初めての依頼

 冒険者ギルドはいつも通りの混み合いを見せていた。

 屈強な冒険者たちが闊歩する光景は壮観ではあるが、子供の目線から見れば多少の恐怖感もある。

 しかし、冒険者たちは何故だか気さくに話し掛けてきてくれた。


「おっ! ケルベロスの時のガキじゃねぇか!」

「本当だぜ! 元気になってよかったな!」

「ゴブニュの旦那にもよろしく言っといてくれよな!」


 何事だろうと曖昧に頷きながら依頼者窓口へ向かうと、騒ぎに気づいて出てきてくれたダリアさんが声を掛けてくれた。


「おはようございます、ダリアさん。これって、何事ですか?」

「おはよう、みんな。ジンくん知らないの? 今声を掛けてくれた人たちはみんなガーレッドを助けるために動いてくれた冒険者の人たちよ」

「えっ! そうなんですか!」


 多くの冒険者が助けに来てくれたのは知っていたけど、朦朧とする意識の中で覚えている顔なんて一人もいなかった。

 素っ気ない態度を取ってしまったと反省して慌てて声を掛けてくれた冒険者の人は謝りに行く。


「すいません、あの時は意識も朦朧としていて覚えていなくて」

「がっはっはっ! そんなこと気にするな、俺たちは依頼があったから受けただけだからな!」

「そうそう、それに『破壊者デストロイヤー』と一緒に行動出来たんだ、ラッキーだったぜ」

「楽に大金が貰えたもんな!」


 そうは言っても危険を冒して駆けつけてくれたのだ、感謝の念しか出てこないよ。


「本当にありがとうございました」


 ぺこりと頭を下げた僕の頭を冒険者の一人が満面の笑みを浮かべながらわしゃわしゃと撫でる。


「なーに、また何かあれば頼ってくれよ!」


 ゾラさん、どれだけの報酬を用意してたんだろう。僕が働いて返せるだけのお金だったらいいなぁ。

 とりあえず冒険者の人たちへの挨拶を終わらせて依頼者窓口に戻る。


「別にそこまで気を使わなくていいのよ。相手はガサツな冒険者なんだから」

「それをギルド職員のダリアさんが言っていいんですか?」

「あら、ギルド職員だから言えるんじゃない。それで、今日はどうしたの?」


 そうなのか? まあ、本人がそう言っているのならそうなのだろう。

 そこを考えても仕方がないので本来の目的を行うことにした。


「錬成素材の調達を依頼したいんです。ユウキは今日来ましたか?」

「あー、ちょっと前にいくつかの依頼を受けて出ちゃったわ。急ぎの依頼かしら?」

「違います。練習用の素材と、将来一人前になった時用の素材の依頼なので」

「練習用の素材って、『神の槌』なら腐る程あるんじゃないの?」

「自主練習用なのであまりクランの物は使いたくないんですよね。言ったら言ったで、絶対に気にするなって言いそうなので言ってません。自分で出来ることはやっておかないと、クランに甘えちゃいますからね」

「真面目なのねー。まあいいわ、ユウキが戻ってきたら受けさせるからチャチャっと依頼しちゃって」


 窓口に戻ったダリアさんが依頼書とペンを取り出して前に置く。


「錬成素材の調達だったよね。希望の素材とかはあるのかしら?」

「あっ! それをダリアさんに質問したかったんです。この辺りで安全に取れる素材で、上質なものって何がありますか?」

「カマド付近で? そうねぇ……キルト鉱石なんてどうかしら」

「キルト鉱石?」


 耳馴染みのない言葉に僕は首を傾げる。


「カマドの南側に銅の鉱山があるのは知っているかしら?」

「近くにあるってことは知っています」

「その鉱山は麓近くだと基本的に銅が取れるんだけど、奥に行くと稀にキルト鉱石が見つかるのよ。硬質だけど加工がしやすく、武具以外にも装飾品や日用品への加工もおすすめ出来る素材だから人気もあるのよね」

「そういうことなら、銅じゃなくてキルト鉱石の採掘をメインにした方がいいんじゃないですか?」


 鉱山の奥なのであれば少し難儀してでも向かった方がいいのではないだろうか。

 僕が口にしたことは誰も考えているのだろう。それがねぇ、と前置きしてダリアさんも口を開いた。


「奥に行くと麓に現れる魔獣よりも少し強い魔獣が現れるもんだから、大勢では行きにくいのよね。人数が多いと護衛も多くなるもんだから、結局どっこいどっこいか、被害があれば銅の採掘よりも収支がマイナスになることもあるの。だから結局は銅の採掘に落ち着いているってわけ」

「なるほど。それなら仕方ないですね」

「今ではキルト鉱石が必要な人だけが取りに行ったり、こうして依頼を出してくれるって感じかな」

「ユウキでも行けそうですか?」


 キルト鉱石は欲しいけど、魔獣がいるとなれば話が変わってくる。

 何より重視すべきはユウキの安全である。急ぎでも必須でもない素材の為にユウキを危険に晒すわけにはいかないのだ。


「一人ではおすすめできないけど、誰かとパーティを組むのであれば問題ないかな」

「じゃあ、それを条件にしようかな。報酬はどれくらいがいいですか? 一応、ホームズさんからこれだけあれば足りるって貰ってきてるんですけど」


 僕は銅貨が入った袋をダリアさんに手渡した。

 中身を見て枚数を数えると、ニコリと笑ってこう答えた。


「--あの人たちは、子供にこんな大金を持たせるのかしら?」

「……へっ?」


 あれ、そんな反応は予想外ですよ!

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