沢山作ろう
僕が悲しみにくれていると、再びドアがノックされる。
癒しを求めてガーレッドを抱いたままドアを開けると、そこにはホームズさんが立っていた。
「失礼します。おや、今日はカズチ君にルルさんもいるのですね」
「はい。ジュマさんに内容を聞いてきたので」
「私はたまたまです」
そこでカズチからホームズさんへもルールについて説明を行った。
「そうですか。それなら、審査員は私が見繕いましょう」
「いいんですか?」
「ジュマ君が選ぶよりも、その方が安心ではありませんか? それに、こういうのは第三者が選ぶものですよ」
「あー、それもそうですね」
先輩が連れてきた審査員だと、最後の最後までもつれた時に相手に有利な判定がされてもおかしくはないかもしれない。
疑いたくはないけれど、そこはちゃんとしたいよね。
「それと、ホームズさんもいるから相談したいことがあるんです」
「どうしたのカズチ?」
言いにくそうに口を開いたカズチ。おそらく鍛冶勝負についてのことだろうけど、何なんだろう。
「ジュマさんが勝ったら、棟梁の弟子から外れろって言ってたんです」
「……へっ?」
何それ。まあ勝負だから何かしらの賞罰はあると思っていたけど、それって賭けていいことなのか?
僕を弟子にすると決めたのはゾラさんであって、それを勝手に外れろと言われてもどうしようもないんですけど。
「ちなみに、僕が勝ったら?」
「何でも言うことを聞いてやる、って言ってた」
「全く、ジュマ君は何を考えているのでしょうね。それがゾラ様が決めたことに反抗すると言うことに気づいていないのでしょう」
ゾラさんのやり方を僕は尊重するし、逆らうつもりは一切ない。部屋に鍛冶部屋まで作ってくれたしね。
勝負を受けたからには負けるつもりはないけれど、それを賭けるなら尚更だし、むしろ先輩の鼻っ柱をぶち折ってやりたくなったよ!
「ジュマ君には私から言って――」
「いや、大丈夫です」
「コープス、さん?」
「そこまで言われて黙っているのも癪ですから、あえて乗ってやろうと思います。負けませんよ、負けませんとも! 鍛冶頭筆頭だか何だか知りませんけど、大勝して面白おかしい命令をしてやるんです!」
元々負けるつもりなんて毛頭ないし、何ならこの勝負をキッカケに鍛冶の行き詰まりを解消してやるくらいの気持ちでやってやりますよ!
「……ま、まあ、コープスさんがそう言うなら良いのですが、絶対に勝ってくださいね?」
「当然です! ……えっ、何かあるんですか?」
ホームズさんが少し困ったような顔をしている。あまり見ない顔なので気になっちゃうよ。
「一応、留守を預かっている身なので、ゾラ様とソニン様のがいない間にコープスさんが弟子を辞めたなんて知られたら、私がどやされてしまいますから」
「……ご、ごごご、ごめんなさいいいいぃぃっ!」
ま、また突っ走ってしまったよ!
僕一人の問題ならまだしも、ホームズさんにまで迷惑をかけてしまうんだと考えていなかったよ!
「ま、まあいいですよ。コープスさんを信じていますから」
そんな困った顔で言われても。
「……が、頑張ります」
「よろしくお願いします。それでは、鍛冶勝負の話は一旦置いておきましょう。そろそろ二の鐘がなりますし準備をしましょうか」
き、切り替えが大事、切り替えが大事、切り替えが大事。
「今日もよろしくお願いします」
「ピキャキャン」
「はい、よろしくお願いします」
ガーレッド共々頭を下げると、微笑みながらホームズさんも返してくれた。
カズチとルルも僕の鍛冶を見たいというので全員で鍛冶部屋に移動する。
「今日は数をこなそうと思ってます」
「と言うと?」
「今までは一つの武器にイメージを固めて、じっくり鍛冶をしてましたけどなかなか上手くいきませんでした。なので数をこなして二つ上で出来るかどうかを試してみたいと思います」
「分かりました、色々試してみるのは良いことですよ」
カズチとルルには壁際に移動してもらい、ホームズさんは二人よりも少し近くで見てもらう。
何個作れるか分からないので、練習で錬成した素材を五つ準備しておく。
――カーン、カーン。
「よし、やりますか!」
数をこなすことで二つ上のランクが出来上がった場合、悲しいかなイメージ力云々ではなく運の要素も出てくる可能性がある。
僕がやっていたことが無駄に終わる可能性もあるが、そうでなければ他に要因があるのだと確定することもできるだろう。
ある程度イメージが固まらなければ形にはならないのでそこはサボることなく、それでも最短の時間で鍛冶を進めていく。
本来の三分の二程の時間で一本目が完成すると、ランクを確認することなく二本目に取り掛かる。こちらはさらに短い時間で出来上がった。
頭の隅に、こんなんで上手く出来るのか?と疑問符が浮かび上がってきたが、この考えが鍛冶の成功率を下げるのだと瞬時に切り替え、今は色々試す時期なんだと頭の中で何度も反復し鍛冶を続けていく。
汗が頭から額を伝い頬へ流れて顎から落ちていく。
槌を振るうために無属性魔法を継続発動しているので疲労も半端ない。
それでもやると決めたからにはやってやる!
三本目、四本目と出来上がり、五本目に取り掛かろうとした時だった。
「――コープスさん、それまでです」
「えっ?」
ホームズさんからストップがかかってしまった。
時間ならまだあるはずだし、今ならギリギリ三の鐘の前に終われるはずなんだけど。
「このやり方は、あまり効果がなさそうですよ」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、そうなん、ですか?」
「出来上がったナイフを見てみなさい」
息を整える間も無く一本目から順序よく手に取って確認をすると――なるほど、ホームズさんが止めた理由がはっきりしていた。
「……同ランクか、悪いものだと下がってますね」
「そうですね。これでは続けても意味がないですし、貴重な時間がもったいないですよ」
確かにそれはもったいない。
ここでこの結果が得られたならば当初の目的は果たせたわけだ。
「うーん、やっぱりイメージを固めることは重要ってことですね」
「そこが疎かになれば、このような結果になるでしょう」
「運も実力のうちとは言うけど、運だけで上のランクで出来上がることはないと分かっただけでも一歩前進です」
「それでは、せっかくですし最後の一本は今まで通りにやってみますか?」
「えっ、でも時間が……」
今からいつも通りのやり方で鍛冶を始めると三の鐘を確実に過ぎてしまう。
確実に過ぎる場合は鍛冶をやらないとソニンさんと約束したんだよね……鍛冶部屋が潰されないために。
「私が見ていますから大丈夫ですよ。それに、せっかくの取っ掛かりをそのままにしてしまってはもったいないですからね」
ホ、ホームズさん、優し過ぎますよ!
「……分かりました、やってみます!」
「ジン、上手くやれよ!」
「ジンくん頑張れー!」
カズチとルルの応援を受けて、僕は深呼吸をして気持ちを整えると、準備していた最後の銅を土窯に放り投げて火を灯した。
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