本格的に魔導スキル

呼び出し

 翌朝、目を覚ました僕は早々にイメージ固めをすることにした。

 イメージ通りの形には仕上がっているので無意味かもしれないが、今はやれることを全てやる時なのだと自分に言い聞かせている。

 そろそろ何かきっかけを見つけなければいけないとも思いながらだけど。


 その時、早い時間でドアがノックされて入って来たのはソニンさんだ。


「おはようございます」

「今日は早かったんですね」

「そのことなんですが、ゾラ様が呼んでおられますので私室に向かいましょう」

「ゾラさんが?」


 何事だろうと首を傾げるが、ソニンさんが直々に呼びに来たのだから重要なことなのかもしれない。

 ……最近は何も問題行動を起こしていないはずだけどなぁ。

 そんなことを考えながら寝起きのガーレッドを鞄に入れて部屋を出た。


 ゾラさんの私室にはホームズさんもおり、何事かと本当に心配になってしまう。


「来たか小僧」

「おはようございます、コープスさん」

「ゾラさん、ホームズさん、おはようございます」

「緊張することはありませんよ。コープス君の鍛冶についてのお話ですから」


 えっ、そのことの方が緊張するんですけど。何か問題でもあったのかな。


「実はのう……しばらくの間、朝の時間帯に小僧の鍛冶を見ることができなくなった」

「…………ええええぇぇっ!」

「そ、そこまで驚くことか?」

「そりゃそうですよ! 僕の楽しみを奪わないでくださいよー!」


 これは大問題、僕にとっては死活問題に発展しかねない案件だ!

 せっかく鍛冶部屋を作ってもらったのに、これでは宝の持ち腐れではないか!


「小僧の言うことも分かるがのう、仕方ないのじゃ」

「な、何があったんですか?」

「それがのう、儂とソニンのふたりが急遽呼び出しをくらったんじゃ」

「呼び出しって、誰にですか!」


 こんな大事な時期にふたりを呼び出そうなんて、どんな不届き者だよ!


「国王からじゃ」

「……………………へっ?」

「だから、国王からじゃ」

「な、何で今、このタイミングで、国王から?」


 ……ちょっと待ってよ。

 この前の悪魔事件、王都からの圧力、そして今回の呼び出し。

 絶対に何かしら繋がっているよね。


「それって、大丈夫なんですか?」

「単なる呼び出しじゃ、気にするな」

「だけど、この時期にって絶対おかしいですよ! それに北の森を通るんですか?」

「北の森は通りませんよ。少し遠回りになりますが、西の森から迂回して進むことになりました」

「護衛は?」

「冒険者を雇うつもりじゃよ。こっちいる冒険者のほとんどが儂らの知り合いじゃからな、問題はないぞ」


 そうは言ってもなぁ。

 ……ん? でもそれなら僕は行かなくてもいいのだろうか。


「僕は行かなくても、いいんですよね?」

「当然じゃ。小僧のことを王都に知られるわけにはいかんからの」

「そのことですが――一つ報告がございます」


 そこでホームズさんが口を開いた。


「ゾラ様とソニン様には伝えていたのですが、王都から国家騎士がリューネさんを訪ねて来たようです」

「リューネさんを?」

「はい。おそらく所在が分かっていたのがリューネさんだったのでしょう。そこで悪魔について口止めをされたようです」

「口止めって……」

「その時、悪魔を見た者として私とユウキ、フローラさんの名前を伝えています」

「あれ? 僕は?」

「言えるわけがなかろう」


 まあ、王都にバレるのがまずいならそうするだろうけど、それってみんなが危険にならないか?

 それにユウキやフローラさんはどうなっているんだろう。


「リューネさんが国家騎士の接触を受けた後、すぐに知らせに来てくれました。ユウキには私が伝えて、フローラさんにはリューネさんが伝えてくれました。幸い、ふたりとも誰にも話していなかったので大丈夫でしたよ」

「……でも、ゾラさんとソニンさんには伝わっちゃってるし、病室で話していたからカズチやルル、ダリアさんにも伝わってますよ!」

「儂らが報告を受けたのは仕方ないじゃろう。それの呼び出しの可能性もあるしの。じゃが、カズチとルル、それにダリアに関しては隠せているから問題はない。黙っておくように念を押してもおる」


 悪魔事件のせいでふたりが危険の中に飛び込むことになり、僕はカマドでのうのうと過ごしていくのか?

 何か、できることはないのだろうか。


 僕の考えが分かったのか、ゾラさんが太く大きな手で頭を撫で回してきた。


「ちょっと、痛いですよ!」

「小僧が変なことを考えているからじゃ」

「変なことなんて考えてないですよ!」

「ふん! どうせ何かできないかなどと考えていたのではないか?」

「ぐっ!」


 な、何故分かった!


「ほーれみろ、言わんこっちゃない」

「で、でも!」

「でももくそもないわい。小僧は自分のことだけを考えておれ。面倒臭いことは大人の仕事じゃい」

「そう言うことですよ、コープス君」

「ソニンさんまで」

「儂らは明日立たなければいけないからのう、留守を任せたぞ、ザリウス」

「かしこまりました」


 話があっという間に進んでしまい置いてけぼりをくっている。

 まあ、今の僕は子供なわけで、大人の仕事と言われれば何も言えない。

 ……本当は僕も大人だけどね。


「そうそう、コープスさん」

「何ですか?」

「今日からは一旦、鍛冶部屋の使用を夜だけにしますね」

「えっ!」

「私も事務業務で忙しいんですよ」


 今の話の後だと、我儘なんて言えないよね。


「分かってます。夜はよろしくお願いします!」


 それでも、そこだけは強めに言っておく僕だった。

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