夜はザリウスさんが来られる予定ですからね」


 去り際にそう告げてくれたソニンさん。

 部屋のドアを閉めて再び溜息。気持ちがなかなか浮上してこないところで、足をツンツンと突かれる。


「ガーレッド〜」

「ピキャー!」


 ガーレッドを抱き上げて顔をお腹に埋める。

 ふかふかの毛が僕の心を癒して気持ちを浮上させてくれるのだ。


「どうして上手くいかないと思う?」

「ピキャー?」

「分かんないって?僕にも分からないよ」


 ある程度気持ちが落ち着いたら顔を離してガーレッドとお喋りに興じる。

 上手くいかないことでイライラした時、完全な失敗作が出来上がったので鍛冶をする時には気持ちを落ち着かせる必要があるのだ。

 ガーレッドとのお喋りは気持ちを落ち着かせるのに最適なのである。


「ガーレッドはいつ成獣になるのかな?」

「ピッピキャー?」

「それも分かんないって? あはは、面白いね」


 ガーレッドが産まれてからまだ数日だけれど、早く成獣姿を見てみたい。

 普通の成獣が一年らしいからまだまだ先だけど、個体数が少ないドラゴンは過去の例が少なすぎて分からないとも言われている。


「ガーレッドのペースでいいからね」

「ピキャン!」


 その後は手を持ってパンチしたり、高い高いしたりして上手く遊んでいると、ドアがノックされた。


「どうぞー」


 現れたのはカズチとルルだ。

 二人一緒に訪れるのは珍しいと思いながら、そのまま中へと促す。


「おはよう、二人とも。どうしたの?」

「この後は暇か?」

「鍛冶の練習もお休みだから、暇だよ」

「カズチくんがサラおばちゃんのお店に商品を卸に行くんだって。それで、一緒にどうかと思って」

「そうなんだ! それなら僕も行きたいな」


 今日が初めての納品ってことになるのか。

 練習の時から雫型に錬成し続けていたから結構な数になってあるはずだけど、その全てがサラおばちゃんのお眼鏡に叶うかは分からない。

 平静を装っているけど、カズチが緊張しているのが分かるよ。


「この後すぐに向かうの?」

「あぁ、そのつもりだ」

「分かった。ガーレッド、鞄に入ってくれるかな」

「ピッピキャー!」


 元気よく返事をしたガーレッドは飛び跳ねながら鞄に飛び込んだ。

 久しぶりの外出に喜んでいるように見える。

 僕も外出をしていなかったから、たまには気分転換も必要かもしれない。


「鍛冶の練習は順調か?」

「あまり上手くはいってないかな。最初の時みたいな結果にならないんだよね」

「あんな結果がポンポン出る方がおかしいんだからな?」

「だとしてもだよ。何分の何の確率でその一回が最初に出たんだって感じだよね。たまたま出来た、とかだったら運任せにもほどがあるよ」

「みんな、大変だねー」


 クスクスと笑いながらルルが呟く。

 僕とカズチは顔を見合わせて苦笑を浮かべながら、そのまま部屋を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る