お久しぶりです、歴史本

 部屋に戻った僕は何をしようかと考え始める。

 錬成本を読むのは鍛冶本の二の舞になりそうなので控えておきたい。成功した今日の気持ちを落としたくないのだ。

 ならばどうするか……久しぶりに歴史本でも読んでみようか。


「ピキュキュ?」

「遊んで欲しいの? 仕方ないなぁ」


 その前にガーレッドが遊んで欲しいと言ってくるのでそれに乗っかることにした。

 とはいえ高い高いやこちょこちょ、頭撫で撫でくらいのレパートリーで遊ぶものだからガーレッドが楽しくても僕が飽きてしまう。

 最終的にはお腹に顔を埋めて癒されるという行動に出るのだが、これがガーレッドも一番楽しいようでピキャピキャ言って喜んでくれる。


 一通り遊び終わると、ガーレッドは大きな欠伸を始めた。

 朝から出かけて、帰ってきてからは先輩に絡まれて疲れたのだろう。

 いつもよりは少し早いがベッドの上で横にしてあげると、やはり布団を嘴でめくりするりと中に入って寝てしまった。


「本当に器用だなぁ」


 感心しつつも、僕は頭を撫でる手を止めて歴史本を手に取った。

 入院中も少し読んだけど、なかなか頭に入ってこなかったから、その部分だけもう一度読み返してもいいかもしれない。

 暇だったけど、あの時はどんな素材があるのか気になって仕方なかったからね。ガーレッドとの遊び疲れもあったし。


 パラパラとめくりながらベルドランドが小国を取り込んだところまで流し読み、ゆっくりとその続きから読み始めた。


『ベルドランドは降った小国を取りまとめながら、滅ぼした中規模の国の統治に取り掛かる。

 残党軍との散発的な戦闘はあったが、大きな武力格差もありベルドランド軍の連戦連勝。残党軍も当初は活発な動きを見せていたが、その動きにも徐々に陰りが見え始めた。

 内政では先導者が育てたベルハウンド出身者が幅を利かせ、元からいた政官は不遇に扱われる――といったことはなく、その実力に見合った役職を与えられていた。

 そのように差配したのは先導者である』


 へぇ、意外だな。

 やるからには徹底的にやるのかと思っていたけど、適材適所で中国出身者も多用するとは思わなかった。


『先導者は中規模の国の有能者、実力者に役職を与えることで、力があれば成り上がれることを示した。そうすることで反感を抑えるとともに、役職を与えた者がそれでも反感を持つ者を抑制する役割も担ってくれた。

 王に祭り上げられたラウル・ホークレイは子供ながらに先導者の手腕を盗もうと後ろを常について回った。

 先導者もラウルを無下にすることなく、しかし直接指導することもなく、その姿を見せ続けた』


 ……ざ、残酷なのか、優しいのか、分からなくなってきた。

 年月が経って丸くなったのか、それとも子供には甘い性格なのか。

 どちらにしても子供のラウルにきつく当たることがないのは良かったかな。


『先導者は中規模の国を完全に掌握し、降った小国にも技術を授けることでさらなる発展を遂げる。

 結果――ベルドランドは先導者を除く誰もが予想していなかった速さで大陸随一の大国となった』


 大陸随一か。

 今の王都がどのような場所なのか分からないけど、ベルドランド――今僕がいる場所はそれほどにすごい場所なんだね。


「……そんな国が他国に戦争を売ろうとしてるのか。それはそれで怖いな」


 今の王はどこを目指しているのだろうか。大陸統一? それともその先を見据えているのか?

 そう考えると王都へ向かった二人がさらに心配になってしまう。

 そんなことを言えば、子供がそんなことを考えるなと怒られそうだが、お世話になった人の心配をしてもいいではないか。


『十年後、少年から青年になったラウルは完全に先導者を慕う青年になっていた。

 しかし、その手腕には多くの者から疑問が投げかけられていた。

 強権を振るい、逆らう者は切り、ベルハウンド出身者ですらも切り捨ててしまう。

 とある博識者は先導者に王を止めるよう願い出たのだが、先導者は動こうとはしなかった。

 とある近衛騎士は先導者に王を諌めるよう願い出たが、先導者は首を横に振った。

 とある貴族は王を暗殺しようと画策するが、数日後には貴族が謎の死を遂げた。

 先導者が何を思い、何を感じて王を止めないのかは誰にも分からず、理解されなかった。

 それでも王と先導者に逆らえる者は、誰一人としていなかった』


 ここまで読んで思ったことは――全く予想ができない人だということだ。

 残酷な面もあれば、子供に優しい面もあり、しかし愚王に成り下がろうとしている王を止めようともしない。

 ちゃんと考えているのかと思えば、その場しのぎで何も考えていないのかと思う場面もある。


「この人、マジで愉快犯なんじゃね?」


 そう決定付けたところで本を閉じた僕は、ガーレッドが眠るベッドに潜り込んで明日に備えることにした。

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