見極めた素材は

 屋台にはなかなかの素材や、全く価値のなさそうなものまで、様々なものが並んでいる。

 これっていいのかな? と思うものもあったが、文句を付けるのが良いことなのか分からないので口をつぐんでいた。

 しかし、これはさすがにマズいだろうというのものを見つけてしまったので、その屋台から離れたところでユウキに聞いてみた。


「ねえ、ユウキ。明らかにマズいものを売っている屋台があったんだけど、文句を付けてもいいのかな?」

「……それ、本当なのかい?」


 僕の言葉にユウキは一瞬だけ怪訝な表情を浮かべたが、すぐに真剣な顔を浮かべて聞き返された。


「うん。ゾラさんから最初に言われたことなんだけど、中身を抜き取った粗悪素材が売られてたんだ」


 そこで、僕はゾラさんから教えてもらったことを二人に伝えた。

 穴を開けて中身を抜き出し、その中に不純物を詰め込んで見た目にも、重さでも分かり難い素材を作る。

 さらに、抜き出した素材を錬成し、それはそれで錬成済みの素材として販売することで二倍の利益を得ることができる。

 錬成済みの素材を購入する分には問題ないのだが、粗悪素材を売りつけられた方からすると堪ったものではない。


「その話は僕も聞いたことがあるけど……ちなみに、どこの屋台かな?」


 ユウキの質問を受けて、僕は振り返り赤い敷物に商品を並べている、緑の帽子を被った小太りの男性だと伝えた。


「……ちょっとここで待っていてくれるかな?」

「どうするの?」

「衛兵を呼んでくる。ライオネル家の名前を出せば、すぐに来てくれるはずだよ」


 そう口にしたユウキは、人混みの中を器用にすり抜けて先へと消えていった。

 残された僕とフローラさんは、遠くの方から問題の屋台を監視していたのだが……ちょっとした問題が起きてしまう。


「マズいなぁ」

「どうしたのですか?」

「店主が、粗悪素材を売りつけようとしているんだ」


 現在、小太りの屋台では一人のお客さんが商品を物色している。

 まだ若い感じの人で、店主と会話をしながら商品を選んでいるようなのだが、話の流れで粗悪素材を手に取って勧めているのだ。


「他にも粗悪素材はあるのですか?」

「いや、あの一つだけなんだ。だから、あれが売れちゃうと、衛兵が来ても証拠を押さえられない」


 こうなったら、時間を稼ぐしかないだろう。


「僕が声を掛けてくるよ」

「大丈夫なのですか?」

「何とかする。それと、フローラさんにもお願いがあるんだ」


 そこで、僕はフローラさんにちょっとしたお願いをすると、手を振りながらその場を後にして小太りの屋台へと向かう。


「すいませーん!」

「んん? どうしたんだい、坊や。冷やかしならお断りですよ?」

「僕、錬成師をしているんですけど、何か良い素材がないかと思いまして。お客さんもいたから、見てみたいんです」


 錬成師だと聞いたからか、小太りの表情は怪訝なものから、笑みを浮かべるまで変わっていく。


「お兄さんも錬成師ですか?」

「いいや、違うよ。私はその、恋人への贈り物を作るための素材を探しているんだ」

「恋人への贈り物?」

「あぁ。良い素材を見つけて、それを私がデザインした形に錬成師へ依頼をしようと思っていたんだ」


 既製品を贈ってもいいのだが、愛する人へ自分がデザインした唯一無二の物を贈りたいのだと、お兄さんは語ってくれた。

 そんな人に、粗悪素材を売りつけようとしていたと知った僕は内心で怒り狂ってしまったが、ここで問題を起こすのは良くないので必死に抑え込む。


「この商品が、おじさんのオススメなの?」

「あぁ、そうだよ。そうだ! 君は錬成師の見習いなのだろう? ぜひともこの素材を見てくれないかい?」

「お願いできるかな。見習いとはいっても、私よりは詳しいはずだからね」


 見習いとはいえ、錬成師からのお墨付きが貰えれば絶対に売れると思っているのだろう。

 実際に、この場には錬成師の人もいるはずだが、誰もこの粗悪素材について言及しようとする人は現れない。

 ということは、この粗悪素材がとても上手く作られているということなのだろう。


「……それじゃあ、見せてもらってもいいですか?」


 そうして素材を手に取った僕は、まじまじと素材を観察し、見た目には見極めるのがとても難しいのだと実感する。

 素材を見極める感覚に優れていなければ、絶対に騙されていたかもしれない。


「……ねえ、おじさん。この素材って、いくらで売るつもりなんですか?」

「小銀貨三枚だよ」

「私の手持ちギリギリだね」


 ……こんなものを、小銀貨三枚か。


「……それじゃあさ、おじさん。僕がこの素材を小銀貨四枚で買うって言ったら、僕に売ってくれる?」

「「……はい?」」


 まあ、そうなるよね。

 だけど、僕がそう口にしたのには理由があるのだ。


「ちょっと待った! その素材なら、俺が小銀貨五枚で買ってやる!」

「「ええっ!?」」


 後ろから目立つように声を掛けてきたのは――カズチだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る