初めての夜

 ユウキにとっては『神の槌』で過ごす初めての夜。

 晩ご飯を食べに食堂に足を運ぶと、そこで驚きの声が上がった。


「あれ! どうしてユウキくんがいるの? それに……えっ、えっ? その子ってもしかして?」

「うん、霊獣だよ」

「やっぱり! ジンくんに続いてユウキくんまで! これって凄いことだよ!」

「あは、あはは」


 ルルの興奮度合いにユウキが若干引いているが興奮するのも分かる気がする。

 霊獣はそうそうお目に掛れる存在ではないのだが、目の前に二匹、それも幼獣が二匹となれば誰でも興奮するだろう。

 ルルの声に数人の料理人が顔を覗かせており、その全ての表情が緩んでいた。


「——あんたら、何をやってるんだい!」


 そこに響いてきたのは料理長であるミーシュさんの怒声。


「す、すいません、料理長!」


 他の料理人は顔を引っ込めて仕事に戻り、カウンターに出ていたルルは大声で謝っている。

 手を腰に当てて出てきたミーシュさんに挨拶をした僕はそのままユウキとフルムを紹介した。


「霊獣の幼獣と契約したユウキとフルムです。ゾラさんが変な輩に絡まれないようにってしばらく本部でお世話になることになったんです」

「よ、よろしくお願いします」

「わふっ!」

「……そうかい! よろしくね、ユウキ君にフルムちゃん!」


 先ほどまでの怒声はどこへやら、ミーシュさんは優しい笑みを浮かべてユウキとフルムに声を掛ける。


「ご飯はガーレッドと同じで新鮮な野菜と果物でいいのかい?」

「わふっ! わふわふっ!」

「それがいいそうです」

「それじゃあすぐに持たせるから好きなところに座ってな」

「あっ! 僕たちはオススメをお願いします!」

「だと思ったよ! ルルも同じでいいかい?」

「えっ、私ですか?」

「お友達が一緒なんだ、せっかくだから一緒に食べてきな」

「ありがとうございます!」


 ミーシュさんの配慮によりルルも一緒に食事ができるようになった。

 ここにカズチがいたら最高なんだけど――


「あれ? なんでユウキがここにいるんだ?」


 ……うん、最高の状況が出来上がったね。

 えっ、これも英雄の器の能力なの? まさかだよね?

 とりあえずカズチにもルルにした同じ説明を行い、注文を終えて同じ机に座る。

 ルルも来る予定なので四人掛けであり、僕は初めて座る大きな机だ。


「霊獣が二匹って、凄いなぁ」

「周りからの視線も凄いね」

「そりゃまあ、幼獣だしね」

「ピキャキャー?」

「わふ?」


 当の本人たちは何を言っているんだろうといった感じで首を傾げている。

 その姿にさらに視線が集まり身悶えているのがとても面白い。

 その状態の机にやって来たルルは最初驚いていたものの、すぐに笑顔となり料理を机に並べていた。


「ガーレッドちゃんとフルムちゃんの人気は凄いねー」

「可愛いは正義だからね!」

「なんだそりゃ。まあ、二匹を見てたら正義かもしれないな」

「あはは、あはは」


 この雰囲気に慣れていないユウキだけが困惑しているが、とりあえず食事を楽しもうと声を掛けて食べ始める。

 ガーレッドとフルムには僕とユウキがそれぞれ食べさせてあげた。


「ピキュー!」

「がふっ、がふっ!」


 ガーレッドは食べ慣れているご飯なのでいつも通り食べているのだが、フルムは初めてなのかあまりの美味しさにがっついているようだ。


「ゆっくり食べても無くならないよ」

「がふ? ……がふ、わふ」


 ユウキをじーっと見つめた後には理解したのかゆっくりと、自分のペースでご飯を食べ始めた。


「それにしてもどこで見つけたんだよ」

「南の鉱山だよ」

「どうしてそんなところにいたんだろうね」

「魔獣に追われてて迷い込んだみたいなんだ」

「えっ! ……怖かったよね」


 ルルは可哀想にとフルムを見つめる。何も言わないがカズチも同じような表情を浮かべていた。


「ガーレッドが鉱山に行きたいって言わなかったら、もしかしたら間に合わなかったかもしれないよ」

「そうなのか? ガーレッドのおかげなんだな」

「ガーレッドちゃん凄い!」

「ピキュ? ピキュキュー!」

「ありがとう、ガーレッド」

「きゃんきゃん!」

「ピ、ピピー」


 ユウキとフルムからのお礼にガーレッドが身をくねらせながら照れている。……か、可愛いなあ!


「霊獣には霊獣が分かるのかな?」

「どうだろう。ソラリアさんは何も言ってなかったから違うんじゃないのかな。知っていたら教えてくれそうだけど」

「うーん、僕たちが悩んでも答えは出なさそうだね」

「だったら飯を食べようぜ。ほら、ガーレッドもフルムも口を開けて待ってるぞ」

「「あっ」」


 ……可愛いからその姿は止めてくれ! 食べさせてあげるから! 身悶えそうになるからさ!

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