出発

いざ、王都へ

 ホームズさんと一緒に『神の槌』本部を出発しようと入口に向かうと、そこには多くのクランメンバーが集まっていた。

 カズチにルル、カミラさんとノーアさん、ナルグ先輩やタバサ先輩にジュラ先輩の姿もある。

 みんなが、『神の槌』の棟梁と副棟梁の無事を祈っているのだ。


「では皆さん、後のことは任せます」

「うむ、安心して行ってくるんだぞ」

「みんな一緒に戻ってくるんだよ!」


 ホームズさんの声に応えたのは、ポニエさんとアクアさんだ。

 今日が出発日だと聞いて、急遽駆けつけてくれたらしい。


「必ず戻ってきますよ」


 笑顔で、それでいてはっきりとした口調で答えたホームズさんが歩き出す。

 僕はカズチとルルと視線を交わして力強く頷くと、ホームズさんの背中を追いかけてあるき出した。


 通りに出て北門のすぐ目の前まで進むと、そこにはユウキ、ダリアさん、リューネさんが見送りに来てくれていた。


「ジン、師匠。必ず戻ってきてくださいね!」

「ザリウス。ジン君のこと、よろしくね」

「うー、私も行きたかったー!」


 最後まで同行するのだと言って聞かなかったリューネさんだけが愚痴を溢している。


「リューネさんは国から派遣されている職員ですから、巻き込むわけにはいきませんよ」

「……悪魔事件の時に巻き込まれているんですけどー!」

「そういう問題ではありません。でも、その気持ちは受け取っておきます」

「……私は、国よりもみんなを取るからね。それだけは、忘れないで」

「……はい、ありがとうございます」


 リューネさんの心のこもった言葉に、ホームズさんは笑顔で頷いた。


「ジン。ファンズナイフを返そうか? これは超一級品だから、護身用に持っていてもいいと思うんだけど」


 小回りがきくナイフは確かに護身用として優秀だろう。だが、僕には失敗作ではあるけれど大量のナイフが魔法鞄マジックパックに入っている。


「ありがとう。でも大丈夫だよ。銀狼刀ぎんろうとうもあるし、ナイフも山のように入ってるんだ。それにさ——」


 そう言って、魔法鞄からキルト鉱石で作ったショートソードの柄をチラリと出してみせた。


「これもあるし、大丈夫だよ。ユウキはナイフ術を勉強しておいてね」

「戻ってきたら、私がナイフ術も教えますからね」

「ジン、師匠……分かりました、待っています!」


 ユウキの言葉を聞いたダリアさんが、ユウキの肩に手を回して僕達に頷いてくれる。

 僕達も強く頷き返して、北門を潜った。


 ※※※※


 門の外には今回同行するメンバーが勢揃いしていた。

 護衛担当は僕達を含めて一〇名。交渉担当と思われる人物が三名。合計一三名のパーティである。

 ホームズさん以外の全員が、僕の姿を見つけて怪訝な表情を浮かべていた。


「あー、破壊者デストロイヤー。あんたの頼みだから今回の依頼を受けたんだが、子守までするつもりはないぞ? 確か、危険な依頼なんだよな?」


 声を掛けてきたのは背中に大剣を背負った、侍のように黒髪を頭の上で結んでいる大男だった。


「彼が例の鍛冶師ですよ、ヴォルド」

「鍛冶師って……あぁ、ゾラ様の秘蔵っ子か」

「は、はじめまして。ジン・コープスと言います」


 ゴクリと唾を飲み込みながら頭を下げる。

 見た目も厳つく、腕や足の太さはホームズを一回りも二回りも上回っているように見える。

 よくよく考えると、この人が一番冒険者っぽい冒険者だなと思った。

 ユウキは新人だし、ホームズさんも見た目は文化系の細マッチョだし、冒険者ギルドで見た人は通り過ぎるくらいでちゃんと見ていない。

 ケルベロス事件の時にガーレッドを拐った冒険者のことは、頭に血が上っていたのであまり覚えていなかった。


「……何だ、礼儀正しい子供だな。俺はヴォルド・グランデだ。護衛パーティではをしている」

「な、名前だけ、ですか?」


 妙な言い回しに首を傾げていると、ヴォルドさんは苦笑を浮かべながらホームズさんを指差した。


「破壊者がいるんだ。実質的なリーダーはこいつってことだよ」

「あなただって剛力ストロンガーの通り名があるではないですか。私のは過去の名前ですし、鈍っていますから、リーダーはやはりヴォルドですよ」


 ホームズさんの言葉を慣れたように手で払うジェスチャーをするヴォルドさん。もしかしたら、このようなやり取りは二人の間で日常茶飯事なのかもしれない。


「一応、他のメンバーも紹介しておこう」


 そう言って一人ずつ自己紹介してくれた。

 斥候役が二名、赤髪のラウルさんと茶髪のロワルさん。二人は双子のようで髪の色で分かりやすくしているらしい。

 前衛が四名、ヴォルドさんの他に男性が二人で狼獣人のガルさんとドワーフのグリノワさん、女性が一人いてハーフエルフのアシュリーさん。

 後衛が二名、どちらも女性でニコラさんとメルさん。二人は魔導師で主にニコラさんが回復、メルさんが攻撃を担当する。

 ホームズさんは前衛なので、バランスが悪いように見えるのは僕だけだろうか。


「後衛、少ないですね」

「まあ、急遽集めたメンバーだからな。一応、全員が上級だ。中級を連れて行ってもいいんだが、足手まといになってもいけないってんでこうなった」


 時間を掛けることもできないし、出払っている上級冒険者がいつ戻ってくるのかも分からない。それでも、今できる最高のメンバーを揃えてくれたのだろう。

 ゾラさんとソニンさんがどれだけカマドの人達に慕われているのかを改めて感じ取り、本当に凄いと思った。


「ここで話をしているのも邪魔だな。交渉役とは移動の馬車の中で自己紹介をしてくれや」


 ヴォルドさんの言葉を受けて、みんなが移動を開始した。

 元から指示がされていたのだろう、誰一人として迷うことなく迅速に行動している。


「行きますよ、コープスさん」

「はい」


 総勢一三名のパーティは、こうしてカマドを出発した。

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