採掘を任されました

「どれ、ジンよ。上の部分を吹っ飛ばしてくれ」

「……えっ、僕がやるんですか?」

「そのために来たんじゃろう?」

「いや、ただ採掘を見ていたかっただけなんですけど?」


 いきなり任されても手加減のしようがないんですが。

 だが、僕の不安が分かったのかグリノワさんは笑いながら問題ないと胸を叩いた。


「安心しろ。これでも上級冒険者じゃぞ? ジンの魔法が鉱石までいかないようにしっかりと固定しておいてやる」

「……そ、それじゃあ、やっちゃいますよ?」

「任せろ。属性はどれを使うんじゃ?」


 どれを、と言われても何が適しているのかが分からない。

 だが、今の言い方だと上の部分を吹っ飛ばすことができれば問題はないということだろう。

 それなら火属性でドカンといってもいいし、同じ土属性で左右に土を避けてもいい。

 ほかの属性でもできそうだけど、時間が掛かりそうなので却下だ。

 僕が悩んでいると――


「ピッピキャーキャー!」

「……ガーレッドがやるの?」

「ピッキャン!」


 両手をパタパタさせてやる気満々のガーレッド。

 僕はグリノワさんに視線を向けたが、苦笑しつつも頷いてくれたので任せることにした。

 鞄から出して地面に立たせると、ぴょこぴょこ歩いて鉱山の前に立つ。


「ガーレッド、準備は良いかのう?」

「ピッキャン!」

「よし、それでは……うむ、よいぞ」

「ビーギャアアアアッ!」


 地面に手をついてグリノワさんが合図をくれた後、ガーレッドが口を大きく開けると、細い線で火が出てくると目の前で渦を巻き巨大な火の玉を作り上げていく。

 鉱山を吹っ飛ばす為だろうか、ヒュポガリオスを撃ち落とした時よりも大きな火の玉は、ガーレッドの後方にいる僕の肌に熱風を叩きつけてくる。

 そして、撃ち出された火の玉は着弾と同時に轟音を響かせて鉱山を吹き飛ばしてしまう。


「ジン! 瓦礫を任せるぞ!」

「はいはーい!」


 これ、僕が鉱山を吹っ飛ばしてたらどうやって守ってたんだろうか。

 そんなことを考えながら、風属性を発動させてこちらに飛んできた瓦礫を脇に押しのけていく。

 僕たちがいるところだけは何も降ってこず、周囲には大量の瓦礫が山のように積みあがっていた。


「……うむ、問題ないのう」

「ピッキャキャーキャー!」

「ありがとう、ガーレッド。助かったよ」


 すぐにガーレッドを抱き上げて頭を撫でると、胸におでこを擦り付けて喜んでくれている。

 僕は立ち上がったグリノワさんと一緒に鉱山があった場所に移動して大きな穴の中へ顔を覗かせた。


「……おぉ、あそこの地面だけきれいな平らになってますね」

「固定魔法のおかげじゃな。しかし、ガーレッドの炎は凄い威力じゃったのう」

「ピキャキャー?」

「危うく儂の魔法が負けるところじゃったよ」

「そ、そんなに凄かったんだ」

「ピッキャキャーン!」


 もしかして、王都で暴れた時よりもさらに成長しているんじゃないだろうか。炎晶石を食べさせているのも関係しているのかな。


「さて、それじゃあ採掘を始めるとするか」

「ヒューゴログスの時は土を掘るだけで勝手に零れてきましたけど、下に埋まっている場合はどうするんですか?」


 普通なら穴の中に下りて地道に運び上げるんだろうけど、風属性があれば瓦礫を避けた時の応用で鉱石を押し上げて運ぶことは可能だろう。


「儂らの場合は土を迫り上げて鉱石を運ぶが……ジンは他にもやりようがありそうじゃな」

「風属性を考えてましたけど、土を迫り上げた方が雑にならずに運べそうですね」

「よし、それではそれでやってみるか」

「……また僕ですか?」

「もちろんじゃろう。せっかくの機会じゃ、色々とやってみろ」


 任されたなら、しっかりとやるのが僕である。

 風属性を用いて僕は穴の中に飛び込むとゆっくりと下りていく。

 平らになっている地面に下り立つと、土をゆっくりと掘り進めて鉱石を探し始めた。

 グリノワさんが鉱石のすぐ上を固定させていたからだろう、あっという間に美しい青色の鉱石が姿を現した。


「……おぉ、綺麗ですね」

「水属性に適性があるアクアジェルじゃのう」

「風の次は水ですか、ここの鉱山は凄いですね」


 属性に適した鉱石がこんなにまだ残っているなんて……本当にもったいない。

 このまま採掘を繰り返したら、お小遣いと呼べない程の金額が稼げそうな気がする。


「それじゃあ、運び出しますねー!」

「おぉ、頼むぞー!」


 ある程度土をどかした僕は、アクアジェルを掘り出して一気に迫り上げていく。

 ヒューゴログスも結構な量があったのだが、アクアジェルも同じくらいの量が埋まっている。

 だが、結果的にヒューゴログスよりも多い量のアクアジェルを手に入れることができた。


「……これ、本当に戻り次第で報告するべきだな」


 溜息をつきながら、僕は穴から出てきて魔法鞄にアクアジェルを入れていく。


「……あれ? これって、僕が最初から魔法鞄に入れた方が楽だった?」

「なんじゃ、今頃気がついたのか?」

「き、気づいていたなら言ってくださいよ!」

「ガハハハッ! まあ、これも経験じゃな! 魔法だけじゃなく、自分が持っている全てを考慮して最善を選択できるようにするんじゃぞ!」


 時間だけを無駄にして、僕はさっさと作業を終わらせた。

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