錬成の勉強①
中に入ってきたソニンさんは僕とカズチの表情を見て首を傾げていた。
「どうしたのですか?」
「……万能人間二号」
「……副棟梁、すげぇ」
あれ? カズチの驚きはそっち方面なの?
「ば、万能人間って、ゾラ様は何の話をなされたんですか」
「鍛冶と魔護符についてじゃが?」
「魔護符? なるほど、そういうことですか」
得心がいったとばかりに溜息をついたソニンさんは、微笑みながら口を開いた。
「今はまだ魔導スキルは早すぎます。とりあえず、基本となる鍛冶と錬成について勉強しましょうね。……よろしいですか?」
「はーい」
……なんで睨まれているんだろうね。
確かにウキウキしてるけど、魔導スキルも覚えたいけど、カンストしたいけど、顔には出ていないはずだよ!
「……お前、にやけすぎだろ」
「うそ! 隠せてないの!」
「隠せてるつもりだったのかよ!」
ぐぬぬ、感情を隠すのって難しい。
「とりあえず、まずは鍛冶と錬成です。それ以外はやらせません。なので、ゾラ様もそのようにお願いしますね?」
「お、おう、分かったぞ」
「……ここの棟梁って、ソニンさんじゃない?」
「……俺もそんな気がしてきた」
妙な力関係を見たものの、一度咳払いをしたソニンさんは普段と変わらない笑顔でこちらに向き直り口を開く。
「さて、コープスくんも加入祝いを手にしたことですし、次は錬成について勉強しましょうか。隣の部屋を借りてもよろしいですか?」
「好きにせい」
「隣の部屋?」
「……マジか、気づいてなかったのかよ」
鍛冶場に目を奪われていて周りが見えなくなっていたようだ。
……まあ、仕方ないことだよね。目の前のことに集中していたんだから。
「隣の部屋にはゾラ様専用の錬成部屋が設けられています。私の部屋にもありますが、私たちが鍛冶や錬成を行う場合はそれぞれ専用の部屋で行うのですよ」
「専用の、鍛冶部屋と錬成部屋……素晴らしい!」
「こんなんだから周りが見えなくなるんだよ」
溜息をつきながらぼやくカズチを横目に、僕は早く錬成部屋に移りたくて仕方がない。その表情を見たカズチは更に深い溜息をついていた。
「それでは、早速移動しましょうか」
ソニンさんの手で開け放たれたドアの先には、こちらも見習いたちがいた錬成場とは異なる光景が広がっていた。
大人が五〇人くらい入っても余裕がありそうな広い部屋の中央に一つの机と椅子が置かれており、その上には金色の台座。そして机の周囲には天井から白い布がカーテンのように吊り下げられていた--それも二重に。
目を凝らしてみると、白い布には白い糸で魔護符のような模様が刺繍されている。
これだけの部屋に机と椅子、それにカーテンだけという異様な空間。
その中をソニンさんはスタスタと進み椅子に腰掛けた。
僕とカズチが慌てて駆け出し、ゾラさんはゆっくりと歩いてくる。
「まずは錬成に必ず必要になる属性を説明します。それは--光属性です」
「必ずですか。もし持っていなかったら錬成はできないんですか?」
「できません。錬成を行うには常に光属性の魔法を発動し続ける必要がありますからね」
僕、光属性持っててよかったよ。
……よく考えたら全属性持ちだから基本何でもできそうだね。
「闇属性と無属性は使わないんですか?」
「闇属性は使う場面もありますが、必須というわけではありませんから今は説明を省きます。無属性は必要ありませんよ」
ふーむ、そうなると無属性って何なんだろう。
今のところ使い道が全く分からない。後で誰かに聞いてみよう。
……まさか生産系スキルに使わないなんてことはないよね?
「さて、それでは一度錬成の手順を一から見てもらいましょう。私がやった後、カズチにもやってもらいますからね」
「えぇっ! お、俺ですか!?」
素っ頓狂な声を上げてカズチが驚いている。
まあ、僕もカズチの立場だったら嫌で仕方がない。
新人の目の前でできる人の後に同じことをやらされるなんて、できない自分を見てくださいと言っているようなものだ。
今回は師匠と弟子なので仕方がないと割り切れるが、それでも進んでやりたいことではないだろう。
「これはカズチの勉強でもあるのです。やりなさい、いいですね?」
「……わ、分かりました」
渋々頷いたカズチに満足したソニンさんは続いて僕に向き直る。
「それでは、私はこちらの素材を錬成しようと思います」
ソニンさんが取り出したのは土や砂がくっついた、今そこで取ってきたかのような汚らしい見た目の素材だ。
大きさは直径二〇センチくらい、土や砂の隙間から茶色い同系色の輝きが見えた。
「これは銅です。銅はカマドの近くに採掘場があり他の素材に比べて比較的手に入れやすい素材です。我々も見習いの練習用にと大量に仕入れています」
「そうは言っても、汚れすぎじゃないですか?」
「だからこそ見習いの練習に適しているのですよ」
そうなのかと首を傾げている間に、汚らしい銅の素材は金色の台座に乗せられてしまった。
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