閑話:ルル・ソラーノ

 ジンくんから魔導スキルを教えて欲しいって頼まれたけど、私にできるかな。

 長い間、魔導師としての活動をしてないし料理人見習いが板についてきたと思っていたんだ。

 ここでは魔法を使っても誰にも文句を言われないから大丈夫だし、少しずつ魔法を使うことに忌避を覚えなくなっているけど……少し不安だな。


 少し早いけど入口に移動した私は、何故か外からやってきたカズチくんと顔を合わせた。


「あれ? カズチくんどこか行ってたの?」

「ルル、ちょうどよかった」

「何かあったの?」

「ジンに魔導スキルの講義に誘われたんだけど、ユウキも誘おうって話をしたんだ」

「ユウキくんを! それとっても助かるかも!」


 私一人じゃあ不安だったもんね。

 ライオネル家は魔導師の名門だし、無属性しか持っていなくても勉強はしているみたいだから、私より先生をしてくれるかも!


「ただ、そうなると棟梁か副棟梁に許可が必要になるだろ?」

「ユウキくんなら大丈夫じゃないかな」

「ユウキは大丈夫だと思うけど、たぶんフローラさんも来るはずだからな」

「あっ! ……そっか、どうしよう」


 本部に部外者を勝手に入れることはできないから、どこか別の場所でやらなきゃならないんだ。

 ゴブニュ様もケヒート様も今は忙しいし、どうしよう。


「……カズチくん、どこか良い場所知らない?」

「知るわけないだろ」

「私もだよー」


 二人して頭を捻っていると、ジンくんが戻ってきた。


「ふたり共、どうしたの?」

「おう、戻ったか」

「おかえり、ジンくん」


 ジンくんに事情を説明すると……やっぱり分かってなかったみたい。

 仕方なくユウキくんとフローラさんにも相談してみると、まさかユウキくんの家でやることになっちゃった!

 五人も上がって大丈夫なのかと心配だったけど……うん、ものすごく大きな家だったよ。ここで一人暮らしをしてるなんて、部屋がもったいないよ。


 魔導スキルの講義は概ね順調に進んだんだ。……先生は完全にユウキくんがやってくれたけど。

 私、魔導陣を描いたけど、これも教えられて描いたわけで、私も生徒だったね。

 でもでも、魔導師としての未来を捨てていた私にもその可能性を教えてくれたユウキくんにはとっても感謝してるんだ。少しだけ、魔導師としてのやり直しても良いかと思うこともできたもの。


 魔導陣が完成したら、今度はカズチくんが付与付きの素材を錬成することになったんだ。

 キルト鉱石の黄色と火属性を象徴する赤が浮かび上がる構築の工程はとても綺麗だった。

 フローラさんも感動してたみたいだし、お友達になれたら嬉しいな。


 講義の最後は付与効果の確認だったけど、それも私がやることになったの。

 火属性は私とジンくんしか持ってなかったのもあるけど、ユウキくんの心配も今なら分かるよ。

 だってジンくん、何をやらかすか分からないもの。

 指先にろうそく程度の火を灯す。これをキルト鉱石を持たない場合と持った場合で試してみた。


「……あ、あれ?」


 う、上手くできない、火がブレる。

 ただ火を灯すだけでこんなに苦労したのは初めてかも。

 ユウキくんの助言でなんとか制御することができたけど……これをジンくんがやったら大変なことになってたかもしれない。ユウキくんの家が火事になってたかもねー。


 講義も終わったお昼時、私とフローラさんは一緒にご飯を作ることにしたんだ。


「フローラさん、たくさん美味しいのを作ろうね!」

「は、はい!」


 フローラさんともこれを機に仲良くなるんだ。そう張り切っていると、唐突な話を振られてキョトンとしてしまった。


「あ、あの!」

「どうしたの?」

「……ソ、ソラーノ様は、ユウキ様のことをどう想ってますか!」

「どうって、優しいよねー」

「……そ、それだけ、ですか?」

「えっ? どういう……あっ!」


 フローラさん、もしかしてユウキくんのことが――。


「フローラさん!」

「へえっ!」


 ガシッと手を握り上下にブンブンと振りながら口を開く。


「協力するよ!」

「えっ、あの、その」

「……ユウキくんのこと、好きなんでしょー」

「……は、はい」


 最後の部分を小声で伝えると、俯き加減で答えてくれた。その頬は朱に染まりとても可愛らしい。


「今日はごめんね、二人で依頼を受ける予定だったんでしょ?」

「いえ、ユウキ様が休んでいなかったのも事実なので助かりました」

「そうなんだ。ユウキくん、頑張りそうだもんね。それじゃあ今日はフローラさんの手料理で元気になってもらわなきゃね!」

「……わ、私の、手料理!」


 やる気になってくれたみたいで嬉しいな。

 私はフローラさんと一緒にたくさんの料理を作ることにした。

 フローラさんは料理も上手で私が知らない料理を教えてもらったり、逆に私が教えたり、とても楽しい時間になった。


 頑張って作った料理はみんなでワイワイ話をしながら食べきったんだ。

 ユウキくんも喜んでくれたし本当に良かった。

 ……一番食べてたのはカズチくんだったけど。

 錬成をしてお腹が空いてたのは分かるけど、ユウキくんに一番食べて欲しかったな。

 それでもユウキくんから美味しいって言ってもらえて、フローラさんも嬉しそうだったし良かったのかな。


 よし! これからもフローラさんの恋を応援しなきゃだね!

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