鉱石の価値
二つの鉱石を見たリディアさんはしばらく動きを止めたのだが、すぐに手に取って鑑定を始めた。
少しばかり手が震えているように見えるのは気のせいだろうか。
「……ね、ねえ、ジン君。この二つの鉱石って、本当にラトワカンで採掘したの?」
「はい。護衛の中にドワーフの方がいて、鉱石が採れる場所を見つけてくれたんです」
「……でも、ラトワカンの鉱山はもう枯れているって聞かされていたけど?」
「それもどうなんでしょうか。ドワーフの方は、確認に訪れた担当者が無能だったんじゃないかって言ってましたけど」
「……それだけ、まだまだ鉱石は眠っているってことね?」
「えっと……」
「まだ、何かあるの?」
驚くと思って一つずつしか出さなかったけど、実際は大量に鉱石を持っている。
鉱山に眠っている鉱石の量からすると微々たるものかもしれないけど、それでも今この量を見せてもいいものか悩みどころなのだ。
「いいのではないですか、コープス君」
「……いいんですか?」
「えぇ。私たちが居を構えているのはカマドです。黙っていても良いことはありませんし、何よりグリノワ様が冒険者ギルドに話を通しているでしょうから」
「あー、確かにそうですね」
「……ちょっと待って! グリノワって名前で、ドワーフって……も、もしかして、グリノワ・ゴルドゥフ様ですか!?」
な、なんだかものすごく驚かれてしまった。
グリノワさんって、もしかして有名人なのだろうか。
「そうですけど、知っているんですか?」
「知ってるも何も、鉱山を持っている都市なら知らない人はいないドワーフ族の英雄ですよ!」
「え、英雄?」
「はい! 冒険者のグリノワ様、そして鍛冶師のゾラ様はどちらも英雄と呼ばれている方々なんですからね!」
……お、おぉぅ、グリノワさんはまだしも、ゾラさんまでそんな扱いなのね。
「ふふふ、ゾラ様の名前は鉱山の都市だけではなく、全都市に広がっていますけどね!」
そして、こんなところで対抗しないでくださいよ、ソニンさんは!
「グリノワ様が言うなら間違いありませんね! ラトワカンはまだ死んでいない。それなら、まだまだ発展の余地はある!」
「発展の余地って、何かあったんですか?」
現状でも十分大きな都市のように見えるし、暮らしている人たちの様子を見ても何かに困っているようには見えなかった。
これ以上の発展って、何を望んでいるんだろうか。
「ここ最近、周辺の鉱山が軒並み廃坑になってしまって、離れていく同業者や錬成師の方が多かったの」
「そうなんですか?」
「えぇ。それで、私も離れるべきか、残るべきかで悩んでいたの。でも、ラドワニは故郷だし、他の都市に行っても上手く行く保証もない。それで、残ることに決めたのはいいんだけど……」
「離れる人は止まらなかったってことですか」
「そういうことね。今は人が少なくなったから業者やお客さんがこっちに集まっていてなんとかやっていけてるけど、売買する鉱石自体がなくなったらどうしようもないって考えていたところなの」
そんなことになっていたなんて……あれ? でも、そうだとしたらベルリアさんの宿屋も経営が厳しかったのだろうか。そんな雰囲気は微塵もなかったけどな。
「それにしても、ジン君がまさか神の槌の鍛冶師だったなんて。それも、ソニン様と一緒に行動できるほどの」
「えっと、今回はたまたまですかねー」
「それも護衛にグリノワ様がいて、そのおかげでラトワカンがまだ生きている鉱山だってことも分かったわ。……皆さんは、ラドワニの救世主です、本当にありがとうございます!」
リディアさんは突然頭を下げてお礼を口にした。
「あ、頭を上げてくださいよ! 僕たちは何もやっていませんから! お礼を言うなら、グリノワさんに……って、ここにはいないんだった」
「だから、代わりに皆さんにお礼を言うのよ。よければ、私が感謝していたことをグリノワ様に伝えてくれないかな」
「それはもちろんです。グリノワさんも喜んでくれると思います」
「ありがとう、ジン君。それと、話の腰を折っちゃってごめんね。何かあったんだよね?」
グリノワさんの名前が出てから話が脱線してしまったんだった。
「えっと、その鉱石なんですけど……実は、まだあるんです」
「さすがはラトワカンね。この辺りでも一番の大きさを誇る鉱山だわ。それで、どれくらいなの?」
「……えっと、このカウンターに乗り切らないくらいはあります」
「……えっ?」
「……」
「……その、冗談、よね?」
「……本当です」
「…………え、ええええええぇぇっ――あいた!?」
リディアさんはあまりの驚きに足をカウンターの角にぶつけてしまった。
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