鍛冶のあれこれと新しいスキル
英雄になるつもりはないけれど、
改めてゾラさんにお礼を言うと、先ほど気になったカズチが腰に差している短剣について聞いてみた。
「カズチの短剣もゾラさんから貰ったの?」
「いや、これは副棟梁から貰ったんだ。加入祝いってのは基本的に師匠になる人が見習いに渡すものなんだよ」
「そうなんだね。でも、あれ? そうなると錬成の師匠はソニンさんだから、ソニンさんからも貰えるのかな?」
何だが、もの凄く贅沢である。
「いや、今回は儂からだけじゃよ。複数の師匠がいる場合は、その中でも一番上位の者から渡されるんじゃ」
「そっか。でも、銀狼刀は格好良いし本当に気に入りました、ありがとうございます」
「それならええんじゃよ。それでじゃ、何か気になることはあったかの?」
気になることなら色々ある。
錬成や素材のことは置いといて、ゾラさんに聞いておくべきことはやはり鍛冶についてだろう。
成形と鍛造の過程は僕の知識の中とそれほど変わりはなかったが、作業の中で気になったのは素材を挟んでいたハサミである。
「鍛造をしている時、火属性で素材に熱を加えてましたよね?」
「よく見ていたのう。鍛冶において火属性があるのは極めて優位に働く。小僧が言ったみたいに素材を常に熱したままにしたり、最初の抽出の時の火力調整なんかもそうじゃな」
「火力も自在なんですか?」
「それはランクにもよるの。ランクが低いと低火力しか出せないが、ランクが高ければ高火力も低火力も思いのままじゃ。ちなみに、儂の火属性ランクは九じゃよ」
「き、九!」
えーっと、最高が十だったはずだから、次でカンストじゃないですか。
そりゃあ緻密な制御ができるわけだ。
銀に限らず、物質にはそれぞれ融点が存在する。
熱を加え過ぎると柔らかくなりすぎて成形ができないだけでなく、必要な成分が燃焼してしまい完成品が脆くなる。
素材に適した温度で熱し、なおかつその温度をキープしながら槌を振るうのだから、並大抵の集中力では到底成功しない。
そうなるとランク十ならどうなるんだろうか? ……考えても分からないから置いておこう。
「あっ! それと、最後の紙切れ! あれは何だったんですか?」
次に気になったのがあの紙切れだ。
鍛冶の終盤、細かな模様が描かれた紙切れを取り出すと光を浴びて飛んでいった。
剣に触れたと同時に金色の炎に焼かれてしまったが、あれが銀狼刀の完成に大きな影響を与えたことは確実だ。
「あれは完成品に魔属性を付与する道具--
「まごふ? カズチは知ってるの?」
「いや、俺も初めて見た」
「ソニンもお主の短剣を作った時に使用しているはずじゃが?」
「作業を見せてもらえなかったんです。鍛冶をしている姿を見られるのは嫌みたいで」
「あやつはまーだそんなことを言っとるのか。……まあよい、とりあえず魔護符に描かれた模様は付与式といって各属性に合わせた模様がある。ギンロウトウに付与したのは火と風の属性じゃ」
そういえば昨日ソニンさんと歩きながら属性付きの剣とか鎧について話をしてたっけ。
僕は銀狼刀の柄を撫でながら質問を続ける。
「付与されたらどういった効果があるんですか? まさか、剣を振ったら炎が飛び出したり、かまいたちが吹いたりとか!」
「そんな大それたもんじゃない。火属性は斬った相手に熱傷を負わせることができる。メインは風属性じゃが、こっちは使用者の周囲に風のヴェールを纏わせる防御力補正の効果じゃな」
「……武器なのに、防御力補正」
「ごっつい鎧とかが良かったか?」
「……銀狼刀大好きです!」
ごっつい鎧とかいらん!
ごっついゾラさんが作るごっつい鎧なんて、見たくもないよ!
「……と、とりあえず、魔護符の話に戻りますけど、仕上げに使ってましたけどあれは必須なんですか? 付与しないなら必要ない場面もありますか?」
「必須ではない。ただ、儂の場合は魔護符の術式に研磨作業も組み込んどるから仕上げに楽なんじゃよ。普通は付与だけに使用して、最後の研磨作業は手作業でやるものじゃ」
「……サボり?」
「効率が良いんじゃよ」
ガハハと笑うゾラさんだが、魔護符を作るのも大変な作業だろう。
他の人は研磨作業を組み込むことすらできないんじゃないかな。パッと見ただけでもびっしりと模様が描かれていたからね。
……ちょっと待て、魔護符は鍛冶スキルとは違くないか? ソニンさんも魔術師もいるって言ってたし。
「あのー、魔護符って鍛冶スキルで作れるんですかね?」
「あれはまた別のスキルじゃよ」
「……魔護符もゾラさん自作ですか?」
「その通りじゃ」
「……ちなみに、名前は?」
「魔導スキルじゃ」
……生産系のスキル多くないかなあ! 絶対にまだまだ出てくるよね!
「魔導スキルに関してはソニンの方が詳しいからそっちに聞いた方が良いぞ」
「……ねぇカズチ、ここの人たちって何でこんなに万能なの?」
「……俺に聞くなよ」
僕とカズチが呆気にとられていると、ドアがノックされた。
「噂をすればじゃな、はいよー」
開いたドアから中に入ってきたのはソニンさんだった。
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