鉱山へ
翌朝、お風呂に入って目を覚ますとホームズさんが部屋を訪れた。
「おはようございます。ユウキと連絡が付きましたよ。ユウキとフローラさんは南にある銅の鉱山に向かう予定だったので、よければ一緒にどうかとのことです」
「分かりました。それじゃあ動きやすい格好の方がいいですね」
「コープスさんなら大丈夫だと思いますが、鉱山には魔獣もいますから気をつけてください」
僕なら何故大丈夫なのかは追求せずに黙々と準備を進めていく。
動きやすい服装、
……これだけ見ると凄い豪華な装備だよね。
魔法鞄は大金貨が動くほどの物だし、銀狼刀も超一級品の武器だし、霊獣のガーレッドはドラゴンだし。……僕、鍛冶師なんですけど?
「ユウキ達は本部の入口で待っていますから、行ってあげてください」
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げてお礼を言うと、僕は入口に駆け出した。
※※※※
ユウキとフローラさんと合流した僕は南門から銅の鉱山へと移動した。
森を少し入った先にあるのだが、大きな鉱山ということもあり森に入る前からその峰を見上げることができる。
麓には銅を採掘している業者が数多くおり、一つの穴から人が出たり入ったりを繰り返していた。
「鉱山ってこんなに活気があるんだね」
「豊富に採れるとは言っても素材も有限だからね。採れるうちに採っておこうってことだと思うよ」
「それに、魔獣もいますからね。冒険者も雇われていますからその分人は多いと思います」
作業着を纏った人の中に剣や槍を手に持った人の姿も見え隠れしている。
「麓付近ではそこまで多くはないんでしょ?」
「そうだね。前に渡したケルン鉱石が採れる鉱山の奥には魔獣も多くて、ラーフやゴラリュ以外にも魔獣が生息しているよ」
「見たことのない魔獣か。正直、会いたくないね」
「魔獣が現れたらユウキ様や私が相手をしますからご安心ください! ……あっ、でもジン様も戦えるのですよね?」
フローラさんは僕が悪魔と対峙していたのを見ている。実際には僕に憑依したエジルなんだけど、そのことは伝えていない。
「まあ、それなりにはですね。魔法以外はてんでダメなんで」
「そうなんですか? そうは見えなかったんですけど……」
「あの時は師匠もいたからね。最後の方は色々指示を出していたからさ」
「……でも、ザリウス様は途中から」
「ぼ、僕たちは奥の方に用事があるからそのまま進もうか!」
「そ、そうだね! 初めてだから楽しみだなー!」
「ピキャキャー!」
「えっ、あの、えっ?」
ユウキが話を勝手に進めてしまったので僕もそれに乗っかることにした。
困惑しているフローラさんだけど、今はまだ英雄の器について伝えるわけにはいかないのだ。
現在も悪魔と対峙した心の傷が完全に癒えていないのに、変な負担や重荷を背負わせるわけにはいかない。
ゾラさんとソニンさんが王都に行っていることも伝えられない理由の一つだ。
ホームズさんからは王都の近衛騎士がリューネさんを訪ねてきたと話があった。それは何かに勘付いている証拠にもなる。
僕のスキルについてフローラさんが知ってしまえば、何かいざこざがあった時に巻き込まれる可能性だってあるのだから、伝えるべきではないだろう。
ガーレッドは……まあ、単純に鉱山に行くのが楽しみみたいだけど。
山道を進みながら談笑していると、前方に魔獣が姿を現した。
「あれは……ラーフだっけ?」
「そうだね。ジンは下がって」
「う、うん」
ケルベロスや悪魔と対峙したせいか、下級魔獣だとこんなものかも思ってしまう。
それでもユウキが下がってと言うのだから従うべきだ。
「ふっ!」
掛け声とともに無属性魔法を発動したのだろうが、その精度は僕が最初に見たユウキとは雲泥の差があった。
ラーフまでの距離は目算で五〇メートル程なのだが、その距離をたったの五歩で詰めてしまう。
「あっ!」
ユウキの魔法にも驚いたのだが、それよりも驚いたのは手にしていた武器。振り抜かれたのは僕があげた銅のナイフだった。
刀身がラーフに届いた――はずなのだが、四肢を地面に付けたまま動く気配がない。
――ズル。
いや、違う。あまりの斬れ味に抵抗もなく刀身がラーフの体を通り抜けたのだ。
一瞬で絶命したラーフの体は切り口からズレ始めると、最後には上下に分かれて崩れ落ちた。
「……は、速い」
「私も驚いたのです。ユウキ様が下級冒険者だなんて、正直信じられませんよね」
フローラさんの目から見てもユウキの実力は高いようだ。それに今の言い方だと中級冒険者よりも上なのかもしれない。
ナイフをまじまじと見つめながら、ユウキがこちらに戻ってきた。
「ユウキ凄いね! この分ならすぐに中級冒険者に上がれるんじゃないの?」
「……」
「えっと、あれ? ユウキ?」
「……ジン、このナイフ、本当に凄いね」
えっ? 今の話の流れで何故そうなった?
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