夜の鍛冶
部屋に戻った僕は特にやることもなく、夜の鍛冶まで時間もあったのでガーレッドと思いっきり遊ぶことにした。
少し大きくなったガーレッドを高い高いするのは少し大変だったけど、無属性魔法を使えばなんてこともない。本当に使わずにできたらいいんだけど、人間いきなり筋力をつけるなんて無理だから仕方ないのだ。
ちゃんと筋力をつけないといけないとはわかっているが、こればっかりは継続が必要である。
「ガーレッドはドラゴンだからかな。高い高いが好きだよね」
「ピキャキャ!」
「成獣になったら自分で飛べるようになるから、その時は僕を乗せてね」
「ピキャン!」
元気よく返事をしてくれたので自然と頬が緩んでしまう。
それにしてもドラゴンというのはどれ程大きくなるのだろうか。
僕の部屋以上にはなりそうだよね。まさか本部を超える大きさには……ならないか。もしなってしまったらどこの都市でも暮らせなくなるだろう。
過去に例があるのであれば、少なからず都市に入る大きさでなければ話にならない。
「何人くらい乗せられるのかな?」
「ピキャー?」
分かんないのか、そうだよね。
成獣のドラゴンがいれば別だけど、ガーレッドは産まれてからずっと僕と一緒なんだから分かるはずがないか。
「まあ、ガーレッドがどれだけ大きくなっても僕は手放したりしないからね」
「ピキャン!」
よしよし、いい返事だね。
頭を撫でながら何気ない会話をしていると、あっという間に時間が過ぎてしまった。
――コンコン。
「あれ、もうこんな時間か。はーい!」
ガーレッドをベッドに座らせてドアを開けると、ホームズさんが挨拶をして入ってきた。
今日の朝は上手くいかなかったので、夜の鍛冶は何とか上手く作りたい。
「準備はいいですか?」
「はい、大丈夫です」
「ピッピキャキャー!」
ガーレッドを抱き上げて鍛冶部屋に向かい、素材を準備する。
残っていた銅を取りながら、ナグル先輩とタバサ先輩から貰った素材を引き出しに補充していく。銅とそれ以外を分けて引き出しの一段目と二段目に片付けるといよいよ本番だ。
誰かに見られている、というイメージを膨らませて深呼吸。そのまま目を閉じてイメージを強固なものとしていく。同じことの繰り返しなので慣れたものだ。
「それじゃあ行きまーす」
今までは気を張り過ぎていたのかもしれない。そう思って少し気楽に鍛冶を行うことにした。
朝に言われた鍛冶を楽しむこと、そこを優先する為でもある。
銅を溶かし、金床に乗せ、槌を振るう。
何十回と繰り返してきた作業を淡々とこなして水に投入。
――ピカァ……。
ふーむ、これでもダメか。
「何がいけないんでしょうね、本当に」
「コープスさんの気持ちの部分が大きいように感じますけどね」
「気持ち、ですか?」
「昨日は確かにカズチ君やルルさんがいましたけど、その前は何をしていましたか?」
「その前?」
うーん、何をしてただろう。
「……ジュマ先輩にケンカを売られました」
「そ、その前です」
「ルルとユウキを先生にして魔導スキルの勉強をしてました」
「それです!」
……へっ? 魔導スキルですよ、鍛冶スキルじゃないですよ?
「勉強会がコープスさんの気持ちを充実させ、それが昨日の鍛冶にも反映されたのではないでしょうか」
「うーん、そうなんですかね?」
成功した時のことを考えてみよう。とは言っても二回だけなんだけど。
一番最初はゾラさんの鍛冶部屋でのことだ。魔法の練習をして、鍛冶ができると喜んで戻ってきたんだっけ。
次が昨日の夜の鍛冶で、確かに魔導スキルの勉強会を行い気持ちは充実していたかもしれない。
たったそれだけのことで鍛冶が上手くいくいかないに関係があるのだろうか。
「今日の朝も話しましたが鍛冶を楽しむこと、そして気持ちの充実はとても重要です。焦っていてはできるものもできなくなります――そこで一つ提案です」
「提案ですか?」
「はい。明日は鍛冶をせずに、朝から出掛けてみてはいかがでしょう」
「えっ! 鍛冶をしないでてすか?」
それはまた意外な提案だ。鍛冶勝負に向けて動いているのに鍛冶をしないだなんて。
「夜はもちろん行いますよ。ですが、コープスさんの鍛冶は気持ちの部分で大きく影響が出るのではないかと推測できます。確かに鍛冶勝負は明後日ですが、今は鍛冶を淡々とこなすのではなく上手く出来た時の成功体験を追い掛けることの方が大事だと思いますよ」
非常に悩みどころである。
鍛冶はしたい、もの凄くしたい。だけど成功した時の喜びは淡々と鍛冶をするよりも何倍の嬉しさがある。
鍛冶を成功させる為に必要なことであれば、鍛冶以外の部分に目を向けて試してみるのも必要ってことなのかな。
「……分かりました、明日の朝は休憩したいと思います」
「それが良いでしょう。せっかくなのでユウキにも声を掛けてみてはいかがですか? 彼ならギルドの依頼もありますし、ついて行ってみても面白いと思いますし」
「そうですね」
「今日はもう遅いですから、私がギルドに行ってみましょう」
「そ、そこまでしなくてもいいですよ」
本来は毎日朝晩ではなく、ホームズさんが見れる時だけの約束だった。それを鍛冶勝負を受けてしまったばっかりに時間を作って毎日朝晩見てくれている。
その上でギルドへのおつかいみたいなことまでお願いすることはさすがにできないよ。
「外に行く予定があるのでそのついでです、気にしないでください」
「うーん、それじゃあ僕も――」
「時間も遅い、と言いましたよね?」
「……お、お願いします」
ここまで頑なに言われてしまうと従うしかない。
申し訳ない気持ちはあるけれど、ユウキへの伝言はホームズさんにお願いすることにして鍛冶部屋を後にした。
食堂でご飯を済ませて部屋に戻ると、やることもないのでガーレッドと一緒にベッドで横になる。
明日は休憩、気持ちの充実をとホームズさんは言ったが、鍛冶以外で気持ちの充実を図れるのだろうか。
「ピキュキュー?」
「うん、大丈夫だよ。明日はガーレッドも一緒に行こうね」
「ピキャー!」
優しく抱きしめたまま、僕とガーレッドは眠りに落ちていった。
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